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ブルーピリオドに心を激しく揺さぶられたので感想を書いた

数学者の友人の勧めでブルーピリオドを読んだ。一話から涙が出た。

ブルーピリオドとは、アフタヌーンで連載中の芸大を目指す若者たちの漫画だ。作者の山口つばささんは東京藝術大学卒であり、当漫画は芸術に対してとても論理だったアプローチをしている。

世渡り上手な努力型ヤンキーが絵を描く悦びに目覚める! 絵を描かない人にも刺さる熱くて泣ける美大受験物語!

ブルーピリオドについての解説はここまで。あとは自身が受けた感動について書く。

人生をかけて何かに打ち込んだ人の想いというのは、何故かすぐに伝わる。自分もそうだったからだろうか。この漫画にはその瞬間すべてを犠牲にしても、自身の信じるのものために生きた人の信念や情熱、初めて触れた感動の瑞々しさにあふれている。

主人公の八虎が渋谷の街をイメージし筆を執った瞬間の胸の鼓動。頭の中を初めて形にする解放感と恐怖。世界が青に染まる感覚というものを僕は知っている。

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渋谷の青の景色を描きあげた時、「ちゃんと人と会話できた気がする」と八虎は気付く。絵画や音楽は、嘘がつけないから。普段飲み込んでた想いや、言語化できない全てがそこに現れる。言葉で伝えられないものに形を持たせるって感覚、芸術の本質に迫るシーンだと思う。すごく好きだ。

20のころ。ただやみくもに、芸術というものに近づきたくて。自身の5年後など全く興味がなく、日々を絞り出していたころの景色が一気によみがえった。「あの頃」というものに否応なしに引き戻される、そんな力をブルーピリオドは持っている。

この漫画のキャラクターはどうしてこんなに魅力的に描かれているのか?

1つは口の描写だ。有名な逸話にブラックジャック後期においてブラックジャックの口の線が震えているというものがある。それは、口をかたどる線の一本が、そのコマそのページを決定づけるほど重要なものであり、それ以外あり得ないという細心の注意を払って描かれたからだと聞いたことがある。

ブルーピリオドにも同じことがいえる。キャラクターの口がすべてを物語っている。その線は震えながらも実に雄弁である。

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例えば上のコマからは、新しい世界への喜びと不安、笑っているような、少し戸惑っているようなキャラクターの繊細な気持ちが左右非対称の口からにじみ出ている。

八虎と同じ受験生の桑名の絵を描く時の口が好きだ。桑名は予備校で一番技術があり、姉も芸大主席合格のサラブレットの家系のはずなのに、絵を描く際の表情は一番険しい。歯をむき出しにして何かに耐えるようにキャンバスと向き合う。

大学で受けた講義で「芸術の半分は技術でできている」と教えられたことをよく覚えている。世間では芸術は才能ある人がチャッチャとやるもんだと思われている節が今でもあると感じる。芸術系の漫画も実際そういうものが多い。

ブルーピリオドは全く違う。芸術を芸術たらしめるための気の遠くなるような努力と苦悩が描かれている。その点も本当に素晴らしい。

学歴を重ね、公務員や名の知れた企業に入り日々をおくるといった一般的なルートから外れるのはとても勇気が必要で、孤独だ。きっと芸術というのはそんな孤独と向き合い、ひたすらに刀を研ぐように自身を擦り減らしながら歩まなければならない。

かつて自分の信じるものへ日々をささげたことがある人、今不安を抱えて理想へ歩もうとしている人達はこの漫画に勇気づけられたり、慰められたりするだろう。自分は間違っていなかった、であったり、あの日々は無駄ではなかったなんて思うだろう。

僕も音楽の道を歩み切れなかったことをずっと恥ずかしく思っていたし、今でも悔いている。しかし、登場人物たちの激しい情熱に触れ、どこか「あぁそういやこんなこと考えてたな」って、これまでの日々が昇華された。

では、芸術の残りの半分は何か?情熱という名の呪いだと思う。

僕の最も好きな画家「ポール・ゴーギャン」をモチーフとした「月と六ペンス」という小説の中で、主人公に家を捨ててまでどうして絵を描くのかと尋ねた際の回答を以下に記載する。

「おれは、描かなくてはいけない、といっているんだ。描かずにはいられないんだ。川に落ちれば泳ぎのうまい下手は関係ない。岸に上がるか溺れるか、ふたつにひとつだ」

そう、やらずにはいられない。情熱を呪いと書いたが、頭にこびりついて離れないんだ。ブルーピリオドの中でも、そんな八虎の執念と狂気が見受けられる。

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この感覚。わかる人には痛いほどわかる。

ブルーピリオドはご多分に漏れず白黒で印刷されているのだが、時々フルカラーだったっけこの漫画?となることがある。

溢れんばかりの情熱に出会えたことに感謝する。

少し読み進めることが怖い。


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