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お金で買える幸せ

今日、幸せを買った
少しの悲しみとともに、幸せを買った

わたしの好きなものの一つであるところの香水
まだまだ全然詳しくないし、たくさん種類を持っているわけではないのだけれど、ここ最近の趣味の一つと言っても過言ではない

ペンハリガンのポートレートシリーズ
3万ちょっとの香水は気軽に手を出すことは出来ないけれど、その分選ぶときのときめきと、買ったときの感動はひとしおだ

ペンハリガンのポートレートシリーズは、それぞれの香水にモチーフとなるキャラクターが在り、それぞれの物語が在る

昨年12月、銀座三越へとポートレートシリーズを買うぞと意気込んで向かった
いつもより気合を入れて化粧をして、少しでも大人っぽく見える服を選んだ
目をつけていたのはラドクリフとボーレガード
どちらも男性をモチーフにした香り
可愛らしさ、女性らしさよりも、かっこよさ、気高さを求めるわたしにとって、メンズ向けのフレグランスを纏うという行為そのものが、とてつもなく魅力的だった

三越の店員さんはとても丁寧で優しく、散々迷ったわたしに最後まで寄り添ってくれた
会話の中から好みの香りを探し当ててくださって、一緒に悩んでくれた
ムエットにたくさん香りを出してくれて、その香水の裏にある物語を詳しく説明してくれる
新たな選択肢を提示してくれるし、率直な感想も伝えてくれる
わたしの好みを考えて、店員さんが客観的に見たわたしのイメージも伝えてくれて……
買うかどうかもわからない客に対して、ここまで寄り添った接客ができることにただただ感動した

「男性的な香りも似合いますね。でもどこか甘さがあったほうがいい」
「この香りはオシャレな女性に纏ってほしくて、すごくお似合いです」
別に自分がオシャレだとは思わないけれど、香水を選ぶために気合を入れた今日の服装も褒めてもらえて、すごく嬉しかったのを覚えている
最終的に、元から目星をつけていたラドクリフとボーレガードを片腕ずつつけて、香りの経過を見ることに
面白いことに、ラドクリフをつけた瞬間に店員さんとわたしの目があう
二人ともこれだ、という顔をしていた
ボーレガードもつけて、しばらく三越をぶらつく
何度も試しに匂いを嗅ぐ
単純な好みで言えばボーレガード、だったと思う
ただ、ラドクリフの少しクセのある香りがどうしても忘れられなくて、どうしてもこの香りを纏っていたいと思った
ラムと煙草、ジンジャーブレッドが織りなす退廃的な香り
華やかで社交的だがどこか憂いのある男性をイメージした香りだ

その日わたしは、自分が纏っていたいと思える素敵な香りと、その香りを選ぶための店員さんとの楽しい時間を買ったのだった

そして昨日、ポートレートシリーズの一部が廃盤になったことを知った
ラドクリフとボーレガード、ブランシュ夫人の三つが廃盤になるのだそう
どこを調べても、ツイート以外にソースが見つからなかったが、通販のページはNot Foundだった
その情報はもうとっくに出回っていたようで、既に店舗に在庫がないというツイートも見られた
悶々とした夜を過ごした
仕事が終わったら、すぐに三越に行ってボーレガードがないか聞いてみようと思った

一縷の望みをかけて三越へと向かったが、ボーレガードは既に売り切れていた
対応してくださったのは、ラドクリフを買ったときの店員さんだった
店員さんはわたしのことを覚えていてくれて、前回ラドクリフとボーレガードで迷われてましたよね…?と声をかけてくださった
結局そのまま、ポートレートシリーズをひたすら香った
気になっていたジュニパースリングも香って、楽しい時間を過ごした

「サンプルでもらったクララは少しパウダリーすぎる」
「クルジャンのバカラルージュみたいな焦げた甘さが意外と好きだった」
そんな話をしながら、一緒に香水を楽しむ
香った香水のイメージを言葉にすると、店員さんが的確な言葉でさらにイメージを深めてくれる
わたしは自分を客観視することがひどく苦手だから、店員さんのイメージを聞いたり、どれが似合うというのを聞ける空間はとても実のあるものだった

相も変わらず男性モチーフの香りに惹かれがちのわたしだったが、前回も男性モチーフだったので、次は女性モチーフはどうですか、と言われる
わかるわかる
ラドクリフを買ったから、クララもいいけどもう一癖違う感じが欲しいですよね
わかるわかる

普段の趣向とは違う、爽やかで明朗な、それでいて色気のある女性らしいヘレン
控えめなグルマンの甘さとジンジャーが織りなす大人の女性の香りのドロシア

散々迷ったわたしは、廃盤が決まっているドロシアを手に取った
店員さんはヘレンが似合うとすごく推してくれていた
わたし自身も普段手に取らないが、ヘレンはとても素敵な香りでこの香りが似合う女性になりたいと思った
かなり迷ったけれど、廃盤の二文字とグルマンの甘さの魅力に惹かれ、ドロシアを選んだ
今度はまた男性陣を買いにくると思います、きっとヘレンも買います、それまでお仕事頑張ります、というと、店員さんは素敵な笑顔で笑ってくれた

ボーレガードが廃盤になってしまったこと、手に入らなかったことはやはり大きな悲しみだった
それでも、香水を愛している店員さんと、香水の話をして、自分自身に寄り添った接客をしてもらって、素敵な香りの香水をお迎えした
そんな幸せは、何物にも代え難い

ただお金を払って商品を買うのではない
売買行為を通して、有識者と語らう経験と時間、幸せなひとときをも購入した

人が生み出す付加価値、人と人が触れ合うことで生まれる価値
不景気な時代だからこそ、人と人の触れ合いが憚られる世の中だからこそ、改めてその価値を知る

わたしは今日、確かに幸せを買った

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