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その日、全世界で

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一羽のすずめの小説『その日、全世界で』をまとめて読めます。
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#その日全世界で

その日、全世界で(最終章)

最終章 希望    長電話をしていた私を心配そうに見る主人と勇太がソファーに座っていた。私が電話をしている間に勇太は帰宅して、着替えていた。亮介はまだだった。  「亮介から連絡あった?」  「何もないからもう帰るんじゃない?そろそろ食べる準備しておこうよ」  フライパンに置いていたひき肉を温め始めると、すぐに亮介も帰ってきた。手にはコンビニで買ったファミリーサイズの大きなチョコレートアイスが見えた。今晩のデザートのようだ。気の利く息子である。  家族みんなが今日あった出来事を

その日、全世界で(第9章)

第9章 奈々子からの電話    主人の様子がいつもと違う。私の話がまったく耳に入ってないように思える。上の空という感じで、ただただ口にご飯を入れているという感じだ。  急に実母がいなくなったショックは、はかり知れないのかもしれない。でも、なんか様子が変だ。  「お母さん家に行っていたの?何かあった?」  「いや、何かあったというか、あれだな。どう言えばいいのかが難しくてさ」  「誰に?何を言うのが難しいの?」  「近所の人に。お母さんがなぜいなくなったかを聞かれたときの・・・

その日、全世界で(第8章)

第8章 決心    動画に集中していると、私の携帯が鳴った。由香の携帯からだった。  「もしもし」  「すみません。由香の母です。みゆさん、何かわかりましたか?テレビでは世界中で多くの人がいなくなっていると言っていますし、やっぱりこれは何者かに・・・」  「いえ、違うと思います。今日そちらに伺ってもいいですか?私、お話したいことがあります」  「もちろんです。何時に来られますか?」  「今から支度をしてすぐに伺います」  バスと電車を乗り継いで、由香の家に着いたのは午前11時

その日、全世界で(第7章)

第7章 思考停止    「お母さん汗かいたからお風呂に先に入るね」  泣きはらした顔を見られるのが嫌だったので、顔を下にしたまま台所を通り過ぎ、洗面所とお風呂場に向かった。お風呂にお湯を入れている間に、着替えを取りに行って、洗顔をし、見事にはれあがった無残な顔を眺めた。今日は楽しく過ごすはずだったのに、何をやっているのか?自分で自分が嫌になった。本当はココや由香のようになりたい自分がいるのに、なぜ反抗的な態度でしか接することができないのか?  お湯が溜まるまで、自分の腫れあが

その日、全世界で(第6章)

第6章 再会  いろんな思いを巡らしていると、由香から電話がかかってきた。そして咄嗟に出てしまった。日曜の正午も過ぎた時間だし、教会の礼拝はとっくに終わっている。  「みゆ?よかったー。出てくれて。今、ココも一緒なの。今日も仕事ある?」  今日は朝早くから主人が息子たちと釣りに出かけたので、私は暇だった。だから、一人でボーっとしながらチョコパイを食べてミルクティーを飲んで、色々と考えていたのだ。  「何もないよ。今チョコパイ食べていたところ」  「昼食はもう食べた?」  「

その日、全世界で(第5章)

第5章 義母からの電話    いつも通りの長電話になりそうなので、私は夫に先に食べるねとジェスチャーで伝え、先に食べることにした。夫も話が長くなると見込んだようで、寝室に行って話をし始めた。私は夫と残りのチキンカレーを食べようと、鍋を開けた。  (ほぼない。これは、一人分もないな。亮介と勇太、大盛で食べたな。仕方ないか。じゃ、康介には食パンにカレーを載せて、その上からミニトマトとスライスチーズを載せて、チーズカレートーストにしてもらって、私は納豆ネギ卵と市販のみそ汁にしよう)

その日、全世界で(第4章)

第4章 ありえない話    義母のリハビリセンターでの入院生活が始まり、我が家も落ち着いてきた。由香からのメールも毎日続き、祈ってくれている事も分かっていたので、転院したことと、義母の信じられないくらいの変わりようをメールで報告すると、お祝いしようとメールがきた。  すぐさま、断りのメールをしようとしたら、先に由香からのメールが届いた。  「ボーナスが入ったからおごるよ。みゆの好きなお寿司でも食べに行こうよ。私、高級なお寿司屋さんを知っているから」  断るはずだった私の指が

その日、全世界で(第3章)

第3章 謎のイライラ  それから、1か月が過ぎ、また由香から連絡があった。今度はココと三人で会わないかという連絡だった。特に用事も予定もないくせに、仕事が立て込んでいるから無理だと連絡してしまった。私は完全に、彼女たちから逃げている。自分でもそれが良く分かった。  それから数日後、義母の田村慶子が骨折していると分かって、大急ぎで入院、手術となった。いつの時点で骨折したのか、もともと骨折していたのかはわからないが、なんとか無事に手術も成功した。祖母と同じ圧迫骨折だった。圧迫骨

その日、全世界で(第2章)

第2章 ココとの思い出    家に着くまでの電車やバスの中で、高校時代の出来事を思い出していた。私と由香とココは同じクラスで英語好きという共通点があった。よく洋楽や洋画の話をして、将来は英語を使った職に就きたいなどと夢を語っていた。そんなときにココが英会話学校の講師から教会に誘われ、通い始めた。  ココはその教会に通い始めてから、人が変わってしまって、あまりみんなと話さなくなり、私たちの輪の中にも入ってこなくなった。  日曜日に遊びに行く約束を持ち掛けても、ココは、決まって日

その日、全世界で(第1章)

第1章 由香の告白    暗いニュースばかりで落ち込んでしまう私が唯一楽しみにしているのは、お笑い番組だ。最近はテレビ番組でなくても、自分の好きなコントや漫才をYouTubeで見ることができるのでありがたい。この世の嫌なことを一瞬だけでも忘れさせてくれるお笑い芸人さんには本当にリスペクトしかない。私にとっては、ありがたい存在だ。  夜11時になると私、田村みゆは床に就く。いつもの通り、私が横になると、決まって左脇のあたりにミルクがやってきてすぐに寝る前のルーティーン、毛づくろ

その日、全世界で(序章)

序章    「お母さん、フライドポテトの後は甘い物がほしいよね?さっき、お母さんが好きなハーゲンダッツ買っといたからさ、食べたら?お母さんだけ二個食べていいよ。何がいい?」  「ありがとう、亮介。お母さんは抹茶とバニラがいいな」  私がハーゲンダッツを食べ始めた時、主人と勇太はソファーに座り、携帯でバトルゲームをしていた。ゲームをしながら勇太が急に顔を上げ、カレンダーを見て言った。  「お父さん、今日って巨人阪神戦じゃなかった?もう終わったかな」  「おっ、そうだったな。ゲー