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その日、全世界で(序章)

序章
 
 「お母さん、フライドポテトの後は甘い物がほしいよね?さっき、お母さんが好きなハーゲンダッツ買っといたからさ、食べたら?お母さんだけ二個食べていいよ。何がいい?」
 「ありがとう、亮介。お母さんは抹茶とバニラがいいな」
 私がハーゲンダッツを食べ始めた時、主人と勇太はソファーに座り、携帯でバトルゲームをしていた。ゲームをしながら勇太が急に顔を上げ、カレンダーを見て言った。
 「お父さん、今日って巨人阪神戦じゃなかった?もう終わったかな」
 「おっ、そうだったな。ゲームなんかしている場合じゃなかった」
 主人が携帯を置いて、プロ野球のナイター中継を見ようとテレビをつけた。
 「あれ?巨人阪神戦やってないな。おいおい。これはやばいよ。なんかあったみたいだよ。どのチャンネルもみな同じニュースだ。911や東日本大震災の時みたいになっている。どこだろ?これ。アメリカかな?なんか高速道路で衝突事故みたいだ。凄いことになっているよ。このチャンネルでは空港で人がパニックになっている。なんか電車も脱線事故多発とある。なんだ、これ?世界同時テロか?サリンとか、生物兵器がまかれたのか?爆破テロなのか?みゆ、亮介、勇太これは異常事態だぞ!」
 主人が私たちに向かってただならぬ声で叫んだ。私と一緒にアイスを食べていた亮介も慌てて携帯で検索し始めた。
 「お母さん、ネットニュースも変だよ、世界中で人が急にいなくなったって」
 亮介の緊迫した声で、勇太も自分の携帯で検索し始めた。
 まさか、これが由香やココの言っていたあの「携挙」なのか?
 
 「コロナで世界危機」
 「ロシア、ウクライナに侵攻」
 「小麦粉など世界で食糧難」
 「世界中で大地震頻発」
 「台湾有事年内にも」
 「安倍総理暗殺」
 「北朝鮮ミサイル乱発」
 「トルコとシリアでメガ地震」
 「食糧難でコオロギ食」
 
 最近のニュースで明るいニュースなど見かけることはない。どれもこれも、不愉快で憂鬱になるものばかりだ。長く生きてきたけれど、これだけ世界が、いや日本の社会情勢が悪かったことがあっただろうか。
 ここは日本で、「世界一安全で平和な国」と長年うたわれてきた国だ。それが、今ではどうだろう。お隣の国に土地をどんどん買収され、いや土地だけではない。電力でさえ、外国企業が参戦している始末である。有事に対する警戒心が皆無だ。
 あちらこちらの国から来た不法滞在者が頻繁に犯罪を続けても取り締まりがきつくなるわけでもない。それどころか、強制送還になっても、逃げだした輩が半端ではないそうで、先日某ベテラン議員が国会で吠えていた。
 テレビだけを情報源にしている人々は気づいていないかもしれないが、現在の日本は「瀕死の状態」であると言っても過言ではない。いつ、国として体をなさなくなるか分からない状態なのである。
 このような現実を突きつけられるニュースを毎日読んでいると、憂鬱な気分になる。だが、実際に社会全体がどんよりしていて、活気がないように感じるのは私だけではないはずだ。
 連日のように、どこかの電鉄会社で人身事故があり、電車が一時的に止まり、遅延している。電車だけではなく、ビルの屋上からの投身自殺、車内での練炭自殺、一家心中など、目をそむけたくなる悲しい事件が後を絶たない。
 今、日本だけではなく、世界中が異常なほどに混沌としている。しかし、そのことに気づいている人は意外に少ないのかもしれない。

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