2.俺も生徒会

【登場人物】

高木 秀才(たかぎ ひでとし)、原 春(はら はる)、原 秋(はら あき)→『1.これが生徒会』参照。

島田(しまだ)→秀才と秋の担任。

上里(かみさと)→生徒会顧問。家庭科教師。

秀才の両親

以前の物語はマガジン『これが生徒会!』(https://note.com/ichiroiro/m/m3e293ebb4fd4)へどうぞ!

俺も生徒会

ナレーター:生徒会役員になる。ほとんどの生徒は内申書の為にしている事だろう。「この学校を変えたい」「より良い学校生活の為に」そんなのは形だけだ。この学校の生徒もまた、生徒会なんてその程度に考えている。しかし…

島田:えーっと…高木君?何か用事があるんじゃないの?

放課後の教室にて、秀才の異様な圧に圧される島田。

秀才:は、はい、その…

生徒会役員になりたいと言い出せない。

秀才:生徒…

島田:生徒?

島田は書類を束ねつつ秀才の言葉を待つが、一向に言葉が出てこない。

島田:高木君、ごめん。放課後ってさ、先生はまだ仕事があるんだよね。用事がないようなら

秋:生徒会役員になりたいんです!

秀・島:え?

秋:あ、私じゃなくて高木さんが!…先生、高木さんずっと前から生徒会役員になりたいって言ってたんです。ならせてあげてください。たぶん、誰よりも真面目にやりますよ(笑)

島田:そうなんだ。すごい顔で見られるから正直怖かったよ。……えっと、思い切って?言ってくれた所悪いんだけど、生徒会顧問の上里先生に言ってくれるかな?ごめんね。

立ち去る島田。呆然と立ち尽くす秀才。

秋:秀?…秀?

ナレ:秋はだんだんと悟った。生徒会になりたいと先生に伝える、その難関が再び秀才に立ちはだかっているのだと。


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家庭科準備室前。緊張してノックすらできない秀才と何ともない秋。

秋:秀、早く。

秀才:こら!急かすな!こら!

秋:うるさいなぁ、もう。(ノック)

上里/秀才:はーい、待ってね。/うわぁぁぁぁぁ!!!!!

上里の返事と秀才の叫びが重なった。

上里:え、え、え!?どうしたの?

秋:あ、今のは何でもないんです。高木さんがお話があると言うので連れて来ました。私はこれで。 

必死にしがみつく秀才。

秀才:ちょ、秋、見捨てるのか!!!!

秋:見捨てるって大袈裟ってか…むしろ親心みたいなもんだよ?さっき助けてあげたでしょ?お母さんもう行くからね!

立ち去る秋。

秀才:くっ…秋が作ってくれたこのチャンス、逃すのはもったいない。秋に失礼というもの。春だって応援してくれた。そして自分は生徒会長になる身…この程度でウジウジして情けない。こんなザマで学園が治められると言うのか…?

ナレ:まるで一国を治める運命を背負っているかのようだ。そしてついに

秀才:あの、僕…生徒会に入りたいんです。えっと…

ナレ:言った…!ついに自らの口から。しかし秀才はすぐにあれこれ考え始めた。ただ「なりたい」では熱意は伝わらないだろう、こんな簡単に生徒会役員の一員になどなれるはずもない。例えばこう、志望動機なんかが必要なのではないだろうか?

秀才:そ、その、僕が生徒会に入りたいのは…えっと…

上里:あー、そう。ちょうど庶務が空いてたのよ。よろしくね。

職員室へ向かって歩き出す上里。

秀才:えっと…あの……ん?今何と?よろしくと言うのはつまり…

秀才:あ、あの!僕は生徒会役員という立場を仰せつかって…えと、役員になってもよいのでしょうか!?

上里:何、堅くなってんの(笑) 今週金曜が、今年度初めての役員会議だからよろしく。

サラッと言い、上里は立ち去った。

秀才:よっしゃーーーーーーー!!!!


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春:ほー。良かったじゃん。

高木家。秀才の喜びように少々引きつつもちょっと嬉しい春。

秀才:春、俺は生徒会だ!庶務だ!

春:うん。

秀才:庶務だぞ!?

春:うん(笑)…おめでとう。

秀才:庶務って何だ?

春:うん。…え?

秀才:……

春:分かんないのに喜んでたの?

秀才:春様、庶務とは何なのか教えてはくれまいか?

正座で手を付き頼む秀才。

春:そんなにかしこまらなくても。んーと、俺もちゃんと分かってはないんだけどね。なんか雑用?そんな感じ。学校によっては庶務自体なかったり、あっても名前だけってとこが多いらしいよ。でもうちは学校行事とか地域とのふれあい活動みたいなのにも積極的に関わるみたいだから、秀的にやりがいあるんじゃん?

秀才:なるほど、雑用か。

何やら考えている様子の秀才。それを見て不安になる春。憧れの生徒会と思ったら雑用…

春:あの…さ…ちゃんと必要な役職だからあるんだよ。だからそんな気に病む…てか、気にする必要ないと言うか…

秀才:ふはははは!そうか、雑用!そこから成り上がるサクセスストーリーというヤツだな!やってやろうではないか!!!!

大丈夫だった。

ナレ:その後、しばらく秀才の妄想サクセスストーリーを聞き流した春であった。

秀才の母:ただいま~。

春:あ、おばさん帰ってきた。じゃ、帰るわ。

秀才:な、何ッ!?

秀母:春君来てたの?ご飯食べてく?

春:大丈夫。うちももう夕飯なんで!

秀母:そう。じゃ、またね。

春:ありがとうございまーす。じゃ。

春は、生徒会入りを存分に報告しろよという思いを込め秀才の背を軽く叩き帰って行った。

秀母:なんか盛り上がってたみたいだけど、何話してたの?

秀才:え?別に…何でもないよ。

秀母:何??お母さんに言えない事?中学生だもんね。そういう事もあるよねぇ。でも気になるなぁ。うーん…こういう時は放っておくのが親として正解?

母は1人でキャッキャしている。

ナレ:秀才は生徒会役員になったと言うのをためらっている。決して親と話したくないだとか、そういうことでは無い。ただなんとなく…言いたくない。

秀母:え?…もしかして深刻な悩み?

秀才:いや、違う。その…

秀才:悪い事だと勘違いされるのも面倒だし、いずれ分かる事だよな…

真剣な面持ちの母。

秀才:生徒会に入った!

秀母:…生徒会?あんたが?…えー?本当に!?えー!(笑)

母は大笑いしている。

秀才:だから言いたくなかった。

秀母:あんたが生徒会。そうなの。

秀才:そんなに馬鹿にしないでよ。

秀母:まさかあんたがねぇ。できるのかなぁ。人前で話したりする機会もあるんじゃない?

秀才:別にできないわけじゃ

ナレ:秀才は人前に立つ事自体は平気だが独自の世界観に浸る癖がある為に、なかなか話を聞いて貰えない。それ自体は分かっていて、そんな姿を家族に見られるのは恥ずかしいという思いが幼い頃からある為に、実は家族の前ではおとなしめに過ごしてきた。生徒会長になりたいなんて事も家族には話した事がない。

秀才:憧れの生徒会長。頭の中でのシミュレーションはバッチリだ。しかし、事はそう簡単に進まないかもしれない。俺なりに想定はしている。

ナレ:親と言うのは、ある種の謙遜なのか……我が子の事を控えめに捉える事がある。

秀才:そんなに笑わなくたって!

ナレ:「頑張ってね」くらいは言って欲しかった。親からしたら無理かもしれない。でも、ちょっとくらい期待して欲しかった。

これ以上は何も言えず俯く秀才。

秀母:…ごめん。なんか、秀が生徒会とかやるなんて、思わなくて…

気まずい間。

ナレ:この子は昔から何でも一生懸命やる子だ。本人なりに考えて目標を掲げ頑張る子だ。それを誰より見てきた自信があった…はずだった。

秀母:秀才、ごめん!真剣にやろうとしてるんだよね。生徒会みたいな、皆をまとめる役割を秀がやるとは正直思ってなくてね、びっくりしちゃったの。…言い訳になっちゃうけど、お母さんが中学生の頃の生徒会はどっちかと言えば目立ちたがり屋の子達がやってる感じだったから…勝手にそんなイメージだったのかな。……秀は真面目にやる子だもんね。笑うなんて失礼だよね。

母の反省は伝わって来たものの、まだモヤモヤが晴れない秀才。

秀才の父:ただいま~。

秀父:ん?どうした、どうした?暗いな、2人とも。

秀母:お帰り。早いね。

夕食を作らねばと思い、買って来た食材を出し始める母。

秀父:今日は仕事が思いの外早く片付いてねぇ。それより秀、なんかやっちゃったか?

ふざけ半分で尋ねる父。

秀才:………生徒会に入った。

秀父:え!生徒会!?

秀才:またこのリアクションか。

秀父:凄いじゃんか!よくやったなぁ!

痛いくらい秀才の頭を撫でる父。

秀父:聞いたか?生徒会だってよ!やりやがったよ、こいつ!

秀母:やりやがったって(笑)まだ役員になったってだけで活動は始まってないでしょ。

母には秀才がなんとなく笑顔になったように見えた。

秀父:いやいや、秀ならやると思った。大物になるよ。頑張れ!

ナレ:大物だなんて大袈裟だ。……いや、大袈裟なんかじゃない。生徒会長になるんだ。

秀才:頑張る。ありがとう、お父さん……お母さん。

ナレ:秀才の「ありがとう」を聞いて、母は何故か涙が出そうになった。

俺も生徒会