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象の男根と私のフェロモン

 まん防こと、まん延防止等重点措置が解除された。まんは無事に防止されたのか、よくわからないが、兎にも角にも桜はまん開だ。まん開は誰にも止められない。埃っぽい春の陽気が、私に誘いをかけてくる。東京都の施設の閉鎖が解除されたということで、家族を連れて多摩動物公園へと出掛けることにした。

 この動物園は都の施設ということもあり、全体的にサービス業的な感覚が緩い。区民プールなどもそうだが、アズ・ユー・ライクな雰囲気が、私としては居心地がいい。お役所仕事は私の嫌いなものの筆頭であり、手続きの際などは「サービス業を見習え」と言いたくなることが多いが、まあ、物事の好きな部分と嫌いな部分というのは、意外と同じ根から生えているものなのだろう。

 象のゾーンに差し掛かった時、子供らの「うんこしてる!」「すっごい大きい!」という声が聞こえてきた。急いで駆けていく。おお、これは見事なうんこだ。快便は気持ちがいいものである。小便も出た。ちょっとした滝のような迫力。感心する。それから「なんか、うんこぶら下がってるね」という子供の声が耳に入る。何のことだろうと改めて象に目をやると、確かに股の間から何かが垂れさがっている。が、それはうんこではなかった。それは男根であった。

 地面に付きそうなくらい伸びた男根は、実に立派なものだった。まるで三本目の足。久しぶりにたくさんの人に見られて、興奮しているのだろうか。草食動物の勃起した男根はべらぼうに大きい。そんなものを目にする度に、私はいつもあのことを思い出す。小学生の時、なぜだったかは忘れたが、近所の広場に馬がやってきた。馬に乗れるということで、私はわくわくしながら広場へと向かった。

 結論から言うと、私は馬には乗れなかった。馬は私を乗せることを嫌がり、その背中から強引に振り落とした。そして、地面に倒れる小さな私に覆いかぶさってきたのである。馬は荒ぶっていた。凄まじい迫力だった。恐怖におののきながら、私は目撃した。私に襲いかからんとする馬の、ギンギンに勃起した男根。ギネス級の巨大なサラミ、という感じだった。先っぽから汁が出ていた。

 私はよく雄の動物に欲情される。友達の家の犬に犯されそうになったこともあれば、中学校に入り込んできた野良犬に精子をかけられたこともあった。何かそういったフェロモンが出ているのだろうか。人間の雌にもそれくらい欲情されてみたかったものではあるが、まあ、動物だろうが、雄だろうが、自分がそのようなセクシャルな存在と見られていること自体は、悪い気はしないかもしれない。

 春の陽気の中、動物園を歩きながら、そんなことをぼんやり考えた。日中は暖かいとはいえ、日が傾いてくると少し肌寒い。もうそろそろ帰ろうかというところで、息子らが「トウヤン(息子らは私をそう呼ぶ)、バク見なくていいの?」と言う。私がバクを好きだということを、息子らは知っているのだ。最後にバクを見ていくことにした。バクもギンギンに勃起していた。春である。


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