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トロント住まい探し

来年からトロントに夫婦で移住予定の方やトロントに来たばかりの方と住まい探しに関する話をしていて、なるほど、住まい探しは、日本人的な観点、カナダ的観点、トロント的観点、子育て、進学、永住か短期滞在(数年)か等の諸々のファクターが関わる複雑な最適化問題だなと再認識するとともに、結構誤解が多いなと感じました。結構、わかってる風の人でも実際のところちゃんと分かってなかったりするので個人的な見解を書いてみようと思います。と言っても自分も現在進行形なので勘違いしていることも多いかもしれませんが!

子育て世帯じゃなければ好みで

まず基本中の基本は子育て世帯か否かです。ぶっちゃけ子育て世帯じゃなければ治安さえ良ければどこでもいいと思います。シティライフを楽しみたければダウンタウンの賑やかなエリアを、のんびりしたところがよければ郊外の静かな住宅街に近いところを。トロントは小さな街なので、30分程度の通勤圏内に静かなところや小洒落たメインストリートがある場所も多くあります。お好みの場所を渡り歩いても良いでしょう!というわけで以下、割愛。

子育て世帯は学区が大事?

カナダではアメリカ同様に一般的に学区が大事と言われます。これは常識なので知ってるよという人は多いと思いますが、学区が大事とはどういう意味なのかというとあまりちゃんと分かっている人は多くないと思います。そこで自身が帰国子女でもあり、現役で子育てをしている私が誤解を紐解きましょう。

北米的学区が良いとは?

実は日本と北米とで学区が良い悪いという概念は本質的に変わりません。違いは極めて相対的なものだと言えるでしょう。日本では良し悪しの差が小さい(ように感じる)ので無自覚になっているだけです。学区が良い悪いの本質は貧富の格差・人種の多様性に由来するものです。

分かりやすく日本の状況で例えるなら、東京と地方を比較すると良いと思います。東京では今や生徒の半数が中学受験をするほど教育熱心な家庭が多いです。都内にいると、親がそのつもりがなくても、学校の友達が中学受験するからといって子ども本人が中学受験したいと言い出すほどになっています。今や東京と地方の教育格差は広がるばかりです。。。ただ、これは学校教育の差と言えるでしょうか?答えは否ですね。この差は生徒母体がそうさせる環境的なものに主たる要因があると言えます。実は北米で学区が良い悪いというのは本質的にはこの程度の話に過ぎないのです。

ただ、日本だと学区に対し無自覚になりがちなのは何故でしょう?それは3つの要因からなります。①義務教育が中学までであること(北米では高校まで地元の学校に通います)、②確固たる学習指導要領があること、③人種的に均質であること。

まず①について、北米で学区が大事だと言われるのは、高校までが義務教育であり、高校が住所で自動的に決まるからです!すなわち、学区を選ぶ=高校を選ぶに他ならないのです。ここが日本と大きく違う点です。日本では高校受験というシステムのおかげで、住む場所に関わらず、当人の努力次第では貧富の差を跳ね除けて進学実績の良い高校に進学することができます。北米はそうではありません。住所で決まってしまいます。進学実績の良い高校がある学区は人気ですので、当然、裕福な家庭ばかりが集まることになるわけです。こうした理由で、学区間の環境的な格差が顕著に現れるのが北米の教育システムと言えるのです。

②さらに北米では学習指導要領的なものはあるものの、日本と異なり、その運用は全く厳格ではなく、教師の裁量に大きく任されています。日本のように事細かに授業日数が定められていたり、全国で使用される教科書の水準が一定に保たれることもなく、全ては教師次第といった運用になっています。そもそも教科書やドリル/ワークのような教材が配布されることはありません笑。公立学校の教育の質の差を埋めようという努力がなされていないわけではありませんが、生徒母体の格差という暴力によってその努力は虚しいものとなっている現実があります。

③人種的均質性は日本にいると無自覚になりがちですが、海外で子育てをしていると人種による貧富の差と教育観の違いを顕著に感じるため無視できません。大雑把にアジア系、白人、その他(黒人、ヒスパニック)に分けて考えると、まず、富裕層は主に白人、アジア系の割合が極めて高く、貧困層は黒人やヒスパニック等の有色人種の割合が多くなります。貧富の差の影響は既に述べましたが、教育観の違いも大きいものがあります。分かりやすい例では、アジア系(特に中華系、韓国系、インド系)の家庭が理数系科目を重視するのに対し、白人家庭では理数系科目への意識が低く、むしろスポーツにも力を入れ、バランス型の人間として成長を期待する傾向にあります。こうした意識の差は、同じ”良い学区”でも白人がマジョリティを占める学区とアジア系がマジョリティを占める学区で顕著に現れ、例えば、学力試験の算数・数学の成績に明確に現れます。この差は皆さんの想像以上の差でして、大学の理数系の専門に進学すると、学科によっては9割以上がアジア系(主に中華系)になることもあるほどです。

学区が良いと言ってもそもそも教育水準が低い

ただ、いくら北米基準で学区が良いと言っても、教育水準はぶっちゃけ高くありません。特に理数系科目は日本と比べて著しく水準が低いです。どれぐらいかと言うと、大学入学時点で1年分以上の差が開いており、北米の大学では日本の高校生が習うような内容からスタートするほどです。この差は大学院にも持ち越され、北米のPhDの必修科目は日本では学部レベルであることも多いのです。これは欧州出身の教授たちもよく嘆いている話でして、日本が特殊なのではなく、北米の水準の低さが異様なのです!だから日本人目線で言うと、ぶっちゃけどこに住もうが結局学校外で補強をしないと水準を維持できないということになります。(ただし、北米の教育にも良い面が色々あります。)

以上の前置きを踏まえてカテゴリー別に個人的見解を述べたいと思います。

数年程度の短期滞在(駐在員家庭など)ならぶっちゃけ学区はどうでも良い

このカテゴリーの人はぶっちゃけ学区はどうでも良く、治安の良さや利便性、雰囲気を重視して選べば良いと思います。例外は北米の高校からストレートに北米の大学に進学する予定のお子さんがいる場合に限ります(このカテゴリーでそう言う方は稀ですが)。私自身もかつては駐在員でしたので断言できます。住み良ければ学区の良し悪しなどどうでも良いです。むしろ、帰国後のことを考え、カナダならではの経験をさせつつ、日本水準の教育機会をいかに確保していくかがポイントとなるでしょう。補習校に通えば算数等の各教科を日本水準で教えてくれるので、現地校の教育内容はほとんど関係がありません(経験者は語る)。強いて挙げれば、白人系が多い場所か、アジア系が多い場所か、駐在員が多い場所のいずれで海外生活を体験させたい(体験したい)かでしょうか。人種構成のデータが公表されていることが多いので、そういったものを参考に選んでみると良いかと思います。なお、駐在員が多い場所は最初の立ち上げが楽ですが、駐在員同士のマウントの取り合いが面倒になりがちなので、個人的には適度な距離感を保てる程度の人数のところが良いように思います。

永住前提の方は教育観次第

永住前提の方の場合は教育観が問われると思います。まず、

  • 北米においてマイノリティのアジア系として生きていく子供にどのような武器を持たせるか、

  • 日本人としてのアイデンティティ及び日本語の維持

が大きなポイントになるでしょう。現地校も大事ですが、After school program、日本語補習校等のリソースのことも踏まえての学区選びになるでしょう。

  • 大学はアメリカかカナダか日本か

実は日本か北米かという2択でもなくて、アメリカの大学とカナダの大学のどちらを目指すかでかなり違います。カナダの大学進学システムはアメリカほど競争が厳しくないので、カナダのトップであるトロント大学でさえも、高校の成績がそこそこ良ければそれだけで簡単に進学できるのです。アメリカと異なり、SATも必要なく、課外活動もそれほど重要ではありません。このため、カナダの高校生はのんびりしていると良く言われます。

実はカナダの大学に進学する前提であれば、必ずしも良い学区に住むことが最適な選択肢とは限らないのです。成績は相対的なものなので、あまり優秀な(特にアジア系の)生徒ばかりの高校に進学してしまうとかえって良い成績が取れずに終わってしまうリスクがあります。それならば、良い成績が簡単に取れる高校に進学してしまった方が得策なわけです(実際に知り合いに、いい成績が簡単に取れる高校に転校してトロント大学への進学を決めた家庭があります)。

トロント大学では物足りない教育熱心な家庭は、アメリカのトップスクールに進学させるために、Private schoolだったり、公立学校でもIB等の特別なプログラムを実施している学校(学区は関係なく、入試(トロントでは抽選)で入れる)に進学させ、塾等の習い事を詰め込んでたりします。カナダの普通の公立学校だとアメリカのトップスクールに進むには不利(例えばAPに対応してなかったり)なので、カナダの大学に進学するよりも戦略的に準備する必要があります。

他にも、賑やかな都会で子育てしたいか、静かな住宅街で子育てをしたいかという観点も重要なポイントになると思います。結局のところ、価値観は人それぞれなので何が正解というのはありませんし、価値観自体が時を経るにつれて変化するものなので、これと決めてかからずにいた方がよいかもしれません。

まとめ

  • 北米進学前提じゃなければ学区は気にするほどではない。

  • カナダでの進学を前提にしてても、日本人的にはそれほど気にするほどでもない。

  • むしろ、子供にどのような教育機会を与えたいか、どのような生活を過ごしたいかといった価値観を軸に考えよう!

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