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素直なまんま

この前保育園での仕事を終えて帰る時、昨年度の卒園児の男の子が門の外で自転車の後ろに乗って待っていた。
「あ、久しぶり〜」と近寄ってみたら手を振ってくれたけれど、顔が全然元気じゃなかった。

「どうしたん?悲しいことあった?」
尋ねてみたら彼は目にちょっと涙を溜めてぽつりぽつりと話し始めた。どうやら学童で遅くまで残っていたのが寂しかったみたいだ。

お母さんが一番下の子を迎えにいっている少しの間、私はその子と話をすることにした。
そういえば去年も二人で色んな話をしたな、ということを思い出す。
彼はやんちゃなところもあるけれど、とっても素直なところが素敵だ。友達と喧嘩をしても意地の悪いことをしているところは見たことがない。

好奇心旺盛な彼と話をしていると、私もついついのめり込んでしまう。
去年もみんなが続々とお迎えが来る中、彼はよく最後のほうまでホールにいたのでゆっくり話をする機会も多かった。

その子はよく家族で旅行に行っていたので、旅先での思い出を沢山話してくれる。
栃木や鹿児島、大阪に北海道・・・。名産の美味しいものを食べたり観光地のことなんかも事細かに覚えているのだ。

一時期は彼と旅行の話ばっかりしていたので一方的に旅に出たい欲も駆り立てられていたし、お母さんが海外にお友達が多くいることもあって世界の国のことにも興味津々である。
「英語を勉強してアメリカに行ってみたいんだ」と嬉しそうに話もしていた。

感受性と想像力も豊かで2歳クラスで担任をしていた頃から絵を描くのが好きだった彼は、登園時に家で描いてきたマリオとルイージの絵を持ってきて見せてくれりもしていた。
年長になってからは友達と自分の作り出した世界に没入しながら絵を描いている姿を毎日のように見ていたので、私も一緒になって「この剣はどういう剣?」とか「この建物はどこに繋がってるの?」などと質問しながら絵を描く。

そんな無邪気な彼だが、日々過ごす中でよく気になっていたのは、ふとした時に「我慢をしているのかな・・・」と思う瞬間があったことだ。
彼にはお兄ちゃんと弟がいる。つまり兄弟関係が丁度真ん中なのである。

弟は自分の気持ちを大胆に発散するタイプだったので、お迎えの時には弟が駄々をこねて大騒ぎするその様子を見ながら玄関でおとなしく待っている彼をよく見かけていたし、「この前遊びたいおもちゃがあったんだけどお兄ちゃんに取られちゃった」みたいな話をする日もあったので、何となく周りを見ながら自分が引いたほうがいいところを彼は察していたような気がする。

だからこそ保育園ではしっかりと発散させてあげられたらいいな、と思っていたので、私も多少は怪我に繋がらない程度の遊びであれば楽しく遊べるように見守るようにしていた。

彼は前述したように想像力が豊かなので、色んなおもちゃを他のものに見立てて遊び始める。炊飯器のふたを盾にして長ネギを剣に見立てたり、それを見ながら私も「そんな発想があったか」と学ぶところが多くあって「なるほどね!それおもしろい!」と一緒に興奮したりもした(けれどおままごと本来の遊び方ではないので、他に誰もいない時以外はその発想を絵に描いてみたり、違うおもちゃで遊んで活かすほうへと促していたけれど)。

喧嘩になることももちろんある。大抵は彼がちょっかいを出してふざけて相手の我慢の糸が切れたり、作っていたものをうっかり壊してしまったり、みたいなことが原因だった。
もちろん嘘をついてしまうこともあったけれど、彼は基本的に底意地の悪いようなことはしなかったし、嫌だったことはちゃんと伝えつつちゃんと素直に謝れるのが素敵なところ。

ある日同じクラスの子がサッカーをしていた時に、その子たちも入れてもらおうとしていたのだが、とある子が「〇〇君たちは上手にできないから来ないで!」とびっくりするぐらいハッキリ断られた場面を見かけた。
かつて学生時代に体育の球技で男子に同じような事を言われた経験のある私は、意地悪な言い方をした子に対して「言葉をもう少し考えた方がいいよ。言われた子はどんな気持ちになると思う?」と伝えた。

けれど、辛辣なことを言われた彼のほうは「まあ、そんな子たちとサッカーやっても楽しくないし」と淡々と返して、同じように言われた子たちとゲームに関係なく一緒にサッカーボールを蹴って楽しく遊び始めたので、私は心の中で「ええやないの。そういう反骨心は大事にするんやでー」と上手く気持ちを別の方向へと持っていった彼に心の中で拍手を送る。

結局、意地悪なことを言った子も考え直したようで、後でその子達も誘っていた。
日々伝えることをサボらなければ、思っているより大人が介入していかなくても子ども達だけで色々考えて解決できるようになるものだ。

それに自分自身、別に全員と仲良くする必要はないと思っている。「この子は苦手だな」、「この子は気が合うな」ということは自分に素直でなければわからない事だから。
変に義務感で何となく「みんなと仲良くしなきゃ」とか、無理して「私は誰とでも仲良くできる」みたいなていを装ってしまうと、後々自分が困るタイミングがきっと出てくると思うから。

気持ちは人の数だけあるのだから食い違う部分もあって当然。ただ私が大事にして欲しいのは、意見が違うものを真っ向から否定するのではなく、こういう考えもあるのだと受け止めることだ。
あくまでも自分のことも他人のことも大切にするという事が根っこにあればそれでいいと思っている。

「すいませーん、ありがとうございますー」
彼に寄り添いながら話していたのも束の間、お母さんがその子の弟と一緒に玄関から出てきた。
お母さん、お父さん達もお仕事がある中で日々子ども達のことも考えているのだから頭が上がらない。

自転車の後ろの席で一人でしゅんとしていた彼は、相変わらずしゅんとしている。無理して笑ったりしない。素直なまんま生きている。
これからもそのまま大きくなってくれるといいな、と思う。

色んなことにぶつかって、いっぱい悩んで、乗り越えて、自分の行きたいところへ向かっていけますように。

これからも色んな人に気付かされてばかりの日々だと思うけれど、いつまでも素直な気持ちは忘れないように生きたいものだ

読んでくださりありがとうございます。 少しでも心にゆとりが生まれていたのなら嬉しいです。 より一層表現や創作に励んでいけたらと思っております。