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リベラルアーツ(哲学)をビジネス・マネジメントに役立てるカギは、コンテンツではなくプロセスに目を向けること

ものすごくひさしぶりのnote記事。

これまでいろいろと考えてきたことが、すこしずつ形になりつつあるので、そのあたりの話をすこし書いてみようと思います。

考えてきたことというのは、リベラルアーツの知識をマネジメントに役立てる方法について。たとえば哲学に歴史、文学にアート、社会学に文化人類学といった、大学の教養課程で学ぶのがリベラルアーツ科目です。

これ、一見するとビジネスやマネジメントとはまるきりかけ離れた知識のように思えますよね。ここで大事になる視点の1つが、リベラルアーツで「何が」語られているのかの中身(コンテンツ)ではなく、そのプロセス、つまりに「どのように」語られているのか(考えられているのか)に目を向けることなんじゃないかと思うんです。

「愛とは何か?」を役立てる?

「リベラルアーツ科目がビジネスやマネジメントに役立つわけないだろ!」と思ってしまういちばん大きな理由は、そこで話されているようなことがビジネスやマネジメントではけっして話題に上ることがない、ということだと思います。

たとえば哲学。

ソクラテスを読んでも、「愛とは何か?」「美とは何か?」「徳はどのように身につくのか?」みたいなこと(ばっかり)が語られているから、「こんなものをどう役立てろっていうんだ!」ということになる。

そのとき目を向けている「こんなもの」とは、哲学が取り扱うコンテンツ(内容)です。そこで、目の向けどころを変えてみれば、ぜんぜん違ったところに重なり合いを見つけることができるんじゃないかと思うわけです。

愛や美や、徳の身につけ方、そこで扱っている内容が何であれ、哲学で語られていることには共通点があります。それは、哲学で何かを考える場合は、哲学的な手順でしっかりと考えを深め、前に進めていこうとしている、ということです。

そこに目を向けることで、たとえどんな話が語られていたとしても、「しっかりと考えを前に進めるための条件と方法」という共通項が浮かびあがってくる。これをビジネスやマネジメントに役立てることができるんじゃないかと思うんですね。

私たちは、ふだん何をどのように「考えて」いるのか?

では、「しっかりと考えを前に進める」って、何をどうすることなのか?

哲学者の梶谷真司によれば、「しっかりと考えを深める」より前に、そもそも「考える」というのは想像するよりもむずかしいことで、なかなか「当たり前」にはできていないことが多い。

「考えること」は、一見当たり前のようでいて、実はそうではない。日常生活の中では、ほとんどできないと言っていいほど難しい。むしろそれができないこと、「考えないこと」が当たり前となっていて、そうだとは自覚されていないのだ。

なんでそうなるのか? 私たちは「考える」ことについて学ぶ機会がないから。

学校のことを思い出してほしい。私たちが教わるのは、個々の場面で必要なルールを身につけ、その中で決められたことに適切な答えを出すことだけである。いろいろやってみるというより、決まったことを繰り返す。それは「考えること」とは違う。

梶谷はそう語っているんですね(ちょっと絶望的な気持ちになる…)。

「考える」ために必要なことは?

だったら、「考える」ためには何をしないといけないのか?

私たちは、「問う」ことではじめて「考える」ことを開始する。思考は疑問によって動き出すのだ。だが、ただ頭の中でグルグル考えていても、ぼんやりとした想念が浮かんでは消えるだけである。だから「語る」ことが必要になる。きちんと言葉にして語ることで、考えていることが明確になる。そしてさらに問い、考え、語る。これを繰り返すと、思考は哲学的になっていく。

問いを立て、答えがみつかったら、そこで「考えること」が終わるかというとそうじゃない。その答えからさらに新しい問いを立て、答えを探し… というステップをつづける。

それが「考える」ということ。

問いを立てることから思考が動き出す。そして、「問いを重ねることで、考えることは広がり、別の角度からものを見られるようになる。

問いは思考を動かし方向づける。だから、考えるためには問わなければならない。重要なのは、何をどのように問うかである。

と、まあ、こんな具合に問いを立て、問いをつなぎ、考えを広げ、深めていくこと、それが「哲学的な手順でしっかりと考えを深め、前に進める」こと。

そんな風に哲学をとらえ直してみれば、まったく同じことがビジネスやマネジメントでも必要だし、そうした場面に役立てられそうな気がしてくるはず。

たとえば急激な環境変化に対応するためには、あわてず騒がず状況を見きわめ、問題の本質を見抜き、やるべき行動を検討し、実行しなければならない。そこで大事になるのは、問いを立て、問いをつなぎ、考えを広げ、深めていくことだから。

「急がば回れ」をスピードアップする

もちろんビジネスで考えを前に進めるための知識としては、「クリティカル・シンキング」があります。

が、「クリティカル・シンキング」では、「こうした問題があったとして、これをどう解決すべきか?」みたいなところから話がはじまります。けっして、「ここには問題があるのか? ないのか? そもそも『問題』って何?」みたいに、スタート地点からどんどん手前にさかのぼることはない

でも、VUCAの時代の環境変化というのは、自覚すらしていない「当たり前」の土台がいつ何時ガラッと変わるか分からないということ。だから、ふだんは気にすることもない「そもそも」の部分にさかのぼって考える、つまり問いを立て、問いをつなぎ、考えを広げ、深めていく必要がある。

大事なのは、「何をどのように問うか」のバリエーションを増やすことなのだ。

「環境変化にすばやく対応する」という視点でみると、それはものすごい回り道のように思えるかもしれない。でも、ジタバタを倍速でやれるようにしたからといって、半分の時間で問題解決ができるようになるわけじゃない。

昨日まで通ることができた道がいきなり通れなくなってる。みたいな事態にすばやく対応できるようになるためには、すばやく迂回ルートの候補を探し出し、これを最短の時間で結ばなければならない。

そのためには、ビジネスやマネジメントにかぎらず、さまざまな知識が「何を・どのように知ろうとしているのか」を、そのプロセスに着目して身につけ、ビジネスやマネジメントに役立てていくことが必要だと思うんですね。

そんなことを考えながら、リベラルアーツを(ある程度)体系的に学ぶグロービスのクラスを準備したり、動画コンテンツをつくったりしています。その中で考えたことや「いま、こういうことで行き詰まっています」みたいなことを、またここに記事として書いていこうと思っています。

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