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社内オタクの「逆デザイン思考」

東洋経済オンラインの「「実用性がないネット機器」自作する人の深い洞察」という記事が面白かった。

社業をきわめるオタクを取り上げ、そこに仕事を楽しむヒントを探ろうというシリーズ記事。今回取り上げらたのは、インターネットイニシアティブ(IIJ)堂前清隆さん。

堂前さんがつくる、IoT技術をつかったネット機器には、実用性のないものが多い。でも、それは「意識的にやっている」とのこと。

記事を読みながら、こうしたネット機器の製作が「逆デザイン思考」とても呼べるような作業だと思えてきた。そうした取り組みが予期せぬイノベーションを生む可能性がある。

でも、具体的な成果につながらない場合の方が多いと思うけど、そうしたムダに終わるかもしれない取り組みを支えることが、「遊び心」の力であり役割なんだろうなと思った。

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実用性のないネット機器。たとえば「Wi-Fiでインターネットに接続して時刻合わせ」をする時計。電波時計があるのになぜ? と思ってしまう。

これは結構大事なポイントで、実用性がよくわからないものを作って試しているんです。もちろん遊びの要素もありますが、何かほかに展開できるのではと試行錯誤している面があります。

「よくわからないもの」をつくることは、遊びでもあるけど、ほかに展開できる可能性を探っている。また、そうした可能性を探るだけでなく、製品化されたIot家電の「かゆいところに手が届かない」事情を、「実現できない事情や、手間やコストの問題まで踏み込んで」知ることができる。

「よくわからないもの」をつくる面白さとは、つくってみなければ分からないことを知ることができるということ。

たとえば、トレーに入れて管理すれば、重さを感知して在庫切れをスマホに通知してくれるネット機器。

これが、作ってはみましたが実用性はイマイチだと感じました。実際に同じ物をたくさん棚に置くことを考えると、どこか面倒なんです。

こうしたら便利なんじゃないかと思い、プロトタイプをつくって試したところ、「どこか面倒」だと感じることが分かる。

これって、逆方向のデザイン思考なのだと思う。

ユーザーの満足度を高める体験ではなく、満足度を低下させる体験がどのようなものなのかを明らかにする。自分でちゃんと味わう。そこにあってはいけないものが何なのかがハッキリ分かれば、同じ技術をほかに展開する場合には、そうした要素をなくす必要があることもよく分かる。

「そこにあるべきもの」を探るんじゃなくて、「あってはいけないもの」を探るから「逆デザイン思考」だ。

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もちろん、「あってはいけないもの」をどれだけ知ったとしても、「そこにあるべきもの」にたどりつける保証はないから、というか、たぶんたどりつけないことの多いだろうから、業務上の成果や効率を追い求めていたら、「そんなことやってられない」ということになるだろう。

だから、そうした取り組みを下支えするのは、仕事としての成果や効率ではなく、個人的な遊び心だということになる。

社内の私の世代にはそういう人がわりと多いのですが、業務と趣味の境目が非常に曖昧です。双方で同じ技術を使っているんです。

楽しいからやるとか、純粋に知りたいからやる、ということでないと、こうした取り組みをつづけていくのはかなりシンドい。だから周囲からは「オタク」に見えることになるんだろう。

もちろん、極端な行動や思考のユーザーをエクストリームユーザーと呼んで、革新的なイノベーションのきっかけにしようという動きもあるけど、「エクストリーム」という言葉がちょっとネガティブ寄りに響くのがよくない。

というわけで、こうした行動を「イノベーションの満足度を下げる要素を探り出す(逆)デザイン思考なのだ!」とリブランディングすれば、仕事を楽しむヒント以上のいろんな示唆が得られるような気がする。


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