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怪物がいると思いたかった。(映画:怪物)

「万引き家族」や「ベイビー・ブローカー」の是枝監督と「カルテット」や「花束みたいな恋をした」の坂本裕二さんのタッグの怪物を観てきた。
好きな監督と好きな脚本家の作品なんて、観るしかないだろうと意気込んで観に行った。
終始、息を吞む作品だった。

ここからは、ネタバレを含みます。
冒頭に大きなビルが燃えているシーンから始まる。「豚の脳を移植した人間は、豚?それとも人間?」と主人公?の湊が、母親に尋ねる。
この映画は、3人の視点で切り替わって、物語は進んでいく。シングルマザーで湊を育てている早織(安藤サクラ)、湊の小学校の担任の保利(永山瑛太)、そして、この映画の主軸になる湊(黒川想矢)の3人だ。
早織は、自分の息子の湊が、ここ最近、靴が片方なくなったり、水筒から泥水が出てきたり、門限を過ぎても帰ってこず、迎えに行ったら、帰りの運転中の車から飛び出すなど、明らかに様子がおかしくなっていることに不信感を募らせていく。そんな時、湊から「担任の保利先生からぶたれた」ということを話される。
早織の視点からすれば、教師の保利が怪物のように異様なものに見えただろう。息子である湊のことも、突拍子のないことをするので、わけのわからないものに見えていたかもしれない。
次に保利の視点に変わり、最後は湊の視点に変わる。湊の視点になってから、クラスメイトの星川依里という少年が出てくる。依里は、クラスで男子からいじめを受けていた。湊は加担はせずとも、いじめを横目で見ていた。ふとしたことから二人は、交流を持ち、仲良くなっていく。依里の秘密基地である廃線の電車で遊ぶ、その中で、湊は依里との関係がただの友人のそれとは違うことを感じていく。

依里は、小5まで鏡文字が残っておりLD(限局性学習障害)の可能性も高いだろう。ずっと支援が入らなかった子どもだろう。では、父親が悪人なのか。父親も、折檻をしているシーンがあり、虐待をしていた。しかし、あれほど分かりやすく鏡文字が残っているのに、本人に対して支援をしていない学校も、泣き叫ぶ声が聞こえるのに通報をしない地域も問題ではなかっただろうか。
この映画で、依里は、誰からもしっかりと見て貰っていない。保利先生も家に行ったがそれ以上にはならなかった。
湊だけが、依里のことに気づいて見つけたのだ。
この映画では、噂話が飛び交う。噂話で他者の中に、自分の中に怪物がいる感じが伝わるが、この映画に怪物はいたのだろうか。
分かりやすい悪があること、怪物がいることを期待している私たちの思い込みこそが怪物ではないかと考えた。

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