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第90回 氷川風土記「箸の話」

新年のご祝辞を申し上げます。
正月といえばお節料理ですが、食べる時や取り分ける時、日本人はお箸を使います。
お正月や祝い事の際に用いる箸を「祝い箸」と言います。
祝い箸は「両口箸」「柳箸」「俵箸」などの名称があり、特に両端が細く作られた両口箸は片方は人のため、もう一方は神様のためにという、「神人共食(しんじんきょうしょく)」の考えに基づいた箸とも言われます。

箸は日本神話において、氷川神社の主祭神・スサノオノミコトと関わりがあります。

その神話は古事記の「スサノオのオロチ退治」のくだりです。
天上の「高天原」を追放されたスサノオノミコトが出雲国の肥河(ひかわ。島根県斐伊川)の上流の鳥髪に降り立たれました際、川の上流から箸が流れてきました。
それを見たスサノオノミコトは上流に行けば誰かいるかも?と思って川を上り、そこで娘と泣いている老夫婦アシナヅチとテナヅチがいました。
そして娘の名こそイナダヒメノミコトです。
スサノオノミコトが彼らに泣いている理由を聞くと、毎年この時期にヤマタノオロチが来て8人いた娘のうち7人も食べられてしまったとのこと。
そしてこのままでは残りの1人のイナダヒメノミコトも食べられてしまうと思って泣いているのだと知ります。
それを聞いたスサノオノミコトはヤマタノオロチを退治し、イナダヒメと結婚しました。
また、この退治の際、ヤマタノオロチの尾から出てきたのが、三種の神器のひとつである「草薙剣」です。

もし、川の上流から箸が流れてこなかったら、最も有名な日本神話のひとつであるヤマタノオロチ退治も、またスサノオノミコトとイナダヒメノミコトのご結婚もなかったかもしれません。
そう考えますと、箸は私たちにとって、命を紡ぐ食との縁にとどまらず、神様との縁を結ぶ存在でもありますね。

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〔 Word : Keiko Yamasaki Photo : Hiroyuki Kudoh 〕

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