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十二国記「白銀の墟 玄の月」評価が割れた理由(ネタバレ無し)~それでも私は好きでたまらない~


■何故、こういうことを書こうと思ったのか?

・十二国記にはまったばかりだけれど、この先を読むかどうか迷っている
・18年ぶりの新刊、期待も大きいけれど、不安もある

という方への、読む・読まないの一つの判断になれば、ということが一つ。

あとは、25年近いファン歴の人間として「こういうところは、こうなんだと思う」というところを書いておきたいというのが一つ。
独自見解ではあるので、「ここに書いてあることが、すべて正しい」とは限らないことは、事前にご承知おきください。あくまで一人の意見です。
感想は、また別に書く予定。


■私のベース

・十二国記を読み始めたのは、1994~1995年頃。「風の万里~」までは発刊済。割と順不同で読みあさる「風の万里」か「風の海」どっちかが先。

「図南の翼」は新刊購入して、以後は新刊でるたびに「ホワイトハート版」のみで購入。新潮文庫オンリーになってから新潮文庫版で購入。

但し現在に至るも「魔性の子」は未読(※色々な媒体で感想や粗筋はチェック済・おおよそは把握)。

読書傾向は雑食ですが、唯一、ホラーだけは苦手。
(苦手なくせに気になって、読んだ後に激しく後悔するほれみたことかだからいったでしょ系)


■評価が割れている様子

アマゾンの★の数で割りだしてみました。
その理由は、★5でも★1でも、理由と感想が比較的書かれているのと、どなたでも参照しやすいデータと判断したからです。

(2019/11/26時点での★評価の%)
並び順は、一番左が★5→★1

・1巻
75%/10%/7%/4%/4%
・2巻
66%/15%/11%/3%/6%(※合計101%)
・3巻
76%/13%/4%/0%/7%
・4巻
37%/21%/18%/13%/12%(※合計101%)
・全巻の★ごとの合計%
254%/59%/40%/20%/29%(※合計402%)

上記を402で割り返して出した、★の%比率
63%/15%/10%/5%/7%
(小数点は切り捨て)

総合では★5がトップ、これは間違いなし。
但し4巻では、★4以上が58%・★3以下が43%と、決してぶっちぎりとは言えず。
4巻の感想=全巻読了した人の感想だけに、ここは無視できないところ。


■評価が割れた理由その1「長い」→「緻密さの問題」

長いというのは、「全4巻」という長さそのもののこと「だけ」ではありません。
とにかく、描写がひたすら細かい。

例えていえば、朝ドラでは15分で10日くらい・場合によっては一ヶ月一年くらい進みます。
が、今回の話で言えば、
「15分丸々つかって、脇役キャラの過去話と心情と立場が語られる」

「脇役Aは、親を失い彷徨ってたどり着いた」
→「山田花子は、太郎と洋子という両親から生まれて、幸せに暮らしていたが~」

とにかく細かい。
そして細かいのはキャラの生い立ちなどだけではなく、風景(草の匂いとか雪の冷たさとか)、宗教(ネタバレになるのでこれでご勘弁)、建物、アイテム、などなど盛りだくさん。

元々、ホワイトハート版のころから「少女小説」にしては相当に緻密な設定だったのが、今回は小説分量の長さもあるため、ぶっちぎりで緻密さ、設定の書き込み具合が上がっています。

その細かさ・緻密さゆえに、背景が立体的に立ち上がり、話が息づき生々しくなる。
しかし当然、一場面ごとの文章量=長さがのびていき、ストーリーを味わいたいと思う場合、「長さ」が、もどかしくてじれったく感じるのも無理ないかなあというか。
設定好き・こまごまとした描写が好きか、話の展開・動きを強く望むかで、評価が分かれた感じ。


■評価が
割れた理由その2「サブキャラが多すぎ」→「徹底して、戴国=民を書いたから」

「人は城」
武田信玄の名言です。
これの流用として私が考えるのは、「国=名もなき民のこと」。

だからこそ、今作では、王様や将軍といった「わかりやすい有名人」ではなく「国そのものである民」を書かれているのでしょう。

しかしそうすることで登場人物が増えて、主役以外の民たちの見せ場が増えていって、主人公クラスたちの見せ場がそれに押されていった。
ホワイトハート版のころから脇役にもドラマがあって、それがまたぐっと泣かせるところもあったので(私は好きなんですが)、今回はとにかく人が多かったです。

だから「主人公たちの行く末が気になる」「主人公たちの活躍が見たい、心情を知りたい」という場合、主人公たちの見せ場が分量の割には少なく感じて物足りなかったのかなと。

もっとはっきり言えば
「いや、このサブキャラのことはいいから、あの主人公が何しているかが知りたい」
という欲求については、不満があってもやむを得ずかなあ。

■評価が割れた理由その3「最後の展開が駆け足」→「あのシーンで、試合終了だから」

戴国の民が持っていたであろう疑問の回答・主要人物たちが待ちかねていた場面、十二国記としての決定的シーンが、結末の少し手前で出てきます。
ただそこから先が、それまでの、ストーリーの流れがもどかしくなるほどの緻密な描写とはある意味真逆ともいえる駆け足、1文のみでの表記となっていきます。

「戦乱で、Aは槍をふるって、弓を方に受けても手綱を握り~」
だったのが、
「戦乱を、Aは馬で城まで戻った」
というような具合に、簡素化(※これはあくまで例文です)

この時点で、前の段階までにちょこちょこ出ていた伏線、妙に思わせぶりなキャラの真意などが、一部については回収されないままで一気に結末までむかいます。

これに私が思う理由が2つ。

・「最後の決定的シーンをもって、「戴国」としての結論が出た=この物語はここで決着がついた」
=その後の話については、それまでのように「物語として必須ではなく、後日譚的な立ち位置」だから簡素化。

・「実際の人生でも、何もかもすべてを知りえることはない」
=伏線が回収されず、ある意味のもやもや・はっきりしないものを抱えて、それでも生きていくのが人生である

ということかと。
エンターティメントとしてとらえれば、上記2つはありえない!というところでしょう。
が、この十二国記という話は、いい意味で「読者に媚びて、おもねることはない」物語。
読者受けをしてきたとしても、そのことそのものが狙いではない小説と思います。

後味の悪さも、時に読者の胸をつく苦みもまたこのシリーズの持ち味。

ぶっちゃけていえば、「あの決定的な場面」で、物語として主題の「戴国」は全部決着ついたともいえるんでしょう。
ただ、やっぱりその後の細かいところとか、あの伏線とかネタをみたいよ~!と思います。

これについては、来年発刊予定の短編集待ち(多分!期待していますよ)。


■評価が割れた理由その4「話が暗い、重い」→戴国の救いのなかった7年の重み

シリーズ第1巻の「月の影~」も、ヒロインが理由もわからず異国に放り込まれ、命を狙われ、信頼した人に裏切られて、助けの無い中血だらけになって進むという、たいがい救いのない状況でした。
が、これは話の前半であって、後半は爽快なまでの明るさが見えてくる。
(前半のほとんどの責任と原因は、自称僕(しもべ)の説明不足だと思いますが)

一方本作は、とにかく全体に重い。暗い。明るいところを探す方が厳しいほど。
しかもその描写が延々と詳細に、話の流れであちこちにさしはさまれている。

それはなぜかといえば、希望を奪われていた戴国の7年、しかも権力も何もない「弱い」立場の人々の心情と状況を書き込んでいたから。
そういう描写を省くこともできたし、簡略化することもできた。
それをしていないのは、作者が戴国を真っ向から書いているから。

ヒーローが救世主として大活躍するための舞台装置ではない、多くの人々が暮らして作り上げ支えている戴国こそを主役として主題として書いているから。
生半可な明るさなんぞ、望む方が無理。

とはいえ、私が「ホラー苦手」で「魔性の子」読んでいないのと同じように、「重くてくらい話しは苦手」という人が読みづらいのも当たり前だと思います。
雪が降る中、雪かきをしてもしても、またどんどん雪が積もっていく。
そんな果てしなさなので。


■総評:前の作品までとは、作風が異なる。

歴史小説、大河ドラマが、群像劇が大好きな人が見れば楽しい。
つまるところ、前作までの「爽快感と、主要キャラの活躍」を期待していると、そこへたどり着くまでが大変です。
読みきるのに相当の根気が必要となるでしょう。

はっきりいって、前作までとは「違う」と割り切った方がいい。
有名な「新選組」でも、作者やドラマ、マンガに小説と、媒体や語り手が異なれば全く別物となるのと同じです。
同じ作者で、同じ登場主要人物・同じ舞台であっても、扱うカメラがフィルムかデジタルか、スマホか一眼レフかで違ってくるのと同じです。

それがいいとか悪いとかではなく、ただ違うんだなということです。


■個人的には

実家にあった「徳川家康・全26巻」をちまちま読み続けていた中学生だった(大昔)ので、長いのも細かいのもさほどには苦にならず。
暗いのも重いのも、そりゃそうだよなで読み進めていきました。もどかしい思いも、時にひやっと「まさか!」という場面もありましたが、苦痛にはなりませんでした。

感想はまた後日記事を上げるか、公式のキャンペーンに応募しようかで迷い中にて、今回は以下の言葉で締めくくらせていただきます。

読むのに楽ではないし、時間もかかるし、重くて暗い場面も多い。
それでも「戴国」という異国の歴史を、そこで暮らしているごくごく平凡な、私たちのような力もなにもない人たちが日々を懸命に生きている姿や心情を、私は毎日少しずつ読み続けて、読み切った後にはまた本を開いて細かいところを読み返したりもした。

出会うことができて、よかった。
知ることができて、読むことができて、心からうれしい。
そう言い切れる物語です。

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