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花霞高校新聞部!【初夏の宝石】♯10

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 ごあいさつ

 空の青さが夏らしく輝きを増してきました
盛夏のみぎり、皆様いかがお過ごしでしょうか。
 花霞かすみ高校新聞部 二年
 ミルクだましのミルクと申します♡
 さて今回は、
花霞かすみ高校新聞部・鬼合宿
『山形で初夏の宝石み〜つけた!』
というなかなかラブリーな回となっております。
 ……と言いたいところではありますが、
なかなかラブリーになれないのが
花霞かすみ高校新聞部。
 なんと今回、わたくしミルク、
そしてホロ苦のホロ、
 なんと盗っ人犯にされまして、
ラブリーどころかブタ箱入りの危機であります!
 『初夏しょか宝石ほうせき
 それってさくらんぼ?!
 それとも真っ赤なルビーのことですか?!
 それとも………グサリッ………うぁぁっ………
パタリ……で、ドロドロ真っ赤な血?!
 〝花霞かすみ高校新聞部〟
その名に誇りを持ちまして、
地獄の果てでも真相を追いかけます!
(両手にお縄をかけられそうだけれども!)

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🍒前回🍒

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 むかし、むかし、ある小さな村におじいさんとおばさんが住んでいました。
 おばあさんは山へしばかりに、おじいさんは庭に昼寝に行きました。
 ある日おじいさんが庭で昼寝をしていると、庭の花木が話し出しました。
「おじいさん、あなたもはたらいたほうがいいですよ」
 そういわれてしまったおじいさんは、「でも腰がいたいんじゃ」と涙をポロポロ落としました。すると、なんと庭の花木がぐんぐん大きくなっていったのです。
「おったまげた」
 おじいさんはおどろきましたが、とても喜びました。なぜならこれで、花木に水やりをする手間がなくなるからです。
「あなたはなまけものですが、ここのおばあさんは良い人なのでこれをさしあげます」
 花木たちはそういって、おじいさんに一つの苗をさしだしました。
「もうわたしたちの世話はしなくてよいですから、そのかわり、どうかその苗を一生懸命そだててください」
「わかりました。きっと一生懸命そだてます」
 おじいさんは約束どおり、まいにちその苗に水やりをしてから昼寝をしました。それが一年、二年、三年、四年……そして十年後、やっとその木は〝桜〟の花を咲かせて実をつけました。
「ばあさんや、食べてみてください」
 おじいさんは、先におばあさんにその実をさしだしました。じぶんの代わりに一生懸命働いてくれるおばあさんに、せめてものしゃざいのきもちです。
「おどろいた。なんとおいしい果物じゃろう」
 おばあさんは真っ赤な実をひとつぶ食べて、感動しました。
「あんたのようななまけものが、まいにちお世話をよくがんばりましたね」
 おばあさんが褒めてくれて、おじいさんは喜びました。
「ばあさんや、わたしが育てたこのくだものに名前をつけてくださいますか」
 おじいさんがそういうと、おばあさんはにっこりほほえみました。
「あんたが育てたかわいい坊やでしょうから、さくらぼうなんていうのはどうでしょう」
「それはいい」
 〝桜の坊〟はそれからもたくさんの実をつけました。おじいさんおばあさん、ふたりで食べきれないほど実をつけて、おじいさんはまちに売りに行きました。すると桜の坊はたくさんのお金になったのです。おじいさんはそのお金で、おばあさんに宝石を買いました。
「まぁ!桜の坊にそっくりじゃ」
 赤くきらきら輝くルビーを抱きしめて、おばあさんはぽろぽろと涙をながして笑いました。
 おしまい。

「というのが代々語り継がれてきた、大槻おおつき家の家宝の謂れいわれです」
 大槻さんは淡々と〝むかしなばなし〟を語って、ルビーを見つめた。
「桜の坊……さくらのぼう……さくらんぼ……」
 あぁ、なるほどね。わたしはそんなことを思いながら、いつもの取材ノートに書き留めた。
「〝さくらんぼ〟と最初に表現したのは、東京の新聞社だったよな」
 いったのは、ホロ。それまでさくらんぼは〝桜桃おうとう〟と呼ばれていたけど、と付け加えて話す。
「桜桃?」
「あぁ、太宰の遺作も『桜桃』だろ」
「ホロ、よく知ってるね」
「だって部長が花霞高校新聞にそう書いて載せてたじゃん。って、あ、知らないか。新聞部のくせに美術部で石ころ砕いてたもんな」
 ホロの嫌味。いつもならすこしむっとするけど、今日はほっとする。
 本当に昨日はどうなることかと思ったけれど、無事に一夜が明けた。太陽が初夏らしく高く昇って、わたしはいつもどおりに取材ノートを首からさげている。そしてホロもいつもどおりにカメラを首からさげていて、こんなにほっとすることってない。
(大槻さんの誘惑に乗ってしまったことは、少し不安だけど……)
 取材ノートにさくらんぼのイラストを描きながら、わたしは心の中でそういった。
「その〝むかしばなし〟に出てくるおじいさんとおばあさんって、大槻さんのおじいさんとおばあさん?」
 ホロが大槻さんに尋ねた。大槻さんはそばにあったティッシュ箱から紙を二、三枚取り出して、「あの二人よりずっとずっと前のはなしですよ」と答える。そしてティッシュでルビーをくるんだ。
「家宝にまつわる〝むかしばなし〟があるなんて素敵だね」わたしがいうと、「そうですか?」と冷ややかにいう。
「働かないダメ亭主でも、我慢してればある日宝石なんかを買ってくることもある。そんな〝化石〟みたいなはなしが素敵かどうかはわかりませんけど」
 え、そういう話しなの?仲良し夫婦のサクセスストーリーだと思って聞いていたので、すこしショックだ。というか大槻さん、すこしキャラが変わった?なんか、気怠けだるい女子になってる気がする。髪も三つ編みじゃないし。長い髪をかきあげて、眉間にしわがよってるし…。
「それで、珊瑚さんごのはなしは?」
 気怠い女子に、ホロはぐいぐいだ。ぐいぐい話を切り込んでいく。負けじとわたしも「そうだ!村八分のはなしも聞かせて」と前のめりになって彼女に近づいた。ところが彼女ははぐらかし、「ミルク先輩とホロ先輩って、ほんとに仲良しですね」と全然関係ないことをいう。
「つい数時間前にわたしがミルク先輩に話したことが、もうホロ先輩に全部伝わっていて驚きです。どうしてそんなに仲がいいんですか?」
 えっとそれはね……とわたしはつい答えそうになったけど、「そんなことはどうでもいい」とホロは突っぱねた。
「おれはルビーを盗んだのはきみだと思っていたんだよね」
「え?わたし?」
「あぁ。だって合宿前にしつこく言ってただろ?木の上に登ってさくらんぼを取らないでって」
「そんなの普通ですよ。木に登って落ちて怪我しても、うちでは責任取れないですし」
「いやそれはわかる。だからそう言ってると思ってた。だけどルビーは木の上にあっただろ?それでピンときたんだ。きみがしつこく忠告してたのは、ルビーを見つけられたら困るからだったのかって」
 大槻さんはつまらなそうに、ティッシュにくるまれたルビーをながめていた。
「ホロ先輩ってするどいんですね」
「じゃあやっぱり……」
「いえ、ルビーは隠していません。わたしが見つけてほしくなかったのは、藁人形のほうです」
「藁人形?」
「はい。だって恥ずかしいじゃないですか。藁人形を吊るしてだれかを呪っているなんて」
 恥ずかしいというか、恐ろしいよね…。
 それは口に出さずに、取材ノートにこっそり書いた。
「呪いはこの村、全体にあります。というのもあの藁人形は、どこの家のさくらんぼの木にも吊るされているんです」
「む、村全体でだれかを呪っているということ…?」
 わたしが訊くと、大槻さんは静かに頷いた。
「呪われているのがだれかっていうのは見当ついてるの?」
「はい。村八分にされた家の夫婦です」
「ふ、夫婦?!」
「あたりまえじゃないですか。ミルク先輩も見ましたよね?藁人形は、つがいだったでしょう」
 つがい、でしたね……。思い出したくないのにはっきり昨夜の映像が頭に浮かんで身体がブルっと震えた。
「うちの祖父母も、もちろん父親も、そしてこの村の人のだれに聞いてもあの藁人形のことはみんなが口をつぐみます。だから調べるしかないんです」
 さっそくこれからその家に行ってみましょう。といって気だるく立ち上がった大槻さんに続いて、わたしとホロも立ち上がる。
「行きたくないな…」玄関先で靴を履きながら、ホロに小さく言ってみた。
「でもこのままじゃ、おれたち泥棒あつかいされたままだぞ」ホロもヒソヒソ声でいう。
「うそつきは泥棒のはじまり…」
「え?」
「きのう大槻さんにいわれたの。わたし、嘘をついたから…」
「あぁ、あの嘘は最悪だったな。だれも信じるわけないし」
「そうだよね…」
 しょんぼりしながら大槻さんのあとに続いて玄関を出てみると、ホロがため息をついた。
「ミルク、おれたちってくさっても新聞記者だよな」
 くさっても?くさったつもりはないからちょっと迷ったけれど、「うん」と頷いた。
「じゃあ〝真実〟を伝えないとな」
 太陽を背にしてホロが眼鏡を押し上げる。そしたらちょっと元気が出てきた。
「そうだなっ!!!」
 ホロの肩に自分の腕をぐんっと回して、「名誉挽回エイエイオー」ってふたりで意気込んで、彼女の後をいそいで追いかけた。

🍒次回🍒

『第一話』はこちらです。

『白鳥池伝説』もよろしくお願いします🦢

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