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短い話

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2024年1月の記事一覧

短編小説/そんな日

短編小説/そんな日

 メレに憧れていた。なぜならメレは認めない…たとえばメレが駅のホームで鼻血を垂らしていたとして、それでもメレはこころのねじくれを認めない。悲しまない。その感情は認めたくない。受け入れたくない。彼氏に実は四股されていたと知った夜も、メレはひとりで踊る。もちろん泥酔、床に転がるウイスキーボトルを踏んで転げて、メレは忌々しいそのウイスキーボトルにエンドオブザワールドディライト(ヴォネガットの猫のゆりかご

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短編小説/濡れ鼠

短編小説/濡れ鼠

 南口のバスターミナルで、名古屋行きの夜行バスを待っている。不運なことに傘はない。急に降り出した大粒の雨を五分ほど浴びた後、びしょ濡れの体でバスに乗り込んだ。
「寒いですね」
 と隣の席の女性に声をかけられる。雨で濡れた髪をタオルで拭きながら、「雨が降るとは思いませんでした」とため息と共にその人はいう。
「そうですね、予報では晴れだったと思います」
 そう言って、僕も長く息を吐く。
「実は今日、彼

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