見出し画像

ウェスト・サイド・ストーリーの魅力

スピルバーグがリメイクしたとは聞いていましたが、商業映画のひとつね、なんでいまさら、と見るつもりはさらさらありませんでした。予告編を見ても響いてくるものがなく、全く視野の外。

しかし、私が欠かさず読んでいる土曜日のウォール・ストリート・ジャーナルのコラムで、ペギー・ヌーナンがコロナ後の映画離れ現象を嘆きながら、ウェスト・サイドの住人たちと一緒に同映画鑑賞後に拍手したと書いているではありませんか。ちなみにこの方、保守派の牙城ですが、トランプ政権末期に現役の大統領をここまでけなすかというくらい個人攻撃したど迫力と胆力の持ち主です。

私はいまだに新聞「紙」を読むオールドスクールであり、映画も、どれが一番好きと問われればタルコフスキーやフェリーニなどを挙げるオールドスクールですが、ウェスト・サイド・ストーリー2021は一度みて見事にはまってしまいました。冒頭のジェッツの踊りを見ながら、久々に映画館で映画を見た感慨と、ハリウッドではほぼ無名の若い人たちが歌って踊っているのを同時代で見られる幸せに涙が出てきました。

振付も素晴らしい。旧作では冒頭のシーンでジェッツのメンバーは水泳のクロールのように前から後ろに水平にゆっくり腕を回しますが、新作では、逆に回しており、それがなんとも優雅。易々とこなしているように見えますが、旧作同様、踊り手の肉体の極限を試す振付であることは明らかです。踊りの予備練習だけで四カ月費やしたそうです。

いわゆるスターは不在ですが、どの俳優さんも光っている。脇役も好感が持てて自然体の演技なので、落ち着いてみることができます。様々なアングルからの撮影もドラマチックな効果をあげている。とにかく職人芸なのです。

通常、俳優が映画監督のカメラを覗き込んだりするのはご法度ですが、スピルバーグが家族と呼ぶ若い出演者たちがわいわいカメラをチェックして、うまく踊れたときには監督ともども皆で歓声をあげたそうです。

スピルバーグの映画に対する愛、ウェスト・サイド・ストーリーの大のファンでありながら完成を待たずに逝かれたお父様、そして前作(ご本人は映画ではなくブロードウェイの劇を原型として本作を作ったと述べていました)への並々ならぬ愛情が伝わってくるアートとエンタテインメントの幸福な結婚とです。

また、旧作ではあまり感じなかったのですが、見れば見るほど、聞けば聞くほど、バーンスタインとソンドハイムの両巨頭が後世に残してくれた音楽と詩のすばらしさを改めて実感しました。南米出身グスターボ・ドゥダメルの指揮下NYフィルの演奏でひしひしと、骨までしゃぶりつくように楽しめます。これも映画館で観る特権です。

食わず嫌いだと損をするなあ、と思いました。そもそもミュージカル形式が不可解、苦手(なんでいきなり人が踊り始めるの?)な方にはお勧めできませんが、ウェスト・サイドの旧作が好きな人、オペラや歌舞伎でお約束の場面で必ず泣いちゃう人などは何度見ても楽しめると思います。

画像1

写真はいずれも映画に出てきた美術館からのハドソン河の眺めです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?