#ゆる言語学ラジオ という心地よい沼への招待状、知的おふざけ仲良し空間の楽しさ

(本来は2022年末に「1年ありがとう」と出す予定でしたが新年にずれ込みました、とほまち……)


イントロ:2022のメシア


2022年、大変な年でした。
国内外で動乱が起き、いちオタクにとっても推しグループからのメンバー脱退が発表され(lyrical schoolとfhána)、あるいはかつての推しと波長が合わなくなったり(具体的な言及は回避)と波乱が続き。
20代男子としても恋愛観に大きなダメージを受けるなど、メンタルにとって喜ばしくないイベントは多かったです。

そんな1年(の後半)の心の支えとなったコンテンツが今日のテーマ。
Podcast&YouTubeの番組にして、今や一大フランチャイズとなりつつある『ゆる言語学ラジオ』です。


noteYouTube書籍などで、教養をひけらかして人をおちょくるコンテンツを作っている理系出身・堀元さんが、
言語学を(学部生レベルで)学んでいた言語オタク・水野さんから、
言語にまつわる色々な話を聞いていく……というコンセプト。

そしてたまに脱線して、お互いの雑学知識で殴り合うようなゲームをしたり、変人っぷりが際立つ雑談を繰り広げたりする番組です。

「当たり前に使える」の裏側を掘る、言語学の面白さ


日本語の「主語」に迫る日本語学シリーズ


(僕が知ったのはもっと後ですが)本番組が大きく注目を集めたのはこのテーマ。

「象は鼻が長い」という文の主語がどれか、判断が難しい……という導入から、日本語文法における「主語」の謎に迫るシリーズ。
この問いについて動画内で説明されている内容も面白いですし、(ベースとなっている書籍に誤りがあったことによる)指摘への対応も誠実で、本番組の良さが詰まったシリーズなのですが。

僕にとって強烈に印象的だったのは、
「自分が当たり前に使えている言語のルールを、自分は全然説明できない」
「説明できないことにも気づいていないし、その謎を追いかけている学問がある」
という点です。

水野
「日本語とか英語の研究って言ってみれば、み~んな答えが分かってるのに途中式だけ書かれていない証明問題が大量に残っているようなものなんですよ」

堀元
「あ~なるほどね、そうですね。〈象は鼻が長い〉が正しいことはみんな分かっている」

水野
「そう、みんな正しいことは分かるけれど、分かる人がこんなにいるのに誰も説明できなくて。一生懸命トップの学者たちが考えても結論が出ていないことが無数にあるわけで。これがやっぱり、言語学の面白さ」

「主語を抹殺せよ」魅惑の三上文法と言語学のロマン #11
32:52~33:25 より引用して文字起こし

以降も数々のシリーズが展開されましたが、僕が特に好きなのはこうした側面を突くトピックです。

「過去の助動詞」じゃ終われない、「た」の探求シリーズ

「記事が書けた」「明日が試験だった」「遅れて悪かった」などの「た」の役割に、数々の例文と理論で迫る全6話。日本語運用における「気にしてなかったけど確かに謎」なポイントが目白押しで、言語学の面白さを存分に味わえるシリーズでした。
水野さんが「た」の文法的な分類をプレゼンするうち、分類学の大好きな堀元さんが盛り上がってタクソノマーズ・ハイになっていったような、コンビの化学反応も好きです。


僕らの知らない僕らの凄さ、赤ちゃんの言語習得シリーズ

トータルで20話ほど、専門家の今井むつみ先生も交えて大きく広がったトピックです。自分たちも経験しているはずの赤ちゃんによる言語習得がいかに難しいかを知ることで、言語の成り立ちを改めて意識できる面白さ。
そして非常にキャッチーな話題でもあります。僕は本番組を人に紹介するとき、このシリーズを例に出すことが多いですね。現役で子供の言語習得を観測している職場のパパ・ママ世代にもウケが良いです。

子供の言い間違いから日本語のややこしさに迫る、知的で可愛いコーナー。リビングで流していたら母も笑っていました。

日本語フェチにこそ刺さる、日本語の相対化

趣味で小説を書いたり歌詞の深掘りをしている人間なので、やっぱり日本語への愛着は人並みにあります。それが昂じて「日本語は世界でも特別な言語である」みたいな感覚も、無いと言ったら嘘。

そんな僕にだからこそ、各言語に共通する特徴を見出していく言語学の知見は刺さる刺さる。「日本語はぶっちゃけそんなにレアでもない」を語られるのは、これまでの自分の直観に反する面白さに満ちていました。

日本語は平凡だけど普通じゃない、黒島先生回

水野&堀元コンビとの相性が謎に良すぎる記述言語学者・黒島先生とのコラボ回。いかにも日本語ageっぽいサムネがいい味ですね……

全言語の共通項はブロッコリー、生成文法シリーズ

あらゆる言語の共通法則に迫る生成文法シリーズ。ガッツリ言語学していて濃密ですし、最終的に……

こんなパワーワードに着地する、ゆるいfunny感も忘れていません。斜め上の抽象化で「これとあれは一緒なんですよ」と強弁する作法がゆる学徒イズム。

知的おふざけ遊びが肌に合う

このように言語にまつわる話がメイン……ではあるのですが。
仲良し雑学好きコンビによる、知識を無駄に活かした遊びも大人気です。むしろこっちから馴染む人も多そう。

雑学×水平思考、うんちくエウレーカクイズ

面白いうんちくのオチをクイズにするゲーム、水平思考クイズ(ウミガメのスープ)の亜種とも言えますね。聴きながら一緒に考えるのも楽しいですし、リスナーから質・量ともにリッチすぎる問題が送られてくるのが凄い。うんちく使いたちは惹かれ合う……ッ!

Comical衒学ism、何こいつキモナイト

言ってみたいけど使いどころのない、日常で言ったらキモがられるような慣用句を披露しては「何こいつキモっ」と罵り合う会。ネタのマイナーさ自体が面白いですし、二人が虎視眈々と披露のチャンスを読み合う空気が非常にツボ。

スケベ言語学ラジオ、官能小説表現特集

性表現の奥ゆかしさに浸り、独特すぎる擬音を音読しては笑い、締めには表現規制とクリエイティブの関係に思いを馳せる……くだらなさとシリアスさの両輪が充実した回です。

偏ったまま爆走せよ、飲酒雑談回

いつものうんちくと思いきや、水野さんが食品や栄養素について壮絶に偏った理解をしていることが露わになった回。しまいには堀元さんの逆張りイズムが爆走して反社会的な発言を繰り返しています。知的だと思っていた人間の強烈な無知っぷりはめちゃくちゃ笑える。

見ているだけでも面白いのですが、リスナーが謎に共鳴してしまうのが本番組の本領。

視聴するほどディープに、侵食するミーム

この番組、普段の思考へ及ぼす影響が凄まじいのです。なんとなく思っていたことがビシッと言語化されている、と言ってもいい。

分かりたくなかった共感トーク「友達の情報量」

僕にとって衝撃的だったのが序盤の雑談回。

二人して「飲み会でベタな話をされるのが嫌い」「つまらない話を聞くよりは本を読んでいる方が楽しい」といった、友達に情報量を求めてしまう(どこか非人間的な)世界観について語っているのですが。
僕もその傾向を持っていまして、昔から人と会話したり話を聞いているときに「月並みなことしか言っていなくてつまらんなあ」と思うことも多々あるのですが。

※僕の話も大体つまらんやろという指摘は当たっています。
※そして僕の思う「ベタじゃなくて面白い話」の基準については堀元さんのコチラの記事が詳しいです、購読オススメですよ。

この動画を見て以降、僕は種々のインプットに対して「情報量ねえなあ」「やっぱ情報量がイケてるな~」とジャッジする癖が付きました。元々の思考傾向がさらにブーストされてしまう。

「メタモン」の汎用性、ミーム提案委員会

前述の「うんちくエウレーカクイズ」でも数多のパワーワードが生まれていたのですが、そうしたミームを作ってしまえという企画もありました。

ここで挙げられている「メタモン」というワード、思いっきり共感したし使いどころも多いし大好きなんですよ。

水野
「例えばその、『好きな本は何?』と聞かれたときに、メタ認知が暴走する人間……僕はこういう人のことを『メタモン』と呼びたいんですけど。
 僕のようなメタモンからすると。この人はまず、読み終わった後にどんな気持ちになりたいんだろうとか、僕に何を期待して本を聞いているんだろうとか、シンプルに面白い本を聞いているのか、相当に期待して……『お前は結構本読んでるだろ、良い本も知ってるだろ、その中でも特濃な奴を教えてくれよ』と聞いてるのか。それとも、共通の話題がないから適当に聞いているのか……っていうのを色々考えちゃうんですよね」

堀元
「こじらせすぎでしょ」

水野
「なんかやっぱ、すぐメタ認知しちゃうんですよ。メタ認知って言葉が聞き慣れなければ『相対化』だと思ってくれても良いんですけど。ついその、自分を引いた目で見て考えちゃうんですよね」

意図せずメタ認知が暴走する悲しき怪物【ミーム提案委員会2】#71
2:03~2:54より引用して文字起こし

僕も「好きなアニメは?」と、特に女性から聞かれたときにメタモンしがちなんですよ。単に好みを知りたいのか、聞き手が観たいと思えるものを言うべきなのか、美少女成分が濃いのを挙げるとマイナスだろうか、メジャーすぎるとベタでつまらないか、かといってマイナーに走って相手が知らないのを挙げるのも……のように。

他にもコーナーの内外で「古参チマン」とか「知的ジャイアン」のような、パンチと汎用性を兼備したミームが多く生まれています。

そうしたワードの数々は、有志の運営するサイトにて解説されています。

これだけ用語索引が渋滞するのがラジオの性格をよく表している……


世界に広がれ、ゆる学徒の輪


このように『ゆる言語学ラジオ』本編も面白いのですが、スピンオフやファンコミュニティに目を移してからが本番とすら思えるほど、豊かな外側が広がっています。

クレイジー比喩VS機械音痴『ゆるコンピュータ科学ラジオ』


話し手を堀元さんに交替しての『ゆるコンピュータ科学ラジオ』。分かりやすかったり分かりにくかったりする喩えを用いてのコンピュータ科学の解説や、IT史から学ぶ仕事のコツなど、門外漢には難しそうなテーマを軽快な掛け合いで楽しめます。
大泉洋をはじめ、プリンみちょぱが大活躍、そしてベネッセを煽る

野生の学徒と40本ノック、ゆる学徒ハウス予選

他の人にも『ゆる○○学ラジオ』をやってもらおうという公募プロジェクト『ゆる学徒ハウス』の選考過程が非常に楽しかったのです。40もの分野の面白ポイントを学べるの、贅沢がすぎる。

5分程度の動画による1次選考、そして堀元さんが40回も聞き手を務める30分~1時間の2次選考。


そして本選では、ファイナリスト10名が合宿をしながらラジオを録りました。人間模様の変遷、トークセッションの読み合いや盛り上がり、面白かった……

一方、本選に進めなかった学徒も有志により別プロジェクトを立ち上げ。


長い長い選考の果て、6番組が誕生。ここから忙しくなる嬉しい悲鳴……!!


もはや街、特濃ファンコミュニティ

僕も参加している、課金ファンによるdiscordチャンネル。番組出演はしていないファンによる活動も凄まじいことになっています。

本編から派生したスレッドや自発的なラジオなど、およそ2500人(執筆時点)がひしめく文字の海です。もはや街。

そこでは「番組の公式本に発生した誤植を解析し、新たな暗号に仕立てる」というプロジェクトも行われていました、誰がここまでやれと言った。

前述した「ミーム提案委員会」「うんちくエウレーカクイズ」も活発に行われていますし、番組運営の作戦会議が繰り広げられることも。月1000円でこれだけの情報量に飛び込めるのは実質無料ですよ……なおいち亀は全貌の1%くらいしか浴びていません、今年はもっと入り浸りたい。

そして年末には、ファン&関係者25名によるリレー企画も行われました。

なんで堀元さんまわりの人ってこんな思い切りが良いの……

どちゃくそ好みだった2次創作。こういう曲解の仕方が大好きです。

アウトロ:この文化を愛してる

ここまで書いてきたように。
『ゆる言語学ラジオ』は単なる番組に留まらず、新たな文化を形成するブランドとなりつつあります。

仲の良い面子が知識を遊び道具にしてキャッキャする空間、高校の教室で友達と喋っていたときを思い出しもするのです。その遊びを大人になても全力でやっている、僕にとって懐かしくも新しい居心地の良さをくれる場所です。
そしてこの文化が広がる勢いは、今年はさらに加速しそうな気配。


もっと広く大きく、けど楽しくゆるく、知性と知識を面白おかしくこねくり回す。
そうやって続いていく営みが、僕の日々を彩ってくれるのだろうという予感が止まりません。

今年もよろしく、ゆる言語学ラジオとゆかいな仲間たち。

そしてここまで記事を読んでくださったあなた、まずは本編のチャンネル登録からどうぞ! !

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