映画 #僕愛君愛 は超面白いSFだから観てほしい、原作ファンの願い

『僕愛君愛』との出会いと現在地

小説の「タイトル買い」が好きなオタクです、ごきげんよう。

6年前に「面白そう~」と買って「うっわ面白え~~!!!」と唸った一対の小説。 

このたび、アニメ映画化することになりました。10月上旬公開です。

2冊を1本にでもなく、1本ずつでもなく、同時公開
原作と同じく「観る順番で結末が変わる」ことを掲げて。

恐らくですが、1本ずつ順に公開した方が興行としては有利なように思います。客足を集中させた方が上映枠も確保しやすいでしょうし、宣伝もしやすい。
しかしあえて同時上映に踏み切ったその勇気、果敢で挑戦的な原作リスペクト、僕は感銘を受けました。

ぜひ、ヒットしてほしい、話題になってほしい。

しかしここまでの公式のPRを眺めていると。

ラブストーリーを推す空気は出来ているようですが、SF作品としてのプッシュが薄めだなあ……と思うのです。
ターゲットの客層などを踏まえればこうなるのも妥当かもしれませんし、そもそも日本でSFはモテないみたいな話も聞きますが、(少なくとも原作は)とても面白いSFです!
SF好きにリーチしないのは、勿体ない!!

『僕愛君愛』は情緒を揺さぶる面白SFです(大声)

ということで本稿では、本作のSF的側面について紹介です。ややネタバレはありますが核心には触れていないので、完全フラットで観たい方以外は読んでいただいて大丈夫……と想定しています。

加えて、ストーリーはともかく世界設定は知っておいた方がついていきやすいと考えていますので。

並行世界にまつわる設定について

本作の世界設定、作中でいう「虚質科学」を簡単に説明すると、

○世界は「物質空間」と「虚質空間」の重なり合いで構成される。あらゆる物質は虚質と共に存在している。
○虚質空間とは、物質が変化するための場であり、時間の連続性を産んでいる。この変化のバリエーションが「並行世界」を作る。
○並行世界の間で、同じ物質の虚質が移動することがある。
○虚質も量子で構成されるため、電磁場に干渉される。

これらを人間の意識から見ると、

○人間の意識は、並行世界の自分と入れ替わってしまうことがある(=人間の虚質のシフト)。
○近い並行世界では「物の置き場所や食べた物が違う」程度だが、遠い並行世界では「人間関係や配偶者が違う、生死も異なる」ほど大きな変化が起こる。
○近い並行世界の間では日常的にシフトが起こっており、遠い並行世界の間では稀にしか起こらない。
○シフトは受動的に起こっており、能動的な移動が出来るかは研究中。

となります。基本的には後者(人間視点)だけ理解していればいいのですが、ストーリー終盤では前者(量子サイドの法則)を把握していないと分かりづらいかもしれません。

この世界設定を活かしたラブストーリーを展開する本作。映画の予告の範囲では、
「違う世界から来たヒロインとのロマンス」→『僕愛』
「ヒロインと結ばれるための別世界への逃避行」→『君愛』
のように紹介されています。

ただ、少なくとも原作を読んだ限りだと、後半では非常にディープな倫理的葛藤が描かれていました。


並行世界と自己同一性を巡る、幸福の天秤


並行世界が実証された以上、

「並行世界にいる自分は、どこまで自分なのか」
「並行世界の恋人のことまで、自分は愛しているのか」

という疑問は自然と湧きあがってきます。

その疑問を拡張し、人物の心理や状況を追い込んでいくと

「並行世界にいる自分がした事に、この世界の自分はどう向き合うのか」
「この世界のヒロインを救うために、並行世界にいるヒロインを犠牲にしていいのか」

という葛藤に直面することになります。

この葛藤、いわば「並行世界どうしの幸福の奪い合い、不幸の押しつけ合い」「同一人物の可能性どうしの衝突」という概念が、本作のストーリーの肝です。
(僕は詳しくないですが、『ガンスリンガー・ストラトス』とか『Fate/Grand Order(第2部)』とかはそういうテイストだった印象)

ラブストーリーにこの葛藤を絡めることで、キャラたちのディープな感情を、愛のよるエゴを見せつけられる。その世界設定だから描ける人間性を存分にやっているのが本作です。

並行世界を越えて浮き彫りになるキャラ解釈

主人公・暦が別の並行世界で送る人生が2本を通して描かれるのですが、そのイベントは当然違っています。人生を共にするヒロインも別です。

ただ、主人公の行動原理は2作とも一貫している……というより、言動は全然違っても根っこは近いです。つまり2作とも観ると、「違うインプットから違うアウトプットが生まれる」「しかしその函数(=キャラ解釈)はとても近い」という構図を物凄い角度から眺められるのです。そこから来る納得と暴かれる欺瞞、エモもエグみも壮絶。

このセルフ二次創作のような思考実験がめちゃくちゃ面白い、原作・乙野先生のキャラ解釈の深みを堪能できます。

そして暦の行動原理は「今いるヒロインを幸せにする」ことを中心にしています。
ヒロインを襲う不幸、そのときの主人公の立場、それらの違いが弾き出す答え。

2本とも観たからこそ分かる、彼の狂おしいまでの愛の形。圧巻ですよ。

SFロジック描写への期待

ここまではキャラ心理の話をしましたが、「その望みのために何をすればいい?」というSF的アプローチも勿論面白いのです。
ただ、聞き慣れない概念をさらに飛躍させる展開でもあるので、台詞や文字だけでの理解は難しそうでもある。

なので、アニメならではの視覚的な解説でスパッと伝わってほしいな……と願っております。
ロジックが面白さにつながる作品なので、ロジックから逃げないでほしいなあ……一番の心配はそこですね、勢いだけで駆け抜ける映画化になっていてほしくない。

けど多分、しっかりロジックに向き合っている映画化になっている……と思います! 信じてるぞ公式!


「どっちから観た方がいい?」に対する私見


どちらから観るか、一度しかできない選択をぜひ楽しんでください。
そして、あなたとは逆の順番で観た、並行世界のあなたのことを想像してみてください。

映画公式サイトより引用

……と原作・乙野先生が語っているように。
物語のコアである「選択によって分岐する並行世界」をメタ的に体験できることが、2作同時刊行の醍醐味でした。そして今回の同時公開でもそうです。

作中だと「未来を知らずにした選んだ道」なので、前情報なしに勘で順番を選んでみるのも面白いでしょう、僕も原作はそれでした。

けどやっぱり参考情報がほしい、という人も多いはず。

予告編を観ると、
僕愛→君愛だと「bitter」
君愛→僕愛だと「sweet」

と紹介されていました。確かに、『君愛』は切ない余韻だし『僕愛』は前向きな余韻……というのは同意です。
ただ、「どっちを後に観るか」だけでなく「どっちを先に観るか」も大事。

そのうえで僕の意見は、
スッキリするのは「君愛→僕愛」
ディープに味わえるのは「僕愛→君愛」

です。

スッキリするというのは、『僕愛』の余韻がハピエン寄りであることに加え、因果関係を掴みやすい順番であることです。『君愛』で描かれたことが『僕愛』につながる……という側面もある物語なので。

しかし、本作の世界観やキャラの深みがより強く胸に迫ってくるのは『君愛』の方だ、というのが僕の印象です。
まずストーリーの難度、語られる設定の複雑さは『君愛』の方が高めなんですよね。『僕愛』で虚質科学の基本を知ってから『君愛』での応用に行く……という順番が、知識の面でも追いやすい。

そしてここからは僕の趣味なんですが、「隠された痛みを後から知る」「キャラの原点を後から見せられる」構成が大好きなんですよ。例えば『スター・ウォーズ』で、悪役ダース・ベイダーのオリジンが後から描かれたような。

『君愛』で極まっている暦くんの狂気的な愛、これは後で観た方が格段に刺さる。僕は原作を「僕愛→君愛」で読んで大好きになったし、メリバ的な着地を推しがちなので。

まとめると、
スッキリしたい/ハピエン志向の人は「君愛→僕愛」がオススメ
物語をより深く味わいたい人、そして僕のオススメは「僕愛→君愛」

です。

そして乙野先生も『君愛』締めを「感情がぐちゃぐちゃになる」と語っていますね……感情ぐちゃぐちゃになる話が好きなオタクはよろしくな!

映画との関係は少なめですが、このスピンオフもすごく面白かったですよ……世界設定を活かしたミステリが面白いですし、栞ちゃんの魅力が爆発しています。

以上、お読みくださりありがとうございました。小説と映画、共によろしくお願いします。

なお本稿はゲーム『十三機兵防衛圏』のSF×キャラ物ストーリーが大好きなオタクが執筆しました。


後ふぁなみりー各位へ、この話はすっごくOoMぽいだから見逃さないでね。


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