「十三機兵防衛圏」をフィクションの愛好者に全力で勧めたい理由【Switch版リリース記念】

ネットユーザーならどこかで耳にしたタイトルではないでしょうか。
2019年にPS4でリリースされたADVゲーム、『十三機兵防衛圏』。

とにかくシナリオがヤバイ、唯一無二……という口コミで大きな話題を呼びました。『スマブラ』ディレクターの桜井政博氏をはじめ、業界人からの絶賛も印象的でしたね。

そんな今作が、(元のPS4に比べ)普及も進んでいるSwitchにて発売。布教には最高のタイミングです。

その面白さの理由については色んな人が語り倒しているわけですが、僕だって書きたい!! ……というパッションでお届けする本稿。

重大なネタバレは基本ナシ、やや匂わせになる部分は最後に配置してありますので、未プレイの方も安心してご覧ください。

プレイと思考の止まらない、強烈なシナリオの誘引力

製品紹介にもあるように、「十三人の少年少女が巨大ロボットに乗り込み、怪獣から街を守る」フェーズ(崩壊編)が今作のバトルパートであり、シナリオの終盤にあたります。
では、その決戦までに彼らはどんな日々を送っていたのか……というのがアドベンチャーパート(追想編)で描かれます。

この追想編ですが、序盤は平和なムードです。80年代のノスタルジックな風景の中、趣味や恋愛のお喋りに忙しい。戦闘の陰すらない牧歌的な日々に、少しずつ非日常や違和感が現われていきます。

並行して、過去(太平洋戦争中)や未来(21世紀)に生きるキャラクターたちも描かれていきます。しかも、同じ人物が複数の時代を行き来している様子……なるほど、タイムトラベル?

物語が進む中で、プレイヤーも操作キャラも次々と違和感に襲われます。
「さっきまで優しかったアイツ、めっちゃ憎まれてるけど?」
「待って、なんでこの子が襲ってくるんだ」
「今のは夢、と見せかけての……過去? いや、前世?」
「顔が似てるからアイツと同じ人物……だとおかしいよなあ」

謎が積もってからの中盤、新たな事実が判明するたびに別の謎が浮上する、極上のミステリー体験がずっと続きます。しかも、十三人の視点で重層的・立体的に。
ここに来ると、プレイ欲が止まらないのは勿論、他の時間もずっと『十三機兵防衛圏』のことを考えるようになっています。
「アレの真相がこうで……じゃあアイツの正体は……いやそれだとコレどうなるんだ?」
というグルグル思考のまま仕事をして、帰ってプレイして
「マジか!!」「繋がりやがった!?」
と叫ぶ、そんな日々が一週間続いたのが僕の場合でした。

人生20数年、色んなストーリーを味わってきましたが、これだけ心が惹きつけられっぱなしだったのは初めてでした。

複数主人公ならではの、多彩なジャンルとオマージュ

前項では謎を強調しましたが、主人公たちが探偵役となるミステリ的なストーリーばかりでもありません(勿論、探偵要素が強いルートもあります)
十三人のルートそれぞれが違ったジャンルになっており、ぞれぞれ単体でも非常に魅力的です。

ミステリアスなイケメンを追いかける少女のロマンス。
喋るロボットに導かれての異界旅行。
戦中から戦後への孤独なタイムスリップ。
記憶を失っての逃避行。
恋人を救うための秘密の任務。
荒廃した世界での友人との探検記。
悲劇を回避するためのタイムループ。
改変された自身の記憶を巡るサスペンス。

ロボ戦とは無縁そうなモノも含め、SFやファンタジーの要素をふんだんに詰め込んだ十三編。
勿論、オマージュも印象的です。『ゴジラ』『E.T』『時をかける少女』のような有名タイトルをはじめ、SFの名作の要素が多数引用されているとのこと……(ジャンルに詳しくないのであまり語れませんが)

こうした多彩なジャンル感、MCUの構造を思い出すんですよね。
SF・ファンタジー・ミリタリー・スペースオペラといった別ジャンルで主人公を務めたヒーローたちが、節目で一気にアッセンブル。
この「別ジャンルでソロ活躍、からの集合」という流れは本作にも共通しています。そのうえで、常にオールキャストが入り乱れて、謎だらけの物語が次第に解き明かされていく。

複数のキャラクターを切り替えながら、自らの手で物語を追っていく。ゲームならではの作劇、それを限界まで活かしきったのが本作です。


世界の運命を回すクソデカ感情、時空を越える激重関係性

ミステリーでありSFでもある本作ですが、そのコアはキャラ物だと僕は思っています。いくつもの時代を股にかけ、ときには「別の自分」すら絡めながら、愛と憎しみと祈りと呪いで結ばれたドラマが展開されます。

だってさ……「ここでは仲良し」「あそこでは敵同士」とかさ……「よく分かんないけど君がピンチなら私は戦う」とかさ……「あなたに会えるなら何だって壊す」とかさ……好きでしょ?
極上のミステリ体験のたびに、巨大すぎる感情やこじれすぎた関係性を見せつけられるんですよ。ただでさえ面白いのに、恋と友情と執着と運命で情緒がめちゃくちゃに殴られまくる。


そして、これは見ていただければ分かると思いますが、とにかくキャラが可愛い。ビジュアルは勿論、ゲーム中での仕草も愛らしいです。豪華声優陣も本気のフルボイス、この膨大なテキストをよくぞ……!

シナリオゲーとして抜群のホスピタリティ

本作のストーリーは膨大かつ複雑です。各ストーリーを一回プレイしただけですんなり理解できる人は、正直あまりいないのでは……
しかし、「究明編」でのアーカイブが非常に充実しております。すぐに好きなシーンをリプレイできますし、明かされた事実や用語の解説もサクサク読めます。「じゃあアレは何だっけ?」の確認が本当にスムーズ。

ADVパートでは、選択肢やフラグ回収によって別のシーンへと移行するのですが。「以前にコレはやってる」「ここに回収してないフラグがある」といったナビゲーションがフローチャートで示されており、進行状況をすぐに把握できます。作業のように選択肢を潰したりする必要もなく、かといって受け身だけで進むこともない、ADV形式として理想的なバランスに感じました。

また、ADVパートもバトルパートも、大体は10分前後で区切りとなる親切な設計です。忙しい人もサクッと遊んでは離脱できますね……まあ面白すぎて離れられない説は濃厚ですが……


シンプルながらも爆裂ドラマチックな防衛バトル

物語の終着点でもあるバトルパート。
レーダーのような俯瞰視点で、各キャラの機体に指示を出しながら、襲い来る敵から拠点を守っていきます。ターン制ではなくリアルタイム進行ですが、コマンド選択中は時間が止まるのでゆっくり考えられます。難易度選択もありますし、バトルで苦労する心配はそれほどないのでは。

最近のリアルなグラフィックに慣れた人からすると、あるいはロボの格好いいモーションを期待する人からすると、物足りないグラフィックかもしれません。僕も「めっちゃ気合い入ったアニメでこのバトル見たいな……」と思ってはいます。

ただゲームプレイに関しては十二分に楽しいです。というのも、ステータス画面には技のモーションが載っていますし、自機のエフェクトや敵のリアクションから「今ここで、コレが起きてる」をバッチリ想像できるからなんですよね。

小型怪獣の大群にはマルチロックミサイルを。一列に並んだやつらはレールガンでまとめて貫く。空を飛ぶ怪獣はEPSで地面に縫いつける。対空防衛フレアを撒いて降り注ぐミサイルを散らし、大型のデカブツはブレードによる近接格闘で叩き潰す。そのどれもが、いつの時代でもお前が思い描いていたロボット戦闘の文脈だ。つまりたとえ初めて機兵を操縦したとしても、お前はもう戦い方を熟知している。今まで目にしてきたロボット作品が血肉に廻っているからだ。
(上記noteより引用)

引用した通り、「僕らは、この技を知っている、この手応えを覚えている……!!」なんですよね。
囮で敵を引きつけ、バリアを張る敵を狙い撃ち、味方にバフを掛けながら、密集する敵へ強力な弾雨を見舞い、強敵へ殴り込む。幾多の物語を駆け巡ってきた少年少女チームの死闘、それを指揮するエモーションは別格です。

そして、大群を前にしての拠点防衛戦です。
数千数万の群れ、あるいは超巨大な強敵に、仲間と肩を並べて立ち向かうのです。一番燃えるシチュエーション、それがずっと続きます。
敵に包囲されてからの必殺の一撃、無数の敵反応が一斉に消失……こういうのですよこういうの……着弾範囲が一気に空白になる爽快感……!!

そして戦闘中のキャラの掛け合いも良いのです、緊張と昂揚が目に浮かぶ……やや地味ですが、キャラの固有スキルにADVパートでのイベントや関係性が練り込まれているのも嬉しいですね。


このように。
あらゆるフィクションの面白さを詰め込み、最高で無二の物語体験をさせてくれるのが『十三機兵防衛圏』です。エンディングまでのプレイ時間は30時間ほどでしょうか、そこまで長くない部類でしょう。それに体感としては秒です。

最後に。具体的な明言はしませんが、本作の核心に関わる話をします(「ということは、ああいう話かな……?」思われそうなネタ)

フレッシュな気持ちで遊びたい人はここで離脱することを推奨しますが、前情報が出来るだけ欲しい派の人は読んでいただくのもアリです。あるいは、既プレイの人の答え合わせの意味も込めて。





【雰囲気ネタバレ注意】本作のメタ的な醍醐味について





本作の後半で、物語の背景に途方もない「祈り」があることが明かされます。そして、明言はされませんが、戦いの果てに主人公たちが得る感情も読み取れます。

そうした要素がゲーム体験と深く結びついていることに、僕は深い感動を覚えました。

自分たちが好きだった時代感やカルチャーをゲームにして、人に体験してもらうこと。
謎を解き明かしながら危機に抗うフィクションを体験したこと。

その意味とは、何か。
創作が、人生に、世界に、与える意味とは何か。
プレイヤーを待っているのは、その問いへの一つのアンサーです。不安定な現実を生きる我々への提示です。

本作はクリエイティビティの結晶であると同時に、あらゆるクリエイターやカルチャーへの猛烈な賛歌でもあります。今日まで続いてきた、紡がれてきた、あらゆるフィクションへのラブレターでもあります。

故に、フィクションの愛好者に、全力で勧めたい。




この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?