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人に物をあげる心理

人にものをあげたくなるのはなぜ?

こんにちは、臨床心理士のいちかです。今回は、「人に物をあげる」という行為について心理学的に考えてみたいと思います。

皆さんは、誰かにプレゼントを贈ったり、ごちそうをしたり、お金を貸したりすることがありますよね。それはなぜでしょうか?人に物をあげるという行為には、どんな心理的なメカニズムが働いているのでしょうか?
私も大学生のときは、なぜか大学の後輩を大勢連れて焼き肉をごちそうしたりと、よくおごっていました。私の場合は、先輩がいつも私たちに夕飯をごちそうしてくれ、後輩にはおごるものだという価値観を持ったからというのもありますが、後輩におごって喜んでもらうとこちらも嬉しい気持ちになるというものもあるんですよね。(実際、お金が無限にあるわけではないので、後輩におごったあとの1週間は納豆ご飯で過ごすなど、みじめな生活を送っていましたが…。)

1、人にものをあげたくなる心理的なメカニズム

人に物をあげるという行為には、様々な心理的な背景が考えられますが、今回は大きく分けて三つのタイプを紹介します。

一つ目は、相手に感謝や愛情を伝えたいという「報酬性」のタイプです。これは、相手が自分に何かしてくれたり、自分が相手に好意を持っている場合に起こります。例えば、誕生日や記念日にプレゼントを贈ったり、恋人や家族にごちそうしたりする場合です。このタイプの人は、相手の反応や感想を気にします。相手が喜んだり感動したりすると、自分も幸せな気持ちになります。

二つ目は、相手に何かしてもらいたいという「交換性」のタイプです。これは、自分が相手に何か欲しいことがある場合に起こります。例えば、仕事や勉強で助けてもらいたいときにお礼をしたり、友達や知人にお金を貸したりする場合です。このタイプの人は、相手の期待や義務感を利用します。相手が自分に恩義を感じたり負い目を感じたりすると、自分の要求に応えてくれると考えます。なお「報酬制」「交換性」のタイプは心理学では「返報性の原理」という言葉で理解できます。返報性の原理とは、相手から何かを受け取ったときに「こちらも同じようにお返しをしないといけない」という気持ちになる心理です。 例えば、スーパーの実演販売で、最初は商品を購入するつもりがなかったのに、店員から「おひとつどうぞ!」と笑顔で言われ、丁寧な接客を受けて「つい買ってしまった」という経験がある人も多いのではないでしょうか。

三つ目は、自分の価値観や信念を守りたいという「規範性」のタイプです。これは、自分が社会的なルールや道徳的な規範に従っていることを示したい場合に起こります。例えば、慈善活動やボランティアで寄付したり物品を提供したりする場合です。このタイプの人は、自分の良心や自尊心を満足させます。自分が正しいことや善いことをしていると感じると、自分の自己評価が高まります。ちなみに心理学の研究では、ボランティアの参加や募金をすることで幸福感が上がるというものがあります。誰かに物をあげることも、あげた人にとって心理的なメリットをもたらすようです。

私もよく近所のご家庭にお菓子を持っていきます。こちらとしては「お元気かなー?」くらいの気持ちでご挨拶したくても、相手の方が高齢でひとり暮らしだったりすると、インターフォンを受けて出てくるだけでも負担なこともあるかもしれません。また、インターフォンに出る前に「変な訪問販売だったら嫌だなー」という気持ちになって億劫になるかもしれません。そのような事を想像すると、さりげない菓子折りを持って訪問し、「出かけたついでに買ったのでどうぞ」などと一言添えれば、とても気楽な訪問になります。

以上のように、人に物をあげるという行為には様々な心理学的な背景があります。皆さんも、自分がどのタイプに当てはまるか考えてみてください。そして、相手のタイプも見極めてみてください。それが、人間関係の円滑化やコミュニケーションの向上に役立つかもしれません。

2、カウンセラーがクライエントからプレゼントをもらうとき

上記のように人にものをあげるという行為の背景には様々な心理的メカニズムがあることを紹介しました。一方で、同時にものを受け取る側もどうするべきか細やかに判断が求められるときもあります。今度は、専門的な視点から、臨床心理士という専門家がカウンセリングの場面でクライエントからプレゼントをもらったときどうするか考えてみます。
カウンセラーは、人々の心の悩みを聞いて、助言や治療を提供することが仕事です。そして自分の仕事に誇りを持ってはいるのですが、時々感謝されることが少ないと感じることもあります。そんなとき、クライアントからプレゼントをもらったらどうでしょうか?

カウンセラーがプレゼントをもらうことは、一見すると嬉しいことのように思えます。しかし、実はそれはカウンセリングの関係に影響を与える可能性が大いにあるのです。プレゼントをもらうことで、カウンセラーはクライアントに対して恩義を感じたり、期待に応えなければならないと感じたりするかもしれません。また、クライアントはプレゼントを通じてカウンセラーとの距離を縮めたり、特別な関係になりたいと思ったりするかもしれません。これらの感情は、カウンセリングの目的や倫理に反する可能性があります。

では、カウンセラーはプレゼントをもらったときにどうすればいいのでしょうか?一概には言えませんが、以下のようなポイントを考えてみましょう。

- プレゼントをもらった理由やタイミングを確認する。クライアントはどんな気持ちでプレゼントを渡したのか?カウンセリングの進行や終了に関係しているのか?

- プレゼントの内容や価値を判断する。プレゼントはカウンセリングの範囲内で受け取れるものか?プレゼントが高価すぎたり、個人的すぎたりしないか?

- プレゼントを受け取るかどうかを決める。プレゼントを受け取ることでカウンセリングの関係に影響が出ると思われる場合は、丁寧に断る必要があるかもしれない。プレゼントを受け取る場合は、クライアントに感謝の気持ちを伝えるとともに、カウンセリングの目的や枠組みを再確認することが大切である。

カウンセラーがプレゼントをもらったときには、様々な感情や判断が必要になります。しかし、それはカウンセリングの関係を深めるチャンスでもあります。クライアントからのプレゼントは、彼らがあなたの仕事に対してどう思っているかの一つの表れです。それを受け止めて、適切な判断が取れると1人前のカウンセラーと言えるでしょう。
ちなみには私はクライエントから物をもらうときは必ず受け取りその場で開けます。そして「ありがとうございます。今日この素敵なものをくれたのはどのような意味があるか教えていただけますか?」と聞こうと思っています。

一般的にはここまで細やかに考える必要はないですが、人が物をあげるときには様々な気持ちがあることを知っておくことは人間関係を円滑にするのに役立つでしょう。

それでは、今日はこの辺で失礼します。次回もお楽しみに!

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