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【見ると人生が豊かに】もう退屈に耐えられない~退屈解消の心理学~

<はじめに> 退屈に耐えられない心理

今年の夏は、コロナが明けたかのように、ここ数年中止していた花火やお祭り、フェスなどのイベントが復活し、夏休みらしい夏になりました。一方で、多くの日が異常に暑い日や雨が多く、「もう退屈に耐えられない!」と誰でも一度は思ったことでしょう。

しかし、実はこのやっかいな「退屈」に対して解決する方法があるとしたらぜひ知りたいですよね。万人に通用する『これ!』といったものはもちろん提示できませんが、退屈の本質を知り、どのように向き合うか伝えるノウハウがあります。

退屈との向き合い方を獲得できたら、あなたの人生は非常に豊かなものとなるでしょう。今回は、「退屈」という現象のより深い理解と退屈を解消するヒントをご提供したいと思います。

退屈の正体とは?

まずは、あなたが苦しむ退屈の定義とその原因を紹介します。辞書によると退屈は「差しあたって心を集中させるものが何も無くて、時間を持て余すこと」と定義されます。

この夏休み私も沖縄旅行へ行き、台風の影響で、空港で7時間、振替便の列に並びました。まさしくそんなとき退屈を感じますね。

しかし、退屈というのはみんなが知っているけど、みんながはっきりとわからないという性質もあります。哲学者の國分先生によると、退屈には哲学者ハイデッガーがまとめた3つの形式があるといいます。それは以下の3つです。

第一形式の退屈:空虚を避けるため気晴らしを行う状態
第二形式の退屈:気晴らしの中に退屈がぼんやりある状態
第三形式の退屈:なんとなく退屈だという状態

第一形式から第三形式になっていくことで、退屈が深まっていくと言われています。退屈を本質的に理解するために、この3つを詳しく見ていきましょう。

第一形式の退屈:空虚を避けるため気晴らしを行う状態

第一形式の退屈は、「何かによって退屈させられること」を指します。具体例を挙げると、
 
「田舎の小さなローカル線の駅で乗り換える予定だが、次の電車は4時間後。周囲はお店や興味を引く建物はなく、本は持っているが読む気にもならない。周囲の木々の本数を数えたり、地面に絵を描いてみるがすぐに飽きる。腕時計を見たら15分しか経っていない。」みたいな状況を指します。
 
上記の例でいうと時間に退屈させられている状態です。

第二形式の退屈:気晴らしの中に退屈がぼんやりある状態

第二形式の退屈は「何かに際して退屈すること」を指します。第一形式の退屈の原因が明確であることに対して、第二形式の退屈は何がその人を退屈させているのか明確でないものと言えます。
 
具体例を挙げると、
「ある日の夕方パーティーに招待されて参加している。行かねばならないこともないが時間が空いていたので参加した。そこでは慣例通りの夕食が出て慣例どおりの会話が交わされる。食事も美味しく、音楽を聞き、談笑する。面白く愉快である。このパーティーに退屈なことはなく満足して帰宅した。しかし、家に帰り、明日の仕事について準備をすると、ふと(あのパーティーはなんだったのだろう。本当は退屈していたのだ)と気づく。」
といった状況を指します。
 
みなさんもこのような経験をしたことはないでしょうか?
私の場合だと、休日に時間ができたので、なんとなく観に行ったコメディ映画が面白かったのだけど、見終わったあとに、(何の時間だったのだろう?)と疑問に思った経験と似ている気がします。
 
第二形式のユニークさはパーティーのような気晴らし自体が退屈であり、退屈と気晴らしが独特の仕方で絡み合っている点であると言えます。

第三形式の退屈:なんとなく退屈だという深い退屈状態

第三形式の退屈は、もはや気晴らしが不可能であるような深い退屈であり、つまりは「なんとなく退屈だ」という状態です。
 
例を挙げると「日曜日の午後、大都会の大通りを歩いている。するとふと感じる。『なんとなく退屈だ』」といった状況を指します。
 
ここまで深い退屈の状況になると気晴らしは許されず、逃れられないように感じるものだと言われています。
 
ここで、第一形式と第三形式の関係性についても述べておきます。
まず、なぜ第一形式の退屈が出現するのか?
 
國分先生によると、
「それは、時間を失いたくないと思っているから。ではなぜ時間を失いたくないのか?それは日常の仕事に使いたいからだ。これはハイデッガーのいうところの日々の仕事の奴隷になっているからだ。」という結論に至ります。
 
普段、人々が仕事の奴隷になっているから第一形式の退屈が生まれるということなんです。
 
さらに、なぜ私たちは仕事の奴隷になるのか?
 
それは『なんとなく退屈だ』(第三形式)という声を聞くことがもっと恐ろしいから。深い退屈から逃げるためだ」と言われています。つまり第三形式の退屈を避けるために第一形式の退屈の原因が生まれるという関係性が見えてきます。
 
そういう観点から考えると、第二形式の退屈も『なんとなく退屈』から逃げるために行われているが、そこには自分の自由度(余裕)があるが、第一形式では仕事の奴隷になっているため、自己喪失が大きいと結論づけています。

退屈を解消するには?

それでは、このようなやっかいな感情である「退屈」をどのように付き合っていけばよいのでしょうか?國分先生が見出し、私も深く共感した3つの方法について、これからご紹介したいと思います。
 
※ただし、國分先生は、「この本(暇と退屈の倫理学)を精読せず、結論だけ読んでもピンとこないだろう。」とおっしゃっています。より深く知りたい場合は、参考文献をぜひご覧ください。

退屈の正体を理解する

1つ目は、退屈の本質を理解することです。この記事をここまで読んでいただいて、人を悩ませる退屈について新しい認識を得られたならば、あなたの中ですでに何かが変わっているはずです。
 
これは私の記事に一貫していることですが、理解することのパワーということです。ただし、この記事では新しい認識が得られなかった方、もっと深い理解した方は、『暇と退屈の倫理学』をぜひ読んでください。
 
國分先生の本では、退屈の歴史や、経済との関係、哲学者の考え方の変遷など詳しく書かれているので、これらを精読するとより深い理解ができます。
 
私個人は、『仕事の奴隷になっているせいで退屈を感じる』という関係性を発見したことが非常に新鮮でした。このような発見をしたことで、大仙院のお坊さんである尾関宗園さんの言葉「惰に退屈せず」を実践しようと思いました。
 
「惰に退屈せず」とは、『なまけろといっているのではない。「何もしない」でいる状態をつくれということである。「何もしない」という意味は、「…のために行なう」 ことではなく、「…を行なう」という無目的な自由奔放な健康な状態に、 自分の肉体も精神も置くこと』です。

贅沢を取り戻す

2つ目は、過去ヨーロッパなどの貴族などが実践していた「贅沢を取り戻す」ことです。贅沢とは<物を受け取ること>を指します。これは現代社会において観念だけを消費する行為とは異なるものです。
 
食事で例えるなら『芸能人が美味しいと言っていたあれを食べよう!』といった観念だけで食事をし、それを食べただけで一時的な満足をするだけで、すぐに渇いてしまいます。また別の誰かが紹介しているものを食べ続け、消費のループに陥ってしまいます。
 
<物を受け取ること>とは、そうではなく、家庭で作ったものでも五感や様々な部位(口、舌、喉、全身)で食事を受け取り楽しむことです。このように“楽しむ”には訓練が必要です。
 
芸術であれば『あのTVでやっていた遊園地に行こう!』と行くのではなく、様々な芸術について学ぶ中で自分の良いと思ったものを味わう訓練をすることで退屈を避けることができます。

動物になること

3つ目は、人間らしい生活がなんらかの不法侵入によって崩れ、その対象のことしか思考できなくなることを指します。例えば、ミツバチは一度、花の蜜を吸い始めれば、たとえお腹に切り込みを入れられて蜜が体に貯まらなくても、蜜を吸い続けます。このときミツバチは退屈など感じることはありません。
 
一方、人間は、日々の仕事の退屈を避けるために気晴らしにパーティーをし、これは人間らしい生活と言えますが変わり映えのない慣習的なものでもあり、退屈を生みます。
人間もそういった意味で動物になるには、ある対象に「とりさわられる」ことが必要になります。
 
そして人間がそのような状態になるには、「何が起こるかわからない新しい環境に身を置き、どのように対処するか考えながら行動している状態」になることが大切とのことです。
 
具体的には、刺激的な芸術作品に出会うとか、旅行に行くとか、夏休みでいうと肝試しに行くようなものが挙げられます。
 
また、哲学者のドゥルーズによると、日々、映画や美術館に足を運ぶ(贅沢を取り戻す)ことで「動物になること」を待ち構えることができると言っています。

結論 まとめ

今回は、「退屈」という現象のより深い理解と退屈を解消する方法についてお伝えしました。要約すると以下の通りです。
 

退屈の正体を理解する
贅沢を取り戻す
動物になること

このような退屈との向き合い方を獲得できたら、あなたの休日や人生は非常に豊かなものとなるでしょう。この夏休み、「なんか休みだったのに退屈だったなあ。」と感じた人はぜひ参考にしてください。
 
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました!

参考文献

國分巧一朗 2015 暇と退屈の倫理学 株式会社植木製本所
尾関宗園 不動心 1972 精神的スタミナをつくる本株式会社徳間書店


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