人と人がわかりあうためのコツ
人と人がわかりあうことは難しい
こんにちは、臨床心理士のいちかです。今日は、人と人とがわかりあえるためのコツというテーマについてお話ししたいと思います。
人間は社会的な動物です。私たちは、他者との関係を築き、共感や理解を求めます。しかし、時には、相手の気持ちや考え方が分からなくて苦しむこともあります。そんなとき、私たちはどうすればいいのでしょうか?
まず、人と人とはわかりあえるのかという問いに対して、私の率直な答えは「はい」と「いいえ」です。
なぜなら、私たちはそれぞれに異なる個性や経験を持っています。私たちが見ている世界や感じている感情は、他者と同じではなく、似ているだけです。私たちは言葉や表情や行動で自分の内面を伝えようとしますが、それらは必ずしも正確に相手に届くとは限りません。また、相手の内面を読み取ろうとしますが、それらも必ずしも正確に私たちに伝わるとは限りません。
昔、アクアタイムズというバンドの虹という曲の歌詞の中に「似たような喜びはあるけれど同じ悲しみはきっとない」というフレーズがありましたが、まさに人を理解することが可能であり不可能である微妙なニュアンスを教えてくれていると感じます。
1、 人と人がわかりあうために必要なこと
では、私たちはどうすればよりわかりあえるようになれるのでしょうか?
一般的に言われるものは以下の3つです。
1. 自分自身を知ること。自分の感情や思考や価値観を明確にし、それらを素直に表現することです。自分自身を知ることで、自分のニーズや境界を認識し、他者に対しても適切に対応できます。
2. 相手を尊重すること。相手の感情や思考や価値観を否定せず、受け入れることです。相手を尊重することで、相手のニーズや境界を認め、他者に対しても配慮できます。
3. コミュニケーションを深めること。相手の言葉や表情や行動だけでなく、背景や意図や目的を聞くことです。コミュニケーションを深めることで、相手の世界観や感情観を理解し、他者に対しても共感できます。
上記のような努力をすることは大切ですが、このようなことをすることで人と人とは理解できるのでしょうか。私は専門家であっても難しいのではないかと感じています。どのように対処していくかだけではなく、どのようにこの現象をとらえていくかも必要になってくるのかもしれません。こちらについては、心理学会の天才である故河合隼雄先生や私の大好きな小説家である田口ランディさんの考えも参考にしながら深く考えたいと思います。
2、著名な心理学者や小説家はどう考えるか?
人のことを「わかる」というのは本当に難しいです。著名なカウンセラーであった故河合隼雄先生も以下のように述べています。
『心理学を専門にしていると、他人の心がすぐわかるのではないか、とよく言われます。カウンセラーに会うとすぐに心の中のことを見すかされそうで怖い、という人までいます。しかし実際には、このような予想とは反対に、人の心がいかにわからないかということを、確信を持って知っているところが、専門家の特徴である、ともいえるかもしれません。』
怖そうな顔をして小心者の人もいますし、ニコニコしていても人の悪口ばかりいう人もいます。専門家でも、他人の心がわかるということは非常に難しいことのようです。また家族であっても、例えば母親は子どものことを理解しているといえるでしょうか。小説家の田口ランディさんも「わかりあえない、という点においてのみ、わかりあえます」と答えています。田口ランディさんの意見をベースにして、専業主婦の母親と中学生の息子の一日のかかわりを例に挙げて考えてみましょう。
一日24時間のうち、人間は8時間は寝ています。息子は朝8時に登校して、部活が終わって帰ってくる午後6時までの10時間は顔を合わせません。そのあと2時間の塾や習い事があると、残り4時間となります。このうち、トイレや入浴、携帯をいじったり、テレビを見たりしたら、一日に親子が顔を合わせることが1時間を切ることさえあります。たったこれだけしか、かかわっていないのに、「私は子どものことをよく理解しています。」とはなんと自信過剰な発言でしょうか、といったら言い過ぎでしょうか。とすると、家族でさえも、「きっとこうなんじゃないかな。」と推測し、想像することしかできない存在なのです。
私にとっても「わからない」は、魔法の言葉です。他人のことはわからない、という出発点に立ててはじめて、ようやく他人の言葉をよく聴こうと思うようになりますからです。このようなスタンスで他者とかかわると、「あのときの振る舞いはこういう意味だったかもしれない。」と直感がわく奇跡の瞬間が訪れることもあります。子どもについて「うちの子がこんなことをするなんて考えられない。」と思ったことがあるかもしれません。
しかし、「わからない」ということを実感した瞬間は、絶望のゴールではなく、
その人を理解する光が見えるスタートであるととらえたいと考えています。
人と人とはわかりあえるかという問いに対して、一概に答えることはできませんが、少なくとも努力することはできます。私たちは完全にわかりあえなくても、部分的にわかりあえれば、それでも幸せな関係を築くことができるのではないでしょうか?
最後までお読みいただきありがとうございました。次回もお楽しみに!
<参考文献>
河合隼雄 2001年 Q&Aこころの子育て
田口ランディ 2005年 神様はいますか?
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?