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僕もワルグチがいいたいー鈴木涼美「ニッポンのおじさん」

妙な人生を生きたせいで鋭い批評眼を手に入れたなんて人達はしばしばいるけれど、鈴木涼美の場合のそれはもとからなんじゃないかと思うことがある。
事情がありそうせざるを得なかったというよりむしろ好き好んで妙な場所に足を運んでしまったように見える。
もちろん時代の波は問答無用でその時を生きるすべての人に襲いかかるものだし、それに飲まれて訓練された成果があるのも間違いないが。
縛られてかつ自由で、とにかく清々しい。

僕は男性としてこの時代を生きているが正直オトコの世界はよくわからない。
オトコの世界とは、言ってみればジョックスとナードの階級闘争ヒエラルキーの世界だ。
僕はそれから半歩ズレたところで好き勝手にやってる連中の一人なので、ジョックス的成功ともナード的敗北ともあんまり縁がなかった。
実のところ階級闘争が実際に真面目なトーンで行われていると知ったのもずいぶんと大人になってからだった。

そんなわけで成功とも敗北とも縁がなかったおかげでジョックス的不安ともナード的怨恨ともあんまり縁がない。
こればかりは本当に幸運でした。
それでもやっぱりオトコの世界の押しつけがましさにはうんざりしているわけで、気色のわるいマチズモやくだらないエリート意識やらにはめちゃくちゃワルグチが言いたい。
でも、そうだからって散々言っているとだんだんと他人事ではなくなっていくのです。
自分が自分であることからは誰も逃れられないし、これは性別に限らない。
自分であることに縛られながら自由になるにはどうあるべきかを示唆してくれているように思う。

別に究極のジョックスを羨ましいとは思わないだろうに、それでもなおロールモデルとするのは一体なぜなのか。
前置きがほとんどになってしまったけど、そんな不気味なオトコの世界について、切実な好奇心からの視点で書かれた本です。
観察とは、分析とは、それらはいったいどう活かされるべきものなのか。
状況設定だけ見てオンナの視点とか思っていたら見誤る、そんなラディカルな本です。

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