コバヤシタカトモ

のらりくらりコンテンポラリー

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記事一覧

翻訳教室

柴田 元幸『翻訳教室』 (朝日新聞出版, 2013) を読み進めているのだけれど、せっかくだから拙訳を公開します。 1. Stuart Dybeck, "Hometown" Not everyone still has a …

寄道夜想

 なんとなく、まっすぐ帰りたくなかった。  特になにかあったわけじゃない。いつものように、春休みの間にすっかり朝に弱くなった体を引きずって大学に向かい、ガイダン…

断章: 雨のダンス、世界のリズム

 ちいさい頃に住んでいた家は駅からは離れていてどこへ行くにもバスを使っていた。僕のお気に入りの席はうしろから2番目の窓際で、いつもそこに座って窓越しに流れてゆく…

俳句4句 2017年4-5月

春たけてパスタサラダの曖昧さ 午後三時 通りすがりに猫の恋 夏来たり 飛行機雲は乱暴に ゆるやかに眠りに落ちて熱帯魚

How To Make Strawberry Jam

指先がふれあったとき夏めいて 香水や どこかで会った気がするね 白薔薇や 迷子になったふりをして 夕立を永遠にする長電話 言い訳をさがす僕らに虹が出て 真夜中に苺…

Sound of Silence

Seagulls 風すさぶ一夜なりしが明けぬれば鴎ら鳴きていまぞ行くらし 桟橋をひとり渡りて見上ぐればあくまで白き昼の灯台 Waiting Room ロ短調ピアノソナタの鳴り止み…

PLASTiC DiARY

Instant Paradise 日曜の午後 おてがるな天国に あたしの足音溶けてくみたい 地下鉄のリズムに揺られて わかってる つもりのこれは まるで恋だね 信号が青に変わった瞬…

短歌 2015年8月

特選15首 1. やわらかい雨降りの午後 君を乗せてメリーゴーランド回れよ回れ 2. 笑うとき声が表情に一拍遅れる君のためのボサノヴァ 3. 冷たい手の天使が今宵舞い降りる 路…

短歌 2015年7月

特選5首 1. 雨の朝産み落とされし我なれば雨のごとくに君を愛さむ 2. いつのまにか忘れたものの例としてたとえば紙飛行機の折り方 3. ゆっくりと冷めきった珈琲を飲む酸…

聖書より創世記を英語から日本語へ

聖書より創世記の冒頭を英語(New Revised Standard Version)から日本語に訳してみました: In the beginning when God created the heavens and the earth, the earth was …

雑感: 「寒い」は形容詞か?

http://100daysproject.co.nz/project/day/20/2013/116 英語において相当する単語がない非英語言語の単語を1日1個ずつイラスト付きで紹介するというプロジェクトを知った…

詩: The Dogwood

Next to the window of my room I can see the dogwood bloom It gives me a slight sweet perfume And somehow I get a feeling of gloom

エッセイ: 祈りと夢について。

 何年もの間、詣る、という行為をしていない、何度か神社仏閣に足を踏み入れてはいるが。不思議なことに、明確に無神論者を自認する以前の幼少期から、祈る、という行為に…

+2

舞台: 『カモメのいる風景』(脚本・演出・出演・制作)

+2

舞台: 『リボンシトロン・ブルー』(出演・制作, 2012年9月)

小説: ターミナル・ブルー

     1  私は幼い頃から忘れっぽい性質だ。もっとも、自覚したのはそう昔のことではない。小学校のとき、世界中の国の国旗をすべて記憶している同級生がいて、否応…

翻訳教室

柴田 元幸『翻訳教室』 (朝日新聞出版, 2013) を読み進めているのだけれど、せっかくだから拙訳を公開します。

1. Stuart Dybeck, "Hometown"

Not everyone still has a place from where they've come, so you try to describe it to a city girl one summer eve

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寄道夜想

 なんとなく、まっすぐ帰りたくなかった。

 特になにかあったわけじゃない。いつものように、春休みの間にすっかり朝に弱くなった体を引きずって大学に向かい、ガイダンスばかりの初回授業を成績評価方法にだけ注意しながらほどほどに聴き流し、一年生だと思っているのかだれでも手当たり次第なのか声をかけてくるサークルの勧誘を躱しながら駅に向かい、井の頭線に乗って帰ろうとしていた。

 そんないいことも悪いことも

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断章: 雨のダンス、世界のリズム

 ちいさい頃に住んでいた家は駅からは離れていてどこへ行くにもバスを使っていた。僕のお気に入りの席はうしろから2番目の窓際で、いつもそこに座って窓越しに流れてゆく風景を眺めていた。

 その窓も雨の日には曇ってしまい風景は覆い隠されるけれど、代わりにその上にひとつまたひとつとおとずれては競い合うように滑っていく雨粒たちを見ることができた。信号を待っている間やバス停に止まっている間は息を潜めていた雨粒

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俳句4句 2017年4-5月

春たけてパスタサラダの曖昧さ

午後三時 通りすがりに猫の恋

夏来たり 飛行機雲は乱暴に

ゆるやかに眠りに落ちて熱帯魚

How To Make Strawberry Jam

How To Make Strawberry Jam

指先がふれあったとき夏めいて

香水や どこかで会った気がするね

白薔薇や 迷子になったふりをして

夕立を永遠にする長電話

言い訳をさがす僕らに虹が出て

真夜中に苺煮ているさびしがりや

遠雷や 君はなにかを言いかけて

追憶や トマト静かに冷えてゆく

短夜の隙間に満ちて音楽は

もういちど夢みるための青林檎

Note: The picture above is adopted fro

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Sound of Silence

Seagulls

風すさぶ一夜なりしが明けぬれば鴎ら鳴きていまぞ行くらし

桟橋をひとり渡りて見上ぐればあくまで白き昼の灯台

Waiting Room

ロ短調ピアノソナタの鳴り止みし待合室に射す春日影

ゆく雲を眺めしのちの窓の辺に斑に青き檸檬はありぬ

Courtyard

額広き女神像立つ中庭に春雷にはかに鳴り響きたり

宵さればやをら冷えゆく廻廊に風そよ吹きて花かをりたり

Whit

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PLASTiC DiARY

PLASTiC DiARY

Instant Paradise

日曜の午後 おてがるな天国に あたしの足音溶けてくみたい

地下鉄のリズムに揺られて わかってる つもりのこれは まるで恋だね

信号が青に変わった瞬間に みんなさびしいカメレオンなのね

夢のように春の雨だね やわらかく洗ってくれる 街をわたしを

Pinky GiRL

ストロベリーアイスクリームたべながら お花見するの I’m Pinky GiRL

パリ

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短歌 2015年8月

特選15首
1. やわらかい雨降りの午後 君を乗せてメリーゴーランド回れよ回れ
2. 笑うとき声が表情に一拍遅れる君のためのボサノヴァ
3. 冷たい手の天使が今宵舞い降りる 路地裏に転がる青林檎
4. うつくしき遺書書きてのち死なむとぞ思ひ続けて生き続けつる
5. 好きなもの: 猫、レモンティー、夏の空、マグリットの絵、きみの手のかたち
6. ドミノピザのチーズがどこまで伸びるかを測ってみたりとか

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短歌 2015年7月

特選5首

1. 雨の朝産み落とされし我なれば雨のごとくに君を愛さむ

2. いつのまにか忘れたものの例としてたとえば紙飛行機の折り方

3. ゆっくりと冷めきった珈琲を飲む酸味ばかりが強くて、さよなら

4. 夜行バス停車場の列眺めつつ家なき男が猫を撫でをり

5. 雨よ降れ僕らが愛したものすべてと涙をもたない僕らの上に

他50首

1. 失ったなにかを探す朝の街それが何かもわからないまま

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聖書より創世記を英語から日本語へ

聖書より創世記の冒頭を英語(New Revised Standard Version)から日本語に訳してみました:

In the beginning when God created the heavens and the earth, the earth was a formless void and darkness covered the face of the deep, while a

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雑感: 「寒い」は形容詞か?

http://100daysproject.co.nz/project/day/20/2013/116

英語において相当する単語がない非英語言語の単語を1日1個ずつイラスト付きで紹介するというプロジェクトを知った。面白いしイラストも可愛いので面白く眺めていたのだが、その中で「寒がり」を意味するスペイン語"friolero"が紹介されていて、ひとつ思ったことがある。

日本語の「寒い」は形容詞だろ

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詩: The Dogwood

詩: The Dogwood

Next to the window of my room
I can see the dogwood bloom
It gives me a slight sweet perfume
And somehow I get a feeling of gloom

エッセイ: 祈りと夢について。

 何年もの間、詣る、という行為をしていない、何度か神社仏閣に足を踏み入れてはいるが。不思議なことに、明確に無神論者を自認する以前の幼少期から、祈る、という行為に対して抵抗がある。
 先月の祖父の葬式のときも、終始自分は一体何をしているのか、という違和感を拭いきれなかった。自分が死んだら、葬式などしてほしくない。それに使う時間とお金を自分や社会のために役立ててほしい。
 どうやら、人知を超えたな

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小説: ターミナル・ブルー

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 私は幼い頃から忘れっぽい性質だ。もっとも、自覚したのはそう昔のことではない。小学校のとき、世界中の国の国旗をすべて記憶している同級生がいて、否応にもある種のカリスマを感じたけれど、だからといって自分の記憶力が彼のそれよりも劣っているなどとは思わなかった。そんな客観的な評価力に欠ける私だったのだが、それよりも先の成長の途上に、何の前触れもきっかけもなくふと、けれどはっきりと、気がつ

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