短歌 2015年8月

特選15首
1. やわらかい雨降りの午後 君を乗せてメリーゴーランド回れよ回れ
2. 笑うとき声が表情に一拍遅れる君のためのボサノヴァ
3. 冷たい手の天使が今宵舞い降りる 路地裏に転がる青林檎
4. うつくしき遺書書きてのち死なむとぞ思ひ続けて生き続けつる
5. 好きなもの: 猫、レモンティー、夏の空、マグリットの絵、きみの手のかたち
6. ドミノピザのチーズがどこまで伸びるかを測ってみたりとかしたくない?
7. 砂浜で拾ったラムネ壜の中に君の睫毛が入っていました
8. 夏至の日の短き夜に処女が摘む薔薇の香りの香水ください
9. この赤い風船を空に解き放って見えなくなったら夏が終わるの
10. 夜が明けることに逆らう僕たちは横断歩道でワルツを踊る
11. 若者よ、夏の終わりを阻止するため、檸檬を持って国会前へ!
12. 青林檎の甘き腐臭を嗅いでゐる 約束はつひに果たされざりき
13. アパルトマンより身を投げし青年の目蓋の裏の星空を想へ
14. 電話機とティーセットだけがある部屋に素知らぬ顔した白骨死体
15. 産婦人科より帰り来て無言のまま姉が弾きたる『ラ・カンパネッラ』

他81首
1. てのひらにちょうどおさまるあたたかさ温泉番組なんか見ながら
2. 幸運を祈ったりなんかしないけれどいつかまた会おうライ麦畑で
3. 長い手紙書いてるうちに雨は止み飛行機にして窓から飛ばす
4. 月の上のうさぎのお餅こねてる方いるでしょ、あの子昔飼ってたの
5. 置き手紙代わりにうさぎのぬいぐるみに君のパンツを履かせてやった
6. 砂浜に打ち捨てられたラムネ壜の中の空気の香りがします
7. カクテルを口に含んでキスすればなくなっていく平衡感覚
8. わが丈を越えて伸びたる向日葵の種の黒さの恐ろしきかな
9. 三日月の傾くまでを君と見むなくなりてゆく平衡感覚
10. 蚊を殺したその手で君を愛撫するいつか死すべき存在として
11. 「マラスキーノチェリーみたいな女の子が好きなんだ」ってどういう意味よ?
12. カクテルのチェリーは最初に食べるのね。ちょっぴり、ほんのちょっぴりがっかり。
13. 鍵のかかった部屋でいつも君を想うよ林檎が落ちたら逢いに行けるの?
14. 廃線の線路の上を歩きたいスケッチブック抱えた君と
15. いつかこの夢が終わって僕が敗北を知るとき叫べ「目覚めよ!」
16. Around the world you'll see people come 'n go like nothin's changed
17. 来る人のあれば去る人もまたあり なにも変はらず地球は回る
18. 白いスニーカーばかり持ってる人でした 季節が変わって棚も暗くなりました
19. ほんの一瞬唇が震えた理由は知らないほうがいいのかもね
20. 夕立が降りだしたなら手をとって横断歩道の上で踊ろう
21. 今日正午、終末の鐘が鳴り響く。千切れるまで踊れ横断歩道で
22. 日時計の針に突き刺す腐りかけのあの日君がくれた青林檎を
23. Going underground, to run is to fight, my eyes are bright
24. ティーカップに付いた口紅が薄れていくもはや謝ることすらできず
25. ぼんやりと割れたグラスを見つめている 間違い探しの元の絵がない
26. 横向きの涙の跡を拭い去ってアイシャドウを引く朝、月曜日
27. 華麗なる青林檎の腐敗、または果たされなかった約束について
28. 人探しの張り紙に火を放つ 君が映るのは僕の瞳だけでいい
29. なにも持たずなにも望まずただ踊ろうこの橋の上でパリ祭の夜に
30. 二回目に履いたとき折れたハイヒール 一回も好きって言わない貴方
31. 首の折れたキリンが夜ごと見る夢を思う、その空の青の遠さを
32. ほっとくと体重が50kgを切る死ぬときもたぶんこんな感じだろ
33. とめどなくあふれるほどじゃない涙空を見上げればぼやけてきれい
34. ベッドサイドテーブルの上にある君の花柄のシュシュ、窓のない部屋で
35. 薄いコーヒーに600円払い途方に暮れてる始発前、歌舞伎町
36. 午前4時客引きにどこに行くか問われ答えたんだ「さあ、どこなんでしょうね?」
37. 電話越しに怒鳴る男の左目が真っ赤だった始発前、歌舞伎町
38. 泥酔して眠る男の傍らで生ゴミを漁る野良猫、新宿
39. ペアのワイングラスは埃を被っててありあまるほどのロマンスはない
40. 締まりきらない蛇口から水が落ちるみたいに君は去っていったね
41. 物事には順番があるということがよくわからなくて、キスしてもいい?
42. 『民衆を導く自由』の左下の死体の片方だけの靴下
43. 快晴の空に真赤き風船を放てり 夏が終はらむとしき
43. 八月の終わりの空に浮き上がる風船の色の口紅ください
45. ドミノピザのチーズが伸びて伸びて伸びて、あらこんにちは月のうさぎさん
46. 月の上のうさぎの一匹が言いました「これひっぱったら地球にとどく?」
47. 砂浜で拾ったラムネ壜に入れて育てた薔薇を君にあげよう
48. 処女の夢の中の南の島に咲く花の香りの香水ください
49. 丸善にてその瞬間を待ち受ける檸檬の香りの香水ください
50. 髪型が変わった君とふたりで取り残される中央分離帯
51. 青林檎皮も剥かずに頬張った もうしばらくは少年でいたい
52. ピーナッツバターが溶けてトーストに染みこんでいく 君はまだ寝てる
53. 林檎の皮を剥くのが上手い僕の姉の一番好きな画家はマグリット
54. 焼き芋屋を人質に取ったテロリストの要求は夏を終わらせないこと
55. この夏を終わらせないため我々は9月1日に花火を上げる!
56. 里芋と山芋の区別ができないとか、たとえばそういうところがダメで
57. 汚れた軍手無造作に脱ぎ捨てでもマニキュアはしてる舞台監督
58. クアラルンプールとは「泥が合流する場所」という意味 これぞ都市の名
59. 一人称が「僕」のあなたは夕暮れの海を見つめて鳥の目をする
60. 「君と僕」が「僕たち」になったあの夏は記録的な降水量だった
61. 「君と僕」を「僕たち」にしたあの夏の秒速7.2mの風
62. 「君と僕」を「僕たち」にして夏の風は大学通りを吹き抜けていく
63. My room is filled with little things like a ring you gave me
64. 「双子座は頭が良くてフレンドリー、だけどクールで……」うるさいだまれ
65. 言いそびれた言葉は君の白いワンピースはためかす風に揺られて
66. 五線譜に音符を並べるみたいに私にあなたの愛を記して
67. Four-letter words飛び交うこの街で真実の愛を探していたんだ
68. 終はりかけの青年期謳歌せむがため我は履くなり白きスニーカー
69. 君は白いスニーカーばかり持ってたね 棚を開ければ季節の終わり
70. この夏の最終電車が発車します駆け込み乗車はおやめください
71. 好きなネタを訊かれて干瓢巻きと言う貴方はどんな人が好きなの
72. われらみな滅びしのちもかの熱きいにしへの風は吹き渡るべし
73. ヴィナス像の額震はす八月の終はりのDeus ex machina
74. 待合室に自動演奏されてゐる『逝ける王女のためのパヴァーヌ』
75. 夜明け前に大砲の音が聴こえたら光の見える方へ走りだせ
76. 向日葵は枯れにけれどもいま一日麦藁帽子被りて出でむ
77. 雷が僕らの犯した罪の数だけ鳴り響き街を震わせる
78. 緩慢なる自殺のごとく甘かりき たはむれに試したる煙草は
79. 砂浜に巨大な迷子犬のやうにうなだれてゐるグランドピアノ
80. 八月の終はりの雨の降る朝にエリック・サティを聴いてゐたりき
81. 発掘されしヴィデオテープのうちの我はボーイソプラノで聖歌を歌へり

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