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打撃時の手首の動き~「リストが強い」を言語化したい~

 野球をやっている/やっていた方なら一度は「○○はリストが強いな」というワードを聞いたことがあるかと思います。結構安易に使われている印象ですが、今回は「ダイヤのA」を読んでいてリストに関する興味深いページがあったので、これを機にバッティング動作におけるリストの働きについて考えていこうと思います。

1.打撃動作における手首の動き

 まずはじめに、そもそも打撃時に手首がどう動くかを確認しましょう。手首の動作というと、通常なら上下の動き、ストレッチで言うところの前屈後屈のような動きがイメージされることが多いかと思います。しかし、打撃動作における手首の動作は左右方向です。

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こんな感じで親指側(内側)に倒すことをコック、小指側(外側)に倒すことをアンコックと言います。「リストが強い」にはこの動作が関連しているはずです。

 手首の動作を確認したところで、スイング中にどのような動きが起こるかを見ていきます。

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まず振り出しのフェーズ。この段階では両手ともにコックが起こっているはずです。スイングにおいてグリップからバットを出していくインサイドアウトの動きを体現するには、コックが起こっていないとおそらく不可能です。

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次がインパクト。ここではトップハンド(捕手側の手)のコックが解けて、バットと手首がほぼ垂直になっています。ボトムハンド(投手側の手)もコックが解け気味~解けて垂直くらいになっている場合が多いかと思いますが、坂本選手(巨人)のインコース打ちの時などはアンコックしているなど例外もあります。

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最後がインパクトを終えフォロースルーへと移行するフェーズ。ここでは両手ともアンコックされており、アンコック→手首が返ってフォロースルーという流れになるかと思います。

 私がこよなく愛するイチロー選手の連続写真を使って説明していきました。両手コック→トップハンドのコックが解けてインパクト→両手アンコックという流れが理解していただけたと思います。

2-1.強打に共通する手首の形

 バッティングにおける手首の動きについて理解したところで、本題に入ります。プロの各打者のインパクトの瞬間を見ていて、気づいたことがあります。

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トップハンド側の手首とバットが作る角度に注目してください。どれもだいたい垂直になっていませんか?分かりやすく線を入れます。

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線が雑ですね。でも垂直ぽくなってるのは分かると思います。で、なぜこのように垂直に近くなるのかを考えると、単純に「球威に負けず、より多くの力をボールに伝えるため」なのではないか、という結論に行き着きました。

何かめちゃくちゃに重たくて四角いものを押す時をイメージしてください。その時に、ものの面に向かって斜め45度の方向で押す人はほぼいないと思います。おそらく全員が押す(触れる)面と垂直に力を加えて押すのではないでしょうか?この理屈と同じように、バッティングの際もより効率よく力を伝えるために、トップハンドとバットを垂直にしてインパクトを迎えることが強打を生む上で重要になってくるのではないか、と思います。

2-2.村田修一選手の流し打ちの理屈

 序文で「ダイヤのA」で興味深いページがあった、と言いましたが、それは本編ではなく第15巻巻末の、作者が村田修一選手との対談のことを綴ったあとがきです。そこに書いてあった内容で目を惹かれたのは、

右方向(逆方向)に強い打球を打つときは、あえて手首をこねるようにして振り抜く。タイミングが合えば右方向に強い打球が飛ぶが、少しでもタイミングがズレればボテボテのサードゴロになる。

というものです。これはおそらく、コック→アンコックを素早く行うことによりヘッドを加速させてインパクトを迎えていたと推測できます

前提として、インコースの球をあえて流す必要は基本的にはないので、アウトコースの球を強く打ち返すという認識で話します。アウトコースは体から遠いので、当然の如くインパクトを迎えるミートポイントも体から遠くなります。そうなるとやはり力は比較的伝わりにくい。そこで、「こねるようにして振り抜く」技術を用いるのです。こねるようにして、つまり手首がコックされた状態から一気にアンコックすることによって、瞬間的にヘッドスピードの増大が見込めることと思います。おそらく村田選手はそうしてヘッドスピードを上げた状態でインパクトを迎えることによって、普通に打つよりも大きな力を伝えようとしていたのではないでしょうか。

ただやはりリスクはあるようです。ヘッドスピードが上がっているところでインパクトを迎えることが出来れば良いですが、既にアンコック(俗に言う手首が返りかけている)された状態でインパクトを迎えると、アンコックされたことによるボールへの力負け、そしてバットの角度も合わせてボテボテの引っ掛けたゴロになってしまうのでしょう。まさに一瞬が勝負のプロの技術です。

3.「リストが強い」とは

では、今までのものを踏まえて「リストが強い」とはいったい何のことを指しているのかを考えてみます。結論から言うと、「コック→アンコックのタイミングが上手く、ヘッドスピードが速いフェーズでインパクトを迎えている」ことだと考えます。だいぶタイミングゲーです。おそらくこれは積み重ねとかではない感覚的なもので、いわゆる打てる選手が全員「リストが強いな」と言われるわけではないことからもそれは言えるのではないでしょうか。

まとめに代えて~「リストが強い」打撃は体得できるのか~

では最後に「リストの強さ」は意識的に体得できるのか、を自分なりに意見したいと思います。③で述べた通り、このリストの強さは感覚的なものが大きく、体得しようとしても困難なものがあると思います。また、村田選手の話にもあったように、少しでもタイミングが合わなければ、引っ掛けたゴロを量産するマシーンとなりドツボにはまる危険もあります。個人的にはアンコック→フォロースルーは腰、胸の回転が終わって自然に起こるのが望ましいと考えているので、意識的にリストの強さを求めるのはリスキーなのではないか、というのが個人的な見解です。それよりも、前述したインパクトをバットと手首が垂直になった状態で迎えること、出来るだけトップハンドの掌が上を向いている状態を維持すること等を意識したほうが、より広いミートポイントを作り、また強いインパクトを迎えることを可能にするのではないかと思います。



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