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イマジナリーフレンドの友達



ぼくら どんなときもいっしょだったね


その言葉は真っ白な陶器のようにコトリと音を立て、ふたりの間に収まった。それを眺めていると得体のしれないものにからめとられる気がして怖かったけど、ぼくは構わず見つめ続ける。

そもそも視界の端で小さく膝を折りたたんだ彼の存在以上に怖いものなど、ありはしないのだから。

頭の中でそれらしい理屈をつけるといくらが心が落ち着いてきて「そうだね」と返事をすることができた。


おぼえているかい? ぼくらがはじめてであったときのこと


もちろん覚えているよ。ろうそくほどの灯りもない薄暗い部屋でひとりぼっちだったぼくのとなりに、きみがひょいとあらわれて慰めてくれたんだ。それからは毎日のようにふたりきりで遊んで、いやなことから守ってくれたきみはぼくのヒーローだった。

そういうと彼はわずかに口の端をほころばせてうつむいた。照れたときの癖なんだろう。もしかするとぼくも、お父さんに100点だった算数のテストを褒められたときはあんなふうだったのかもしれない。


たくさんのことがあったね 
たのしいもうれしいも つらいもかなしいも


そうだね。本当にたくさんのことがあったね。

近所の公園の植木に秘密基地を作ったときは楽しかったな。ふたりして同じ枝にまたがって体をゆすったら葉っぱがたくさん落ちてくるのを「敵襲だ!」って言ったらきみは笑ってた。そのあとは公園の前に住む怖いおばさんにぼくだけ怒られちゃったけど。きみはいつも逃げ足が速いんだ。

可愛がっていた隣の家のペロが死んじゃったときは悲しかったな。立ち上がったらぼくよりもずっと大きな犬だったけど、一緒に散歩をするとぼくらに合わせてゆっくり歩いてくれるんだ。可愛くってふわふわで真っ白なペロ、もう一緒に遊べないんだとわかったときはふたりしてわんわん泣いたね。

お父さんの大事なものを壊しちゃったこともあったな。ぼくが今にも泣きだしそうな顔をしていたら、きみが青い顔で人差し指を立ててそっと元に戻したんだ。その日はふたりとも帰ってきたお父さんの顔が見られなくて、「お腹でも痛いのか?」って心配してくれるのがつらくてダンゴムシみたく丸くなって眠ったね。

あのころの思い出はどこを掬ってもきみがいる。たのしいもうれしいも、つらいもかなしいも。

お父さんとお母さんとぼくの三人で暮らせなくなったあの日からずっと、きみはそばにいてくれたね。


うん ずっと、ずっとだ これからもきみのそばにいるよ


ううん、もういいんだ。


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