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「いらない子」にしたのは誰ですか




昔、庭に小さな木があった。

まだ苗木のような、幼稚園児だったわたしの腰ほどしかなかったひょろひょろの木で、たぶん梅の木か何かだったと思う。

それは近所のローカルなイベントで売っていたもので、ねだって買ってもらったわたしは庭に植えてからというもの、毎日せっせと水をあげて成長を見守った。ちょうどとなりのトトロのメイちゃんみたいに。

だけどわたしの背丈を越す前に、別れは突然やってきた。

当時住んでいたアパートに清掃業者の人が入った時、作業員のひとりが庭に植っていたひょろい木を引っこ抜いてしまったのだ。

幼稚園から帰ってベランダに出て、愕然とした。それはもう分かりやすく膝をついた。

大号泣のわたしを宥めながら、両親がまだ作業中だった清掃業者の人にわけを話してくれたが、山のようなゴミ袋の中から小さな苗木一歩が見つかるはずもなく。

大切にしていた木との再会は絶望的になる。

そこに追い討ちをかけるように、作業員のひとりが言った。

「あんなところに植えてあるから、いらないのかと思うじゃないですか」

それはきっと両親に向けられた言葉だっただろうが、幼いわたしにもグサリと刺さった。何も言えなかった。その後の記憶はあまり鮮明じゃない。

だけどその時に感じた「痛いところを突かれた」ような居心地の悪さを、今でもよく覚えている。

あれは、きっとわたしが悪かったのだ。ベランダから少し離れた、敷地の端っこになんて植えたから、こんなことになった。わたしのせいだ。

そう思ってしばらくの間、何かを育てることが怖かった。

大人の何気ない言葉がかけた、小さな呪いのせいで。


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