いちはら福祉ネットといちはら生活相談サポートセンター〜寄り添い自分の力を引き出してくれる場所〜
第2回目となる8月は、いちはら福祉ネット(中核地域生活支援センター)といちはら生活相談サポートセンターにお邪魔しました。
今回取材させていただいたのは、いちはら福祉ネットの所長であり、施設の母体である社会福祉法人ききょう会の理事もされている大戸優子(おおとゆうこ)さん。
そしていちはら生活相談サポートセンターで、主に就労準備支援を担当されている利景中(としけいちゅう)さん。
自立相談支援や居住の部分に特化した支援を担当されている堀口直子(ほりぐちなおこ)さん。
このお三方の、活動にかける熱い思いを伺いました。
ーいちはら福祉ネットといちはら生活相談サポートセンターについて教えてください
大戸さん:
いちはら福祉ネットといちはら生活相談サポートセンター、そしてもう一つ障害者グループホーム等支援事業の3つが、市原市役所から車で5分ほどの場所に集結しています。
いちはら福祉ネットは、千葉県から委託を受けている福祉の総合相談の事業所。
福祉の総合相談や市原市の他の相談機関などをバックアップするという役割を持っています。
いちはら生活相談サポートセンターは、市から委託を受け、生活困窮者自立支援法という法律に基づいた相談機関です。
困窮から生活再建をするための相談支援、就労や家計改善の支援、それから困窮世帯の子どもに対する学習支援など、より具体的な方策を行っているんです。
障害者グループホーム等支援事業は、主に障がい者のグループホームに入っている人たちを専門で支援するワーカーが在籍し、活動しています。
ーいちはら福祉ネットといちはら生活相談サポートセンターの事業の一例を教えてください
大戸さん:
市原市の委託を受けた新しい取組として、「参加支援の居場所づくり事業」を行っています。
例えば、ひきこもりがちだったり、社会的に孤立したりしている人が社会と繋がるため、その接点を作っていくことを目指しているんです。
だから、居場所としてずっとあり続けるというよりは、場での出会いをきっかけに地域の中に出ていけるような配慮をしています。
ー参加支援の居場所づくり事業を具体的に教えてください
大戸さん:
私どもの事業としては、通称みん×たのカフェと言っています。
「みんなでこの場を考えよう」という意味の「みん」と、「お茶の時間を楽しもう」の「たの」を意味している名前です。
こちらが全部お膳立てをして、来てもらって与えるみたいなことではありません。
ひきこもりや社会的孤立の本人たちが「どういう場にしたいか、一緒に作っていこうね」という思いでやっています。
この事業では、居心地がいいだけの場ではなく、将来の社会参加に向けた場をきっかけに外と繋がるよう、私たちが意図的に仕掛けを作っています。
1.タオル体操を体験
大戸さん:
家にずっといたりすると、活動量が低下していたり、体力がなかったりする人もいるので、少し体を動かす内容を時々入れます。
作業療法士の方にタオル体操をやってもらったこともあります。
自分の体に興味を持ったり、健康のことを考えられたりすることは、とても大事な要素なんです。
健康で体力がないと仕事が続かないことがあります。
1日行ったら「疲れて次の日は行けませんでした」ということがあるんです。
だから、体を動かすことや体力をつけるということにも、目を向けてもらうために行っています。
2.コースター作り
大戸さん:
イベントで知り合いになった布小物作家さんにコースターを作るという企画で来てもらいました。
この時は、コースターを作るだけではなく、布小物作家さんにインタビューもしたんです。
布小物作家さんは、会社勤めをしているわけでなく、布小物作家さんとして活動をされているので、「なぜそういう生き方を選びましたか?」というような。
企業で働くだけが『働く』ではなく、いろんな人がいて、自分のスキルや才能を生かす場面はあるということを伝えたいんです。
参加者の中には、発達障がいなどをお持ちの人もいます。
一般的な常識とは違う行動をしてしまう人、なかなか一般社会の中に馴染めない人も。
そのため、いじめられたり、厄介者扱いされたり、それでひきこもってしまうことも多いんです。
だから「会社に入って働くだけが『働く』の形じゃないよ」と伝えることが、この回の目的の1つでした。
また、年代にもよるんですけど、親御さんの考え方に縛られている人も多くて…
「アルバイトなんかじゃダメだ」みたいな。
親の価値観でこのように言われたりすると、自分の考え方と親の考え方の狭間で悩んで、身動きが取れなくなる人も多いんです。
親御さんはよかれと思って言っているけど、親御さんが就職して生きてきた時代と今の時代は違います。
社会環境の雇用のあり方も違うのに、自分の働き方のイメージをそのまま子どもに押し付けてしまっている。
その結果、工夫すれば働ける人が活動できない状況になり、ひきこもり、働けないのは良くないと思います。
本人たちにも良くないし、それが社会にとっても損失なんです。
今働ける人が減っている中で、工夫すれば働ける人や働き方を開拓していくことは必要です。
だから、私たちは社会に対して行動する使命もあります。
規模は小さく、本当に何人かの話ではありますが、1人1人のケースをどうやって、より良く生きていくか。
ひいては社会に対してどのような良いインパクトを与えられるか。
そんなこともミクロとマクロみたいな視点を持って、企画して組み立てたり、日々関わったりということをしています。
ーそれぞれの企画は何人くらい参加されているのですか?
大戸さん:
大体5人ほどですね。
10人くらいを上限として考え、少人数の中でやっています。
少人数でないと、集団が怖くて出てくることができない人もいるんです。
少人数で自分のことをよく知っているスタッフと話ができる、サポートしてもらえるという安心な空間だという認識をしてもらって、初めて外に出て来てもらえるので。
また、参加してもらうときは、本人たちが失敗体験を重ねないで済むように、かなり配慮をしています。
ここから先、地域の中に出ると傷つくことや困ること、怖いこともあるだろうから、困ったらここに戻ってこられると伝わるように。
他にも「自分だけじゃない、同じような人がいるんだ」と知ってもらうことは、本人の気持ちを強くしていくことに繋がります。
ここに来て「自分だけじゃない」と思ってくれる人は多く、この小さな集団の中でも感じられるようです。
ーどのような相談をきっかけに参加されるのでしょうか?
大戸さん:
きっかけは色々ですが、例えばいちはら生活相談サポートセンターでは「自分は孤独です」という相談は少ないです。
もう少し具体的に「働けず、お金がなくて困っています」などの困り事から入ってくることが多いんですね。
そういう困り事で入ってきて、私たちは、言われたことだけに対して応えて終わりではありません。
これが発生しているその背景には何があるのか、本人をしっかりと理解し、分析していくという作業をやります。
そうすると、その人の家族関係、生活環境、障がい的な特性、小さい頃からの生活歴など、いろんな要素が今の困り事を作っていることがわかります。
表面上に出てきた困り事に対処しつつ、今後同じことが起こらないよう、もしくは起こっても本人が対処していけるよう、根っこの部分をきちんと知って、対応できる力をつけていきます。
何が要因でこうなっているかしっかりと掘り下げていくという作業をしていく中で、「孤立状態である」「なかなか仲間が作れない」などの部分が見えてきます。
その1つの方法として、みん×たのカフェへ参加する支援方針を立て、所内で検討して、参加してもらう感じです。
ー参加者にとってみん×たのカフェは、どのような場所ですか?
大戸さん:
参加者の役割の1つとして買い出しがあり、担当している人が「買い物を楽しみにしている」と言ってくれました。
買い物とは、本人たちにこの場での役割を持ってもらうことを意図して仕掛けていることなんです。
自分たちの場所にしてほしいから、準備も片付けも手伝ってもらう形にしました。
特に参加者のうち、この場に慣れてきた人には準備などに関わってもらい、参加者ではなく次の段階として、この場の運営ボランティアのような位置付けにすることで、やることも増え、自分の肯定感を得ることにもなるんです。
その結果、自分で就職活動をして就労できた人もいます。
他には、みん×たのカフェに参加することで、普段の相談も来やすくなったという人もいました。
普段は私たちと相談室で個別に相談し、支援目標を立て、それに向かって支援をしていきます。
相談の時は担当が大体固定されるので、自分の担当以外のスタッフは自分にとって知らない人になってしまうんですね。
ですが、徐々にみん×たのカフェで一緒だった人と認識することで、相談室に入ってくるまでの負担感が格段に減ったそうです。
相談は、自分の困っていることや弱みなどを見せる場だし、好き好んで来たいという人はいません。
だから、みん×たのカフェがきっかけで「来やすくなった」「安心できる」と言ってもらえたことは、相談の業務に対しても良い効果が出ていると思います。
その他にも、私たちは参加者の得意なところを伸ばすための支援を考えているので、絵が得意な人の作品を披露する場としてみん×たのカフェを活用したことがあります。
他の人に披露することで、本人は1つの達成感や自己肯定感を持つことができ、認められたことや褒められたことが本人の自信になります。
だんだん自信がついてくると本人の行動にも変化が現れてくるんです。
このように、参加支援の場を上手く使うことで本人の力を強く引き出せるケースもあるんですね。
私たち専門職として色々考えて仕掛けはしますが、やっぱり最終的に大事なのは本人の力だと思うことがあります。
本人が受け入れて変わったり、本人が持っているものを発揮してくれたり、そういう場面に立ち会えると本当に嬉しいですね。
ー大変なお仕事ですが、続けられる原動力は何ですか?
大戸さん
私は相談職を30年近くやっていますが、上手くいかなかったことほど記憶に残っていて、「もうあんな失敗はしたくない」という思いがもしかすると原動力かもしれません。
上手くいかなかったことは、相談者と相談員の関係構築の作り方に問題がある場合と、そのときの制度不足の場合があるので、上手くいかない要素は1つじゃないんです。
相談員と相談者の関係構築は、スキルを上げて行かなくてはいけないと常に思っています。
もう1つ、福祉の現場では制度が足りないということがあります。
特にいちはら福祉ネットは、制度で対応できない狭間の問題が集まる相談部署。
制度がまだ不十分で、「どうしていいかわからない」という問題が持ち込まれるので、相談者からだけじゃなく、相談機関から入ってくるという方が多いんです。
個々のケースの対応も大事ですが、そこから見えてくる課題を抽出して、「市原市ではこういうことが問題です」というアクションを起こしています。
もっと大きくなると市原市レベルじゃなく、国に対して伝えていく役割もあるわけです。
社会が変わるとそれに応じた問題も出てきます。
だから、新しい問題をキャッチし、しかるべきところに伝え、きちんと政策化するという繰り返しで社会が住みやすくなるといいなと思います。
だれしも、いつどこでどんな困難が降りかかってくるかわかりません。
そうした時に「自分が切り捨てられるような社会であってほしくない」という思いがモチベーションかもしれません。
利さん
ここでの相談は、社会の最前線にいるというのは間違いないと思うんですね。
だから、その最前線で仕事できることに、すごくやりがいがあります。
最前線にいるので、わからないこともあります。
私たちもいろんなことを教えてもらいながら、相談者と一緒に考えていくことが1番大切です。
世の中はこれからどんどん変わり、制度も変わります。
その度に、私たちも勉強しながら一緒に前に進んでいくことがやりがいだと感じています。
堀口さん
確かに、私も一緒に考えてくことはやりがいだと思います。
相談でこちらの意見を言いますが、当然相談者の意見もあるんです。
だから押し付けではなく、一緒に考えて方向性を決めています。
押し付けても、上手くいかないものです。
私の意見をただ受け入れてやっていくだけでは本人の力が伸びません。
自分で考えて、自分で動いていくという力をつけていってもらうのが1番だと思っています。
ー相談を考えている方へメッセージをお願いします
大戸さん:
一般の人が全然困ることなく「こんなところ知らなかった」で暮らしていけるのなら、それでいいんです。
でも、困っているのにここを知らなかったがため、ずっと困ったままということは避けたい。
利さん:
ただ、私たちは魔法使いではないので、使える制度などには限界があります。
だから、できる範囲で一緒に考えていく。
話を聞くことしかできないけど「困り事があれば来る?」というような感じで、気軽に来てもらいたいです。
まとめ
今回の取材で、市民が暮らしやすいよう、生きやすいよう、1人1人に寄り添って活動されていると知ることができました。
また、人が繋がることで生まれる力の大切さも教えていただきました。
そのまず第一歩として、いちはら福祉ネットといちはら生活相談サポートセンターの方と繋がることで、生きていく力を見つけられるようになると私は思います。
自分の悩みは当てはまらないと思った方もいるかもしれませんが、今回ご紹介した事業はほんの一部です。
困り事や悩み事がある方は、ちょっと勇気を出して話を聞いてもらってみませんか?
いちはら福祉ネット
住所:市原市国分寺台3-10-15
電話:0436-23-5300
公式HP:http://park22.wakwak.com/~ichihara_f.net/
いちはら生活相談サポートセンター
住所:同上
電話:0436-37-3400
公式HP:http://park10.wakwak.com/~ichihara.sapo/index.html
社会福祉法人 ききょう会
住所:市原市吉沢117
電話:0436-98-1562
公式HP:https://kikyo-kai.or.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/kitisawa117
ききょう会運営の他施設のご紹介
今回ご紹介した事業は、同じ社会福祉法人ききょう会が委託を受けて運営しているとのこと。
この社会福祉法人ききょう会についても、他にどのようなことをしているか伺ったのでお伝えします。
障害者支援施設(吉沢学園)
市原市の吉沢(きちさわ)にある障がい者が暮らす施設が母体になっている。
入所施設のほか、TABICafé(タビカフェ)も事業所の1つ。
障がい者が働く場を作り出すためにカフェの形態を取っている。
グループホームなどで暮らす障がいのある人が配膳をしたり、中でパンを作ったりなど、働く場を創出している。
共同生活援助(グループホーム)
障がい者のグループホームは、1つの家に5人くらいの小集団で、施設とは違う地域の暮らしを送っている。
高齢者の介護保険でいうグループホームは認知症などの人が入るところだが、障がいの分野では知的障がい、身体障がい、精神障がいなどの障がいがある人たちが暮らす。
障害児通所支援(こどもステーション)
障がいのあるお子さんの放課後のお預かりなど。
就労継続支援事業(ジョブハウスもみの木)
牛久にあり、改築したので、カフェのカウンターから目の前に小湊鐵道(こみなとてつどう)が見られる。
ランチや、新しくソフトクリームの販売も始め、障がいのある人と職員が一生懸命作っている。
ジョイサポート三和
障がいの重い方が日中、リハビリを受けたり、生活の手助けを受けたりしながら過ごしている。
また、軽い障がいの方は作業をしている。
地域密着型通所介護事業(浅井小向[あさいこむかい]デイサービスえん)
介護保険のサービスの1つ。
民家を改装し、小規模な高齢者のデイサービスを行っている。
高齢者の中には、大きな施設のデイサービスは嫌だという人も。
そのため、家の中で過ごすことができ、家庭用のお風呂に入れるなど、小さい規模のデイサービスに来てもらえるという特徴を持つ。
取材日:2024年6月19日
※記事の情報は取材当時の情報のため、最新の情報とは異なる場合があります。
ご了承ください。
ライター:いしちか
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?