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あのころ、TOKYOで。8

8.四街道の占い師

「四街道にめっちゃ当たる占い師がいるのよ」

仕事仲間のエレナがそう言った。エレナは千葉県出身。なんでもその占い師に見てもらったところ、予言通りになり、それから運も開けてきた友達がいるという。エレナも見てもらったら、本当によくエレナのことを言い当てたのだそうだ。その頃の私は彼氏もおらず、なんとなく日々を暮らしていたので、ちょっと占い師に見てもらうのもいいかもしれないと思った。
しかし、四街道である。東京からはちょっと遠い。友人にその話をすると、ぜひとも行きたいという子がいた。ミヤちゃんだ。ミヤちゃんは仕事仲間だったが転職して会社を辞めていった。時々会って食事をし、現状報告したりする仲だった。

「私、占ってもらいたい!マホ、一緒に行こうよ!」
「よし!行こう!」

私たちはちょっとした遠足にでも出かけるような気分だった。
四街道は新宿からでも1時間以上かかる。本当に遠足のようなものだ。

エレナからの情報によると、四街道の占い師は、駅近くのビルの一角に店を構えているらしい。占い師が2名いるが、おじいさんの方が当たるので、必ずおじいさんの方に占ってもらうように、とのことだった。

遠かった。

四街道は遠かった。
ミヤちゃんと二人、若干ぐったりしながらも、よく当たる占い師と会えることを楽しみにしながら駅ビルに入る。

占い師の店はビルのフロアの片隅にあった。
それは店というより、本当に一角で、カーテン付きのパーテーションで仕切った場所だった。

よく見ると右側には女の占い師がおり、その奥におじいさんがいるらしい。

「私、先に見てもらっていい?」
ミヤちゃんはどうしても占ってほしいことがあると言っていた。
「もちろんよ!」
私はミヤちゃんの後ろについて、おじいさんの占いスペースをのぞいた。

おじいさんは一人、机に座っていた。
「はい、どうぞ」
特に待っている人がいる様子でもなく、すぐにミヤちゃんは見てもらえることになった。
私はカーテンの外に出ていようと思ったが、ミヤちゃんが、そばにいて、というので一緒に占いスペースに入った。

「あの!私、外国人と結婚したいんですが、できますか?」
スペースに入りおじいさんの向かいの椅子に座るなり、ミヤちゃんは聞いた。
おじいさんはミヤちゃんをパッと見て言った。
「できません!日本人と結婚します!」

驚いた。見ただけで断言である。
さすがよく当たる占い師は違うのか。
ミヤちゃんは、どうしても外国人と結婚したいのだという。そのために英語を勉強し、外国人が集まるバーにでかけ、頑張って活動しているそうだ。しかし、占い師に一蹴された。

「はい、それじゃあここに名前と生年月日を書いて」
おじいさんは画数を見るらしく、ミヤちゃんに名前を書かせた。何やら数字を書いて計算している。それから、
「はい、手を出して」
おじいさんは手相も見るらしい。

占い師のおじいさん、そんなにいろいろ鑑定するんだ・・・。ではさっきはなぜ顔を見ただけでミヤちゃんは日本人と結婚すると断言したのだろう。

「ふんふん、あんたは嫁に行くね。日本人と結婚するよ。ずっと日本におるね。でもちょっと遅いね、結婚が」
外国人とは結婚できないと言われた上に、結婚が遅いとまで言われた。
「ええっ?!遅いの?」
ミヤちゃんが悲壮な声を上げた。
「そうだね、あんたは結構しっかりものだね。だから遅い」
「どうしよう」
ミヤちゃんは困ったように私を見た。

「そこで、いい方法がある!」
占い師のおじいさんは、おもむろに分厚い黒いファイルを取り出した。
「印鑑を作るといい!」

一気に占い師のおじさんが怪しく思えた。
印鑑・・・
占いをしてから、印鑑や壺を買わせるというのはよく聞くパターンだ。このおじいさん大丈夫なんだろうか。
「女の人は結婚して、苗字が変わるだろう。だから苗字の印鑑を作っちゃだめだ。名前の印鑑を作るんだ。若いうちに作っておくとそっから運が良くなるから」
なんだかわからないがもっともらしいことを言いながら、おじいさんは黒いファイルを開き、おすすめの印鑑を見せてそう言った。
ミヤちゃんはちょっとためらっていたが、
「ううーん、印鑑よくわからないから、また考えます」と言った。

続いて私の番だ。私も同じように名前と生年月日を書いて、手相を見てもらう。
「ふうん、弟さんがいるのかね?」
おじいさんは私に聞いた。
「いえ、妹です。」
おじいさんは頷く。
「長女なのかな。お兄さんは?」
「いません。」
よくわからないがこれではただの質問だ。
「あのね、君は結婚するね。家を継ぐよ。いい人が見つかる。お婿さんが来るよ。」
私は驚いた。
男の兄弟がおらず、私が長女ならば、そう予想できる、ということなのか?
私は実家とあまり折り合いが良くなかったので、できれば継ぎたくないのだが・・・。
「そ、そうですか。子どもはどうですか?」
そういうとおじいさんが言った。
「女の子二人だね」
そこは断言された。

私の占いは当たり障りのない感じで終了し、私は印鑑は勧められなかった。私たちは占いコーナーを後にしようとした。そのとき、占い師のおじいさんが声をかけてきた。
「ちょっと待って!この紙!また見といてね」
おじいさんから渡されたのは、印鑑の注文書だった。

どうにも最後まで怪しい感じがしたまま、私たちは電車に乗って帰った。

エレナによると、エレナもエレナの友達も、印鑑は勧められなかったという。なぜミヤちゃんだけ勧められたのかはわからない。しかし印鑑のおかげで、ミヤちゃんと私は、占いってたいしたもんじゃないな、と思うに至ってしまった。

ミヤちゃんはその後、仕事を頑張りお金を貯め、印鑑は買わずアメリカの語学学校に留学した。その後外国人と結婚したのかは知らないが、海外に行くという夢はかなえた。
私はというと、東京を去った後結婚して嫁に行ったので、家を継ぐことはなかった。そして男の子と女の子を一人ずつ授かった。
結局、四街道の占い師の予言は当たらなかった。
人生に迷うとき、占いをしてみたくなる気持ちは今もある。しかし、結局は自分だ。人生を作り上げていくのは自分。
占い師に何と言われようと、海外へ留学したミヤちゃんのように、人生は自分で切り開いていくものだ。
自分を信じて。
占い師のおじいさんはもしかしたら、それを教えてくれたのかもしれない。


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