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展望台に行ったとき、ちゃんと展望してますか? 鉄塔も森も断層も、ナガシマスパーランドだって見えるのに。

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いちがやさんからもらったホカロンをたかやまさんとしゃかしゃかやりながら、駅舎の通路を進んで、地下鉄の出口のように階段を上がって外に出る。さらに階段を上がると朝陽台(ちょうようだい)広場という展望台。レーダ雨量計の白いドームの存在感。

たかやまさん
「時間あるならこっちも行きたい」

たかやまさんが擬木でできた案内板を指差して言う。

ささづかまとめ
「時間は大丈夫ですよ〜」

たかやまさん
「じゃあ行こう」

いちがやさん
「富士見岩展望台ってところ? こんな遠くから富士山なんて見えるの?」

湯の山温泉からの登山道を逆走するように東に歩く。葉が茶色く色づいた低木と白い穂を揺らすススキに囲まれながらゆるやかな坂道や階段を下りていく。

歩き始めておよそ5分。複数の話し声が聞こえてきた。大きな岩の上に座って休憩している人が何人もいて、おそらくこの岩が富士見岩なのだろう。わたしたちは崖っぷちに回り込む。

富士見岩展望台への入口

眺めはロープウェイからの景色と同じ方角だ。四日市から桑名の方角が見えている。富士山は見えない。

富士見岩の上からの景色

たかやまさん
「あの川と川に挟まれてるところ、見える?」

たかやまさんが指さす。だいぶ遠くのことを言っているらしい。

ささづかまとめ
「だいぶ霞んでますけど、なんとか見えますね」

たかやまさん
「その先端のところがナガシマスパーランド

いちがやさん
「へー、あそこなんだ」

ささづかまとめ
「仕事仲間のみんなと行ったところですか?」

たかやまさん
「うん。広いお風呂に入って、ごはん食べて、ホテル泊まった」

いちがやさん
「乗り物は乗らなかったの?」

たかやまさん
「うん。怖いのしかなかったから」

いちがやさん
「絶叫マシンばっかりだったってこと?」

たかやまさん
「そう」

たかやまさんもわたしも高いところは苦手だ。高所恐怖症というほどではないし、ロープウェイは場数を踏んで慣れた感じがするけれど、観覧車に乗るときとか、桁下の高い橋を渡るときは今でもドキドキする。
でもふたりともこうやって高いところから景色を見たいという欲求はある。よく考えたら不思議だ。
風もなく穏やかな空気の中、わたしたちはぼんやりと景色を眺める。ロープウェイの乗客から今のわたしたちを見たら「あんなとこよう行くなあ」ということになりそうだな、と思う。

富士見岩展望台から東の方角を望む

ささづかまとめ
「あそこ、なんか大きい工場っぽいのあるじゃないですか」

たかやまさん
「周りが森になってる、白い建物?」

たかやまさんは目がいい。わたしの指差した場所をすぐに見つけた。

ささづかまとめ
「そうです。あのあたりの高台が横方向に連なってる感じ。あれって」

たかやまさん
「うん、断層かもしれない」

ささづかまとめ
「だとしたら、鈴鹿山脈と平行の!」

たかやまさん
「うん。大きな断層だからこうやって見えてても不思議じゃない」

ささづかまとめ
「見えるとうれしいですね、断層って」

いちがやさん
「そんなはっきり見えてるの? どこ?」

となりでメガネ越しに目を凝らしているいちがやさんに、たかやまさんといっしょにレクチャーする。

いちがやさん
「わかったけど、あのへんの森がないとわからないね」

ささづかまとめ
「遠くから見るときはそうですね。森はヒントなんですよ」

たかやまさん
「ここはさーさちゃんの好きそうな森もたくさんある」

いちがやさん
「好きな森と好きじゃない森があるの?」

わたしは市街地にある森が好きだ。神社の鎮守の森でもいいし、開発されずに残っただけ、という森でもいい。古くても古くなくてもいい。立ち入れなくてもいい。森はその地域の歴史や風土を読み解く手がかりだ。いちがやさんにそんな話をしてみる。

ささづかまとめ
「ああいう、ぽつぽつある森が気になるんです」

いちがやさん
「森なんて気にしたことなかったな」

たかやまさん
「城跡とか古墳とかが隠れてたりするのもいい」

ささづかまとめ
「ですね。はあ、巡りたい。でも正直キリないですからねー…」

わたしがため息まじりにそう言うと、

いちがやさん
「東京でもやればいいのに、そういうの」

バッグから取り出したのど飴の個包装を破りながらいちがやさんが言った。

ささづかまとめ
「そうですね…。東京は東京で、いいんですけど」

たかやまさん
「東京は守られすぎてて、あんまりおもしろくない」

いちがやさんからのど飴を口に入れてもらったたかやまさんが言った。

いちがやさん
守られすぎてる、か

ささづかまとめ
「地方のほうが、想像の余地がたっぷりあって楽しいね! って感じです」

いちがやさん
「ああ、そう言われるとちょっとわかるなあ」

いちがやさんがうなずく。

たかやまさん
「東京はだいぶ語り尽くされてるから」

ささづかまとめ
「地方は情報も少ないので勝手に想像するしかないときもありますからね。それが逆に自由でいいんです」

いちがやさん
「さーさちゃんってたかやまさんの通訳みたいだ」

いちがやさんはそう言って笑った。たかやまさんは景色を眺めたまま、風に吹かれている。しかしその横顔はわずかに笑みを湛えていた。

富士見岩からは白鉄塔もよく見える

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