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自転車に乗って川を越えて、戸田球場に行く。(温泉入って帰るまで)

前回はこちら↓


嘉手苅投手は7回表も続投してベイスターズ打線を三者凡退。7回裏、ベイスターズのマウンドには伊勢大夢(いせ・ひろむ)投手が上がります。

ささづかまとめ
「伊勢さん、こっちに来てるんですね」

伊勢投手といえばベイスターズの不動のセットアッパーのイメージです。

たかやまさん
「5月は一軍にいた。投げすぎなのかも」

少し前まで、スワローズの清水昇(しみず・のぼる)投手もファームで調整していました。中継ぎエースと呼ばれるような投手は登板するシチュエーションも力が入る場面ばかりですし、そもそも登板回数自体も多く、何年も続けていると疲労が蓄積してしまうのかもしれません。

でもそういういろいろは一旦置いておくことにして、せっかくなので伊勢投手のピッチングを観ることにします。

この回はどこからともなくスワローズの応援が聞こえてきました。応援と言っても少人数の男の人の声です。とりあえずブルペン席ではないし、外野席を見ても声を出して応援している人の姿はありません。

「あっお母さん、あそこあそこ」
「ほんとだ、あんなところから応援してる」

カロリーメイトブロックフルーツ味好きの女の子がアンチカロリーメイトのお母さんに球場外の土手の上を指差して教えています。男の子が2人、遠くで腕を振り上げながら応援歌を歌っているのが見えました。

応援のおかげか宮本選手がヒットで出塁します。続く澤井廉(さわい・れん)選手の打席では、カロリーメイトブロックフルーツ味好きの女の子がお母さんといっしょに澤井選手のタオルを掲げます。その影響でとなりのたかやまさんからバッターボックスが見えなくなりましたが、たかやまさんはタオルのパイル地を見つめたまま動きません。澤井選手はセカンドライナーに倒れました。


8回表、スワローズの6番手はロドリゲス投手です。さっきからブルペンキャッチャーがとんでもない音量の捕球音を立てていたのですが、それはこの人のせいです。破裂音のような音でした。おそらく150km/h前後のボールを投げていたと思います。

ブルペンからマウンドに向かうロドリゲス投手(中央右)

のっしのっしとブルペンからマウンドに歩いていくロドリゲス投手。この球速、この雰囲気で一軍に上がれない理由がわかりません。

たかやまさん
「日によってストライクとボールがはっきりするのがよくないと思う」

疑問を尋ねると冷静な返事が返ってきました。なるほど。しかしロドリゲス投手は味方のエラーで出塁を許した以外はきっちり抑えました。今日はいい感じにはっきりしない日だったのかもしれません。


8回裏、マウンドに上がるのはベイスターズの元守護神、山﨑康晃(やまさき・やすあき)投手です。ファームの試合で伊勢投手から山﨑投手への継投を観ることになるとはびっくりです。

投球練習をする山﨑投手を観客みんなどこか見守るような、でも温かい視線というのとはまたちがう、神妙な面持ちというのでしょうか、まじめに冷静にじっと見つめています。

きっとプロ野球ファンの目には、山﨑投手が華やかな演出の中登場し、ぽんぽんっとストライクをとって、アウト3つをてきぱき重ねて、ベイスターズを勝利に導いていたあの姿が焼き付いているので、現状にすっごい違和感という感じなのではないかとわたしは思います。

山﨑投手はスワローズ打線をわずか7球で三者凡退に封じ込めました。あっという間でした。

初球を打って一塁を駆け抜けるもショートゴロに倒れた鈴木選手

9回表、スワローズは引き続きロドリゲス投手が登板しました。デッドボールとフォアボールで1アウト1,2塁のピンチを招きますが、続く2人の打者をセカンドゴロに打ち取って、ゲームセット。

試合の余韻をスタンドでかみしめていると、係員のお姉さんが来て

「まもなく閉門となりますのでご退場くださーい」

と促されます。グッズショップを冷やかして、球場の敷地を出ます。選手たちも続々と外に出てきていて、荷物を持って駐車場に向かっていきます。駐車場からいかにも高そうな車が次々に出てくるのを眺めながら、駐輪場まで歩きました。


自転車にまたがって、ペダルを踏み込みます。野球を現地で観終わった後はいつも不思議な充足感と、脱力感が身体に満ちるような気がします。この感じを別のなにかで経験しているような、と考えた瞬間に、わたしはその思考回路を遮断しました。まだ夕方です。しかもこれからたかやまさんと日帰り温泉に行く予定です。変なことは考えないようにしないと。

先行するたかやまさんは土手に上がって、球場を見下ろす位置で停車します。球場のすぐ脇の草むらにベイスターズファンが集まっています。サインをもらおうとしているのでしょうか。しかし選手たちはあまり応じる様子はありません。グラウンドを横断してバスに向かう選手たちもいます。

左下から中央にかけて、フェンス際にベイスターズファンが集まっている

たかやまさん
「ここに立つとグラウンドが遠く感じる」

ささづかまとめ
「ですね」

たかやまさん
「普段わたしはあんまりチケット買わなくて、このへんに座って観てる」

土手から観るぶんにはもちろん無料です。今日声を出して応援していた男の子2人も無料です。

ささづかまとめ
「あ、たまにお風呂で洗ってるレジャーシートはここで使ってるんですね?」

たかやまさん
「うん。レジャーシートちょっと広げて、イオンで買ったごはん食べながら観てる。トイレに行きにくいのがよくないけど、まあ困ったらそのへんでね」

ささづかまとめ
「え? えっと、そのへんで?」

たかやまさん
「あはは、さすがに冗談。……ほんとに究極困らないとそんなことやらないよ」

あまり冗談に聞こえないのがたかやまさんのある意味すごいところです。


再び自転車に乗って幸魂大橋を渡ります。ウインドサーフィンのセイルが浮かぶ彩湖、荒川、新河岸川と渡って坂を下って上がり、セブンイレブン和光新倉2丁目店で少し休憩し、冷たい飲み物を飲みます。

ささづかまとめ
「このソルティライチの炭酸版みたいなの、おいしいですね!」

たかやまさん
「うん。さわやか甘い」

ささづかまとめ
「はー。そうそう、ここの新倉(にいくら)って地名なんですけど」

たかやまさん
「うん?」

ささづかまとめ
「いつか調べてた朝鮮半島系の地名のひとつなんです。新座とか志木とかと同じで、新羅の人たちが開拓した土地らしくて」

たかやまさん
「そうなんだ。地形も独特だしわかる気がする。結局高速道路が街を貫いてるあたりも…

そこでたかやまさんは黙りました。

ささづかまとめ
「それはまあ…?」

たかやまさん
「いいか」


水分補給ののち、来た道を戻って和光市駅南交差点を右に曲がってしばらく進むと、左側におふろの王様和光店が現れます。

ささづかまとめ
「あれ? もしかしてすごく混んでますね?」

駐輪場がほぼ満車状態です。隅っこの微妙に空いているところに停めます。

たかやまさん
芋洗いフラグ?」

ささづかまとめ
「いやですね」

ささづかまとめ
「あっ、これ大谷石!」

たかやまさん
「そうだね。ミソ多めの大谷石」

宇都宮の大谷資料館に行ったの、いつだったかなあ。なんだかものすごく前の記憶のような気がする、と思いながら自動ドアの向こうへ。

入館料は1000円。さすがチェーン系のお風呂屋さんなので、対面のやりとりはほぼありません。シューズボックスの鍵がそのまま個人を識別するタグになるのはなんだか不思議な感じもしますが、靴を履かずに帰る猛者はなかなか現れないでしょうから、理に適っています。そのタグをピッとやって、自動改札を抜けて3階の大浴場へ。

ふたりとも髪が短めというのはなんと快適なことなんでしょうか。温泉に行くのが好きすぎて、ついにボブとショートボブになってしまいました。なにも気にせずメイクを落として髪を洗って身体を洗ってぬるめのお湯にざぶんと浸かります。ううー、ペダルを漕ぎ疲れた脚に効くぅー。源泉は地下1500mから湧いているお湯なのだそう。よくそんなに掘りましたね…。

まだ夕方の5時過ぎ。ふたりで露天風呂のほうに移動して、日陰の寝湯でぼんやりしながら、日が落ちていくのを待ちます。日が出ているうちに外に出てしまうと、また日焼け止めとか塗らないとですし。薄茶色のするするした感触のお湯、お客さんたちの雰囲気も悪くなく、うとうとしつつ……、ん? 今日なにしにここまで来たんでしたっけ。ああそういえば、野球を観に来た帰りでした。

たかやまさんは寝湯に飽きるといつもの温泉→水風呂→外気浴のセットをやっていました。楽しそうでなによりです。


お風呂上がりはフロントで250円する高級めのコーヒー牛乳を買って、明るくてきれいなロビーで飲みます(もちろん普通の値段のも売っています)。コーヒー牛乳評論家のたかやまさんもうなずくおいしさでした。

ラベルを見ると岩手県の岩泉で作られたコーヒー牛乳とのこと。岩泉ですかあ。

たかやまさん
「岩泉ってなにがあるの?」

ささづかまとめ
「んー、鍾乳洞とかですかね?」

たかやまさん
「行ってみたいね?」

ささづかまとめ
「そうですか?」

たかやまさん
「きっと涼しい」

ささづかまとめ
「ああ…、いいですね、涼しいの」

たかやまさん
「さーさちゃん、なんか元気ない?」

ささづかまとめ
「いえ、ここからまた20kmも走るのかーっていうのがちょっとのしかかってきてるだけですね」

たかやまさん
どこでもドアが実用化されたら日帰り温泉に置いてもらおう」

ささづかまとめ
「いいですね。おうちの玄関直結で」

というわけで、笹塚に着いたのは20時すぎでした。また行きたいような、もうお腹いっぱいのような。野球ファンのみなさん、もしファームの試合を観に行ったことがなかったら、一度行ってみてくださいね! けっこう、楽しかったです。


(終わり)