#3 キッチン、汚っ

留学生活5日目。

今日は2月にブリスベンで会ったケンとお茶に行った。
ケンは貿易省で働く50代のキュートなおじさん。
相手の住んでる地域を聞くと何沿線かと最寄り駅が当てられちゃう、鉄道マニア。

シティーに行っておしゃれなカフェで、最近の生活とかこれからやりたいこととかいろんな話をした。でも4分の1は鉄道の話だった。

私は、environmental sustainabilityに興味があって、大学では関連の授業を取る予定だということを話したら、オーストラリアの環境事情を教えてくれた。
オーストラリアは干ばつがひどく、地球温暖化の影響を目に見える形で受けている。さらについこの間はNY州ほどの大きさの氷河が南極から崩れて離れていったということも言っていた。

日本でも体感として地球温暖化を捉えることができる。
私が小学生の頃は真夏の28℃で「かなり暑い日」だった。38℃なんて考えられなかった。10年でこんなにも気候が変ってしまった。

が、猛暑日に危機感を持つひとはどのくらいいるだろうか。

私は今年の2月、クイーンズランド大学で気候変動のパネルディスカッションに参加した。
そのとき、気温の上昇によって道路のコンクリートが溶けたり、その影響で道路が崩れ、その崩れた穴へ車が沈んでいく映像を見た。
ソロモン諸島に暮らす友達から「私の国の島は海面の上昇ですでに5つ沈んだ」という生々しい話を聞いた。ショックだった。
そして今の自分が考えるべきことだと思った。考えるチャンスが与えられてラッキーだった。

それ以降、サステイナブルなこと、エシカルなことを考える機会が増えたし、そういう話を友達とするのが心地よくなった。
だから、うまく言えないけど、意識高い系みたいに扱われたこともあったんだけど、それは残念だなと思う。

ゆっくりお茶をした後は住んでいる寮に戻ってきた。

ちょうど1人の寮生が引っ越しのため荷物を運び出しているところに遭遇した。彼はホリデーを利用して家族の所に戻るんだと言っていた。
2人で歩いていたときにキッチンがかなりぐちゃぐちゃで片付いていないのが目に入った。
私が「これさ、マジでびっくりしたんだけど」と言ったら、
彼は「俺ともう1人は片付けてるんだけどね」と言ったので
「じゃあ誰か片付けない人がいるってコトだよね」と聞き返したら
「そういうこと。ありえへん。」と。
まじでそれなOFそれな。はっきり言ってくそ汚い。

と言うことで、彼の荷物運びを一通り手伝い終わった後、誰かさんが汚したキッチンの片付けを始めた。
やはり片付いていくのは気持ちが良い。
食べっぱなしの皿を洗った。
コップはまとめて一つの引き出しにしまった。
ついでに40本近くあるスプーンとナイフは、とりあえず30本ほど使えないように黒い袋に入れて隠した。

今週はテスト期間だったこともあり、片付ける余裕がなかったのかな?
私は寛大なので許すぞ、ホホホという幸せな自己評価をしてその場を後にする。

が、およそ1時間後、新たな使用済み皿がシンクに積み上げられているのをみた。し、しょっく。
なんかすごいな。逆に感心するぜこの汚いキッチンで生活できるおまえに。と脳内想定クリミナルへ語りかけた。

と同時に、ふとオーストラリアの深刻な水不足のことを思い出した。

それで気がついた。ああ、私お皿洗うのに結構な水を使ったなと。

もしかしたら彼は水はあまり使うべきでないと考えて1週間の中で洗う日を決めてそれ以外は節水に努めていると思っているのかも知れない。
そうだったら失敬。君の水を大切にするという思いに気づけなかったな。
だがしかし、汚れはこびり付けば付くほどきれいに落とすのに多くの水が必要になってしまうよ。それに私はきれいなキッチンで料理が出来たら幸せな気持ちになるから、ぜひ一緒にお皿は積んで行こうじゃないか。
そう交渉しよう、と心に決めた。

もし和解することなく私のささやかな幸せが犯されることになれば、それは私の留学生活における新たなる戦いの始まりとなるだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?