ロシアにおけるメディア抑圧とグーグルアップルの抑圧協力

フィンランド国際問題研究所(The Finnish Institute of International Affairs)はフィンランドにある研究所で、元フィンランド大統領の名を冠したPaasikivi-seuraによって設立され、フィンランド議会から資金を得て運営されている。PaasikiviおよびPaasikivi-seuraはいわゆるフィンランド化路線を踏襲している。
同研究所は調査研究活動にくわえ、機関誌「Ulkopolitiikka(フィンランド外交ジャーナル)」を発行し、専門図書館も運営している。

今回は2021年11月22日に公開された「Internet and media repression in Russia: Avoiding the complicity of Western actors」(https://www.fiia.fi/en/publication/internet-and-media-repression-in-russia)からロシアにおけるメディア抑圧と、グーグルやアップルによる抑圧支援についてご紹介したい。

このレポートの要点は、大きく4つある。

・もともとプーチンはメディアコントロールに力を入れてきたが、しかし、最近量的にも質的にも悪い方向に転じている。その対象はメディアだけに留まらず、ジャーナリスト個人までに広がっている 。

・その理由は、ロシア国内においてインターネットの重要性が増していることと、ロシア国営テレビの人気が低下していることである。

・メディアやジャーナリストを「外国のスパイ」であると指摘するケースが急増しており、メディアとジャーナリストをを国外に追いやることになっている。亡命ジャーナリズムは、独立系メディアの重要な一部となった。

・自由主義圏のインターネット企業、グーグルやアップルは商業的な利益のためにロシア政府に協力して検閲を行うことは、重大な脅威になっている。

●メディア抑圧強化
メディアの抑圧が顕著になったのは、ロシアの独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ」のドミトリー・ムラノフがノーベル平和賞を受賞した時からだ。ムラノフはロシアの暗部を暴き続けてきた人物で、日本でもその活動は、『暗殺国家ロシア 消されたジャーナリストを追う』(福田ますみ、新潮社)で紹介されている。受賞のその日に12人のジャーナリストが外国人スパイのリストに加えられた。
2021年に入ってメディアや市民活動は国家の安定を脅かす脅威として活動家やジャーナリストにテロやスパイに適用される法律を適用している。本書にあげられたチャートを見ると、そのすさまじい増加ぶりがよくわかる。
また、海外からの資金調達の妨害なども行っており、抑圧強化とあいまって国外に出るジャーナリストが増加した。

Figure 1. Number of ‘foreign agents’ in the media sphere 2017–2021
出典 Internet and media repression in Russia: Avoiding the complicity of Western actors PUBLISHED 11/02/2021 · FIIA BRIEFING PAPER 320

●国営TVの影響力低下とネットの影響力増大
チャートを見るとわかるように、これまで大きな影響力を持っていた国営TVの影響力が減り、ネットが伸びている。このことがロシア政府の危機感をより高めている。

Figure 2. Trust in TV, internet publications, and social media 2009–2021
出典 Internet and media repression in Russia: Avoiding the complicity of Western actors PUBLISHED 11/02/2021 · FIIA BRIEFING PAPER 320

●グーグルやアップルの協力
ロシア政府はグーグルアップルを始めとするインターネット企業への要求を増大させている。その結果、アップルとグーグルは前回の選挙で野党のアレクセイ・ナヴァルニーのアプリを選挙前日にストアから削除するなどの協力を行った。グーグルとアップルが権威主義国家の要求を受け入れて手を貸したのは、もちろんこれが初めてではない。中国、ベトナムなどさまざまな国で行っている。
Sideswiped: Apple, Google, and the Kremlin’s Make-Believe Election
https://carnegieendowment.org/2021/09/23/sideswiped-apple-google-and-kremlin-s-make-believe-election-pub-85417

●感想
ビッグテックの社会的責任についてはその範囲は曖昧だし、そもそもビッグテックが「真実の裁定者」になってよいのかという問題もある。
しかし、国際世論がロシアに逆風になったとたんに、アップルは、ロシアでの製品販売をやめ、アップルペイを停止した(https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-apple-idJPL4N2V44L4)。グーグルは(https://www.cnn.co.jp/tech/35184213.html)YouTubeなどへの広告を停止した。機を見るに敏としか言いようがない。あるいは節操がないと言うべきか。

そもそもビッグテック自身が民主主義を毀損している張本人という主張は数多い。
たとえば、ショシャナ・ズボフの『監視資本主義: 人類の未来を賭けた闘い』フランシス・フクヤマの論考「ビッグテックが民主主義を脅かす」
シヴァ・ヴァイディアナサン「アンチソーシャルメディア」など枚挙にいとまがない。


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