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メモ Polycrisis こうやって私たちは正体のわからない混沌にのみ込まれて行く

Polycrisisという言葉が注目されているようだ。すでに日本でもいろんな人が言及しているので、そちらの記事も参照するとよいと思う。日本語だと「ポリクライシス」で検索した方が見つけやすいようだ。
今回は、なんとなく思ったことをメモしただけです。

Polycrisisはひらたく言うと、社会のいろんな要因が絡み合って、全体として個々の要因の性質とは異なる様相を呈し、個々の要因の総和以上に規模が拡大することを指すことらしい。個々の要因とはこのnoteで何度も取り上げている問題はもとより、気候変動やエネルギー危機など多様だ。これらが相互に影響を与え合うことで問題が拡大してゆく。このへんの議論をまとめた資料「What Is a Global Polycrisis?」(Cascade Institute、2022年9月、https://cascadeinstitute.org/technical-paper/what-is-a-global-polycrisis/)も公開されている。

Adam Tooze はPolycrisisについて何度も取り上げており、最近では「Welcome to the world of the polycrisis」(Financial Times、2022年10月29日、https://www.ft.com/content/498398e7-11b1-494b-9cd3-6d669dc3de33)などがある。この他、New York TimesやWashington Postなどもとりあげているので注目度は高いのだろう。

What Happens When a Cascade of Crises Collide?(New York Times、2022年11月13日、https://www.nytimes.com/2022/11/13/opinion/coronavirus-ukraine-climate-inflation.html)
Can we fix our battered politics to deal with converging crises?(Washington Post、2022年11月1日、https://www.washingtonpost.com/opinions/2022/11/01/polycrisis-midterms-biden-administration-progressive/)
Bring On the Non-Drama Election(Wall Street Journal、2022年11月3日、https://www.wsj.com/articles/non-drama-election-midterms-voters-democracy-apocalyptic-biden-speech-obama-gas-prices-threat-turnout-senate-house-11667510884)

かと思えばWTOも「In a world of polycrisis, Aid for Trade Global Review focuses on recovery, resilience」(2022年7月27日、https://www.wto.org/english/news_e/news22_e/aid_27jul22_e.htm)という記事を掲載している。

現在、我々の前にあまりにもたくさんの危機があり、しかもそれらが相互に関係している。たとえば気候変動は食糧危機を加速し、移民を増加させる。その結果、社会の分断と衝突が増える。衝突が増えると、気候変動への対処は後回しになるし、社会不安定によって食糧供給も不安定になり、移民も増加する。
今回のウクライナ侵攻は世界にある危機がさまざまな形で結びついているかを実証してみせた。ロシアがウクライナに侵攻すると、食糧危機やエネルギー危機が加速し、移民は増加した。
相互作用で危機が加速、拡大するのであれば大変危険なのは確かだ。そのためPolycrisisの早急な調査、研究が必要とされている。

Polycrisisの全貌が明らかになるかどうかはわからないが、それ以上に問題なのは対処できるかどうかだ。全貌の解明は科学の領域に近いが、対処はきわめて政治的な問題だ。やっと合意にこぎつけたCOP26を見ても、世界的な危機への対応では各国がそれぞれの利害にもとづいて動く。それは当たり前とも言えるのだけど、それが前提ならPolycrisisへの対処はできないことになる。なぜならこれは世界全体を覆う危機であり、多様な問題に各国それぞれの利害を超えた協力が不可欠となるからだ。
COP26では先進国=グローバルノース主流派が加害者であるにもかかわらず、被害者であるグローバルサウスからの協力要請(基金設立)を継続的な資金提供に難色を示してずっとしぶり続けた。昔の公害企業とその被害者を彷彿させる光景だ。
ウクライナ侵攻でもグローバルノースの同胞は助けても、グローバルサウス=アフリカやアジアの同様の問題には積極的にはかかわらない態度を暴露した。
コロナ禍でも協力よりは利用して優位な立場に立とうとする試みが多く見られた。

おそらく協力すればある程度危機は緩和できるのだろうけど、それが難しいことを示す事象が次々と起きている。このままだと10年以内に、多くの国は「世界が未曾有の危機に見舞われる中で自国だけを救うための方法」を模索することになるだろう。
などということをぼんやり考えた。

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