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国際政治学者イアン・ブレマーの『危機の地政学』は日本に欠けている未来への力を教えてくれる

国際政治学者イアン・ブレマーの『危機の地政学 感染爆発、気候変動、テクノロジーの脅威』(日経経済新聞出版、2022年10月4日)を読んだ。実は本書の原書をのろのろ時間をかけて読んでいたのだが、昨日、日本語版が出ているのに気がついてさっそくそちらに切り替えた。
本書は、我々が直面している3つの危機=パンデミック、気候変動、テクノロジーに対して、どのように取り組むべきかをまとめている。イアン・ブレマーは洞察力に富んだ人物で、私はよくYouTubeを見ている。毎日更新され、最新の話題をコンパクト(ほとんどは数分!)にまとめて伝えてくれる。時にはキイパーソンを招いて対談することもあるし、パペットアニメのこともある。おすすめである。
GZERO Media https://www.youtube.com/c/GZEROMedia

●本書の内容

本書はまず3つの危機についての状況を整理、分析している。パンデミックは必ずまた起こるし、気候変動は確実に進んでいる。そしてビッグテックのテクノロジーは急速に進歩を続け、ビッグテック自身を地政学上のアクターとして影響力を拡大している

イアン・ブレマーはこれらの危機は全世界にとっての脅威で、ひとつの国で対応できるものではなく、世界的な協力が必須としている。しかし、世界は分断を深め、それがしにくくなっている。こういう時には、危機が世界を団結させる力となる。いまの世界には団結するきっかけとなる危機が必要なのだ。過去の世界的な危機の危機が団結を促進した事例を紹介する。本書の現代の「Poser of Crisis」はそこからきている。
しかし、コロナのパンデミックはそうなってもよかったが、全くそうはならなかった。世界はますます分断し、危険な方向に向かっている

気候変動について具体的なイメージを持てていない人も多いが、本書では6つのリスクをあげている。
・水害と水不足
・競争 水を巡っての争い
・難民
 すでに数百万人が気候変動で難民となって他国にいる。これからその数は数億にのぼる可能性もあるが、世界的な対処は全く進んでいない。
・気候アパルトヘイト 気候変動の影響が大きいのは貧しい国。富める国が自らを守るために貧しい国との間に障壁を作り、さらに格差が拡大する。
・地球工学の危険性 気候変動への対策は温室ガス低減以外に地球工学による対処も考えられている。しかし、その実効性やリスク(想定外の事態が起きる可能性もある)についてはまだ充分わかっていない。ある国が勝手に地球工学的対策を実施し、世界全体に悪影響が及ぶ可能性もあるし、有効に地球工学を使いこなせる国があれば、その国は他の国の気象まで操れる可能性がある。

テクノロジー、ビッグテックはパンデミックにおける唯一の勝者とし、今後さらに拡大し、影響力を増してゆくと指摘している。その一方でリスクも大きい。過度の監視や管理による人間性の毀損、仕事の変質や喪失、デジタル・デバイド、デジタル権威主義の拡大である。
AIや自律型兵器の持つリスクも無視できない。

イアン・ブレマーはこれらの危機に対応するためには、世界が協力することが必要で、そのためには米中は反目していても相互依存していた方がよいし、国際的な仕組みも必要だとする。そして、国際機関の設立を含む、具体的な提言を行っている。

●感想

イアン・ブレマーの分析は鋭く、他ではあまり見られないものも多い。しかし、非常に当たり前の論理の積み重ねで成り立っているので納得感がある。本書はまさにそうだった。
早ければ10年以内に温暖化を止められないことを前提にする国家が増加すると私自身は予測していた。水没しはじめている国家は、もうそうなっている。大国や人口の多い国がそのような発想に基づいてなにをするだろうか? と考えていた。
しかし、本書を読んでまだ前向きな可能性があるということを教えられた。正直、ほんとうにそれで3つのリスクを抑えられるのか疑問もあるが、否定からはなにも始まらない。実現するためにこそ、知恵を絞るべきだ。
「未来は予測するものではなく、作るものだ」
日本では世界の行く末を傍観者的に語る人が多く、逆に「未来を作る」発言は冷笑されがちな気がする。グローバルノース主流派であって欧米ではなく、GDP3位の日本は本来当事者のはずだ。未来を作る努力をすべきだと思う。


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