「ファクトチェックという暴力」 ファクトチェックはアテンション・エコノミーの一部なのかも

はむた@捏造報道と闘う会の「ファクトチェックという暴力」https://note.com/koyagi_village/n/n04d6a3cff15d )を読んだ。日本ファクトチェックセンター(JFC)が不正確と判定した能登半島地震の被災者の下記の発言を検証についての考察だ。

あらかじめ申しあげておきますが、私はファクトチェックは必要だと考えています。しかし、そこで真偽判定の結論が出ると考えるのは民主主義においては誤りと言わざるを得ません。


●「ファクトチェックという暴力」の概要

被災者のこの発言を受けてJFCは下記を行った。この内容はJFCのページ( https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/disasters/inaccurate-noto-earthquake-meals/ )にも掲載されている。
・珠洲市のウェブサイトをチェック
・弁当を配布している珠洲市健康増進センターに取材し、「避難所にいる人や困窮している人には引き続き弁当を提供する」との回答を得る(取材方法は不明)

これに対して「ファクトチェックという暴力」では下記の点に問題があり、実質的に困窮していても弁当の入手が困難な人いることを指摘している。

・JFCのガイドラインには「可能な限り複数の異なる情報源から情報を入手する」とあるが、行政側(珠洲市のウェブ、珠洲市健康増進センター)の情報のみに頼っている。
・困っている人は取りに行けない、取りに行けたとしても赤字になると元の投稿者は投稿している。

 https://x.com/notosuzudesu/status/1791409176062951754

・珠洲市の公式サイトには、弁当の初回の支給は「申請受付をしてから1週間後となります」とあり、その間弁当は支給されないことになっている。

また、この投稿をファクトチェックの対象にしたことにも疑問を投げかけている。拡散して悪影響を与えるような投稿内容とは思えないとしている。

「ファクトチェックという暴力」が公開された後、JFCは当該のツイートを削除したが、ファクトチェックページは残している。
ファクトチェックという言葉が普及する前からファクトチェックに取り組んできた弁護士の楊井人文は「すべてのファクトチェック関係者が傾聴すべきまっとうな指摘です。JFCには応答責任がある」と、当該noteをXで紹介した。

●ファクトチェックとはなにか? を考えるきっかけになる事件

この事件はファクトチェックとはなにかということを考えるよいきっかけになったような気がする、というかなってほしい。ファクトチェックにはIFCNという国際団体があり、IFCNが提示した原則がひとつの目安となっている。くわしい内容はファクトチェック・イニシアチブ(FIJ)のページにある。

ファクトチェックの国際原則
https://fij.info/introduction/ifcn-code

しかし、よく考えてほしい。ファクトチェック団体がなんと言おうと、彼らが真偽判定をする/できる根拠はどこにもないのだ。民主主義において、真実を決めるのは国民でなければならない。有志が集まって、「ファクト」を決めるというのはきわめて党派的な発想だと私は考えている。国民の付託を受ける(法律以上の規制や制度など)、あるいは審査を受ける過程がない以上(投票など)、その真偽判定はあくまで参考情報のひとつにすぎず、今回のケースで言えば、元の投稿者、珠洲市健康増進センターの発言と同等である。ファクトチェックという言葉から、元の投稿者、珠洲市健康増進センターの発言よりも信頼できるような気がするが、それもあくまでひとつの意見にすぎない。
FIJのミッションのページ( https://fij.info/mission )にも「真実の最終裁定は言論社会に生きる人々に委ねられています。私たちが志向するのは、人々が正確な事実認識を共有できるよう、判断材料を提供することです。」と書いてある通りだ。

これに対してJFCのページには、真実の裁定者についての記述は全くない。JFCのページだけ読むと、まるでJFCの真偽判定が正しいかのように誤解してしまいそうだ。もちろん、正しいかもしれないが、間違っているかもしれない。それを決めるのはJFCではなく、国民である我々だ。少なくとも民主主義を標榜する以上、法的根拠も制度的根拠もなにもない有志の団体は真実の裁定者にはなれない

ファクトチェックを考えるうえで、真実の裁定者は常に考えておかなければならないことだと思うのだが、そうではない人の方が多いようだ。真実の裁定者が国民であることを前提に調査し、原稿を書けば、今回のように被災者の怒りや悲しみを誘うようなファクトチェックにはならなかったように思う。

●SNSプラットフォームにファクトチェックとはメディアの名称でアテンション・エコノミーの一部

真実の裁定者の話をした後で恐縮だが、ほとんどのファクトチェック団体がSNSプラットフォームの資金を得ていることを考えると、SNSプラットフォームが作り出したアテンション・エコノミーの一部であるように思える。ファクトチェック団体の金回りなどについては下記を参照。

ファクトチェック団体のほとんどは日本のアニメ制作下請会社より零細?
https://note.com/ichi_twnovel/n/n1ef4a63edaae

ファクトチェックという言葉が広まり、誤・偽情報関連ではだんとつに多くの研究が行われている(つまりもっとも多くの研究資金が流れ込んでいる)にもかかわらず、その効果は検証されておらず、偽情報が減っているきざしはないし、世界の民主主義の指数は減少し続けている。誤・偽情報対策関連の過去の調査の統計については下記を参照。

10の偽情報対策の有効性やスケーラビリティを検証したガイドブック
https://note.com/ichi_twnovel/n/n01ce8bb38ef3

偽情報が世界の脅威だというなら、対策の予算や組織がどんどん増えているのに民主主義が後退しているのはおかしい。ありもしない効果を謳ってる詐欺じゃないの? と疑いたくなる。
こういうと身も蓋もないが、ファクトチェックが必要であることは確かだと思うものの、その一方で効果についての検証がされておらず、SNSプラットフォームから資金を得ているメディアであり、アテンション・エコノミーの一部であるという認識も必要なのでは?

余談だが、遠くない将来、世界の多数を占めるファクトチェックは官製のものになるだろう。なぜなら世界には権威主義国の方が多く、それらの国ではフェイクニュース法に名を借りた言論統制が進められている。ファクトチェックでも同様のことが起こる可能性が高い。権威主義国では真実の裁定者が権威を有する個人あるいは組織なので、民主主義の国民という漠たるものよりはるかにわかりやすく、効率的に真偽判定できる。

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