ファクトチェックのパトロン、フェイスブックの危うい「真実の裁定者」ぶり

*本稿は「ファクトチェックは誰のため? 政府とSNSプラットフォームのためだ」の続きです。
フェイスブックは多数のファクトチェック組織にファクトチェックを委託し、資金を提供している。フェイスブックの広報担当者によれば、世界中の70以上のファクトチェック機関と提携している(後述、「Facebook’s Preferential Treatment Of US Conservatives Puts Its Fact-Checking Program In Danger」)。ファクトチェック業界では大きな存在感を持つパトロンと言える。
2019年2月のThe Atlanticの推計(This Is How Much Fact-Checking Is Worth to Facebook、https://www.theatlantic.com/technology/archive/2019/02/how-much-factchecking-worth-facebook/581899/)では、年間数百万ドル(数億円)を支払っている。しかし、その時点でのフェイスブックの四半期の売上は169億ドル(1兆6,900億円)だったことを考えると、フェイスブックにとってのファクトチェックは、「なにもしないよりはやった方がいいが、それ以上の意味はない」というくらいのものだろうと記事では皮肉っている。
しかし、ファクトチェック組織にとってこの金額は決して小さくないだろう。たとえば、今回問題となったSnopesの2020年収入は下記だ(同社サイトより)。フェイスブックのパートナーだった時の収入、$406,000は決して小さくない。

reader contributions $1,409,000
PPP loan $290,000
crowdsourced GoFundMe $79,000
merchandise sales $16,000
unconditional contribution from  Wei-Hwa Huang and Trisha Brooke Huang $10,030

さらに、そのファクトチェック体制には不透明な部分があり、重要なことについてはフェイスブック社の人間が、「真実の裁定者」として判断を行っていることが暴露されている。
特定のいくつかの右派の組織(ブライトバート、Diamond and Silk、PragerUなど)への投稿の規制を甘くしていたのだ。そしてそのことを社内の掲示板で指摘した社員を解雇した。
この事件はBuzzFeedにリークされ、記事になった。昨年の夏のことだが、Snopesの事件を考えるうえであらためて振り返る意味はあると思う。ちなみにSnopesがフェイスブックのパートナーを辞めたのはこの事件のさらに1年前、一昨年のことである。
以下、この問題を報じた記事の紹介である。


「Facebook Fired An Employee Who Collected Evidence Of Right-Wing Pages Getting Preferential Treatment」(BuzzFeedNews、2020年8月6日、https://www.buzzfeednews.com/article/craigsilverman/facebook-zuckerberg-what-if-trump-disputes-election-results)によると、アメリカ大統領選のあった2020年の夏、フェイスブックの社内のWorkplace(コミュニケーションツール)では大統領選における自社のきわどい立ち位置についての議論が起きていた。その最中、ひとりの社員が、右派ページからのファクトチェックの苦情がエスカレーション(後述)され、場合によっては同日中にそのアカウントに有利な形で解決されたケースが複数あったと投稿した。
フェイスブックは通常、フォロワー数の多いページや多額の広告予算を持つページに専任マネージャーを割り当て、クライアントがプラットフォームを最大限に利用できるようにサポートする。投稿で明らかになったケースでは、パートナー担当マネージャーが右派パブリッシャーへの優遇措置を求めていた。その結果、フェイスブックの担当者からファクトチェック・パートナーに電話をかけたり、ファクトチェッカーが知らないうちに誤情報のフラグがコンテンツから削除されたと思われる事例があった。その後、この社員は解雇された。

続報である「Facebook’s Preferential Treatment Of US Conservatives Puts Its Fact-Checking Program In Danger」(BuzzFeedNews、2020年8月13日、https://www.buzzfeednews.com/article/craigsilverman/facebook-arbiter-truth-fact-check-mark-zuckerberg)によると、フェイスブックは「真実の裁定者」になるべきではない、としてファクトチェックパートナーに報酬を支払って、ファクトチェックを依頼している。複数のファクトチェッカーへの取材ではフェイスブックによって、ファクトチェックの結果が無視されたり、覆されたりすることがあるという。
フェイスブックは「真実の裁定者」にはなりたくないが、ページを削除する決定権は行使したいという矛盾した行動を取っている。
BuzzFeed NewsとNBC Newsが入手した内部資料によると、フェイスブックは誤情報の指摘を受けたページへのペナルティの決定を控えたり、政治的な反発や収入減を恐れてファクトチェック・パートナーの判断を無視したりしていた。その理由や証拠は公開していない。
また、アメリカ以外の地域のファクトチェッカーは数が少なく充分に対応できていないという問題もある。フェイスブックのファクトチェックの最大のパートナーであるAFPは30カ国以上にスタッフを配置しているが、アメリカだけは特別にフェイスブックのチェックが入るという。

NBCにもフェイスブックが右派に規制を緩めているという記事「Sensitive to claims of bias, Facebook relaxed misinformation rules for conservative pages」(NBC、2020年8月7日、https://www.nbcnews.com/tech/tech-news/sensitive-claims-bias-facebook-relaxed-misinformation-rules-conservative-pages-n1236182)が掲載された。ブライトバート、Diamond and Silk、PragerUなどのフェイスブックページが、同社のポリシーに反してもペナルティを課されないようにしていた
フェイスブックではファクトチェッカーがその投稿に誤報と判断した場合に、ラベルがつけられる。投稿者は決定に異議を申し立てることができる。投稿者がフォロワーが多かったり、広告主だった場合は、フェイスブック社内に担当マネージャーがついており、そのマネージャーはファクトチェッカーの指摘を確認し、優先度の高い問題あるいはPR上のリスクと判断した場合は、「エスカレーション」する=社内の管理システムに登録する。エスカレーションすると上司に通知がゆき、上司はほとんどの場合24時間以内に対応を決定する。
流出したリストに含まれるエスカレーションの約3分の2は、ブライトバート、ドナルド・トランプ・ジュニア、エリック・トランプ、ゲートウェイ・パンディットなどの保守系ページにリンクされた誤報問題に関するものだった。この件に関する議論の中で、PragerUはフェイスブックに500のアクティブな広告を掲載しているので非常に心配だと発言したスタッフもいた。
ある社員の社内システムに、管理システムで見つかったエスカレーションのリストを要約し、同社が保守派の政治家に迎合していると投稿した。その後、この社員は解雇された。

ファクトチェックを取り巻く課題についてはシリーズにまとめています。こちらのマガジンをご覧ください。



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