なぜ、ロシアが情報戦で負けたと誤解したのか

まだ、結構な人がロシアは情報戦で負けた、ロシアの影響工作は失敗したと考えているようなので簡単にそうではない理由を紹介したいと思う。
なお、本稿をさらにくわしく解説した記事をニューズウィークに寄稿した。
ロシアが情報戦で負けたという誤解
https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2022/07/post-37.php

●ロシアの情報戦評価についての短い経緯

2022年3月初旬まではグローバルノース(欧米+日本+韓国)のほとんどのメディアがロシアの情報戦での敗北を伝えていた。
しかし、その後、そうではない可能性を指摘する情報や記事が相次いで公開され、2022年6月22日にマイクロソフト社が公開したレポートDefending Ukraine: Early Lessons from the Cyber War」(https://blogs.microsoft.com/on-the-issues/2022/06/22/defending-ukraine-early-lessons-from-the-cyber-war/)拙noteでの紹介記事はこちら)でははっきりとロシアの影響工作(レポートではサイバー影響工作)がグローバルノースの大手メディア並の影響力を持っていることを明らかにされた。
少なくとも現時点で「ロシアが負けた」とは言えないこと、見方によっては優勢とも言える状態であることがわかった。
情報戦やサイバー戦は「目に見えない戦い」であり、実態がわかるまでは時間がかかるし、最後までわからないこともある。そのため侵攻から1カ月も経たないうちの「勝利宣言」は短慮のそしりを免れない。実は私自身もその頃、ロシアは負けたと言っていたので自省の念を込めてそう考える。なので今でも評価は流動的で確定していないと考えた方がよいだろう。しかし、それでも新しい情報を反映しないで誤解している人が多そうなので書いた次第である。

●いまだに「ロシアは情報戦で負けた」という誤解が残っている理由

今でも「ロシアは情報戦で負けた」という人がいる理由は大きく2つかある。
・情報が2022年3月初旬から更新されていない
・グローバルノースの大手メディアを中心に参照している。これらでは反ロシアの記事が多く、それを持って多数の市民もそう考えていると誤解する。

前者はわかりやすいが、後者は説明が必要かもしれない。
国際世論とはグローバルノース(主としてアメリカ)のメディアや著名人などが作るもので、ロシアはそもそもここを操作することが困難だった。それがわかっているので、ロシアはそれ以外の領域をターゲットにして影響工作を実施してきた。

国際世論だけに注目しているとロシアがぼこぼこにやられているように見えるだろう。しかし、その一方でロシアはグローバルサウスの国々およびグローバルノースの中の反主流派(反ワクチン、陰謀論、白人至上主義など)に影響力を広げていった。前掲のマイクロソフト社のレポートでもこのことが確認されており、その影響力はすでに国際世論を動かす大手メディア並になっている。

最後に宣伝になって恐縮だが、発売中の『ウクライナ侵攻と情報戦』ではこうした問題を詳細に整理しているので、ご興味あればぜひご覧ください。
何度か書いているが、執筆中はまだ「ロシアが負けた」派が圧倒的に多く、自分の書いていることがほんとうに間違っていないか心配だったが、その後続々と裏付けとなるレポートなどが公開されてほっとしている。


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