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マイクロソフト社のレポートは影響工作に焦点を当てていた 「Defending Ukraine:Early Lessons from the Cyber War」

先月、マイクロソフト社が公開したレポートDefending Ukraine: Early Lessons from the Cyber War」(https://blogs.microsoft.com/on-the-issues/2022/06/22/defending-ukraine-early-lessons-from-the-cyber-war/)を遅ればせながら読んだら、そのほとんどが影響工作(レポートではCyber Influence Operations)についてのものだったので驚いた。こんなことならもっと早く読むべきだった。

●ロシアのデジタル影響工作に重点をおいたレポート

全26ページの中で13ページから23ページがロシアの影響工作について書かれている。APTに並ぶAPM(Advance Persistent Manipulator)とも呼んでいる。もちろん、いわゆるサイバー攻撃やサイバー諜報活動についても分析しているが、影響工作に重点を置いたことには理由がある。
まず、今回の戦闘においてサイバー攻撃は大きな役割を果たしていない。もちろん、ロシアからのサイバー攻撃は一定の成果をあげているのだが、それは戦況を大きく左右するものではなかった
サイバー諜報活動も行われ、成果を収めているが、諜報活動がそのまま戦況を左右するわけではない。諜報活動と連携した影響工作もあり、そちらはその成果が見えやすい。
影響工作も戦況を直接左右することはないが、相手国の国民の認知を歪ませ、政局に影響を与えることができる。
直近のアメリカ中間選挙で共和党が優位に立った場合と、民主党が優位に立った場合ではアメリカの態度は違ってくるだろう。
また、2021年1月に起きた議事堂襲撃のような暴動が再び起こる危険もある。

●成果をあげていたロシアの影響工作

なんどかご紹介したように今回のウクライナ侵攻ではグローバルノースはウクライナを強力に支援し、グローバルサウスはロシア支持か中立あるいは引いた態度を取っている。
マイクロソフト社が独自に開発したRPI=Russian Propaganda Indexによると、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダでロシアの影響工作が成果をあげていることを示し、世界で一定の成果をあげているとしている

【2022年7月3日追記】

RPIはネットのトラフィックやGDIなど複数のデータを統合した指標であり、レポートにはアメリカ、ニュージーランド、カナダで閲覧が多かった記事も紹介されている。アメリカではウクライナ侵攻を正当化する記事、ニュージーランドでは反ワクチン、カナダではカナダ国内での抗議活動擁護と大手メディア批判へのアクセスが多かった。レポートはこうしたロシアの影響工作は長年に及んでおり、ウォールストリートジャーナルのような大手メディアに匹敵する影響力を持っていると指摘している。
国際世論をリードするアメリカのメディアではほとんど取り上げられないのに、なぜ? という気もするが、『ウクライナ侵攻と情報戦』に書いたようにロシアは以前からQAnonや白人至上主義など反主流派に浸透していたことを考えれば当然とも言える。RPIからわかった閲覧されている記事の傾向とも一致する。これらのグループはその数や影響力は無視できない規模になっているものの、大手メディアでは相手にされない
余談であるが、『ウクライナ侵攻と情報戦』での分析があとからわかった新事実でひっくり返されないか心配だったが、逆に裏付けとなる事実が増えているようで安心した。

●マイクロソフト社の提唱する対策

マイクロソフト社はこうしたサイバー脅威に対抗するために下記が需要としている。
Digital tactics ロシアは国内外と連携して脅威を拡大する。類似した脅威への対処を効果的に行う。
・Public-private collaboration 
官民連携
・Multilateralism 
各国間で連携し、協力関係を築く
・Free expression 
民主主義社会の基本である表現の自由を守ることを重要課題とする。

そのために、Detect(検知)、防御(Defend)、Disrupt(破壊)、Deter(抑止)を4つの戦略的支柱とすることを提案している。

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