Journalism1月号「メディアの未来」を読んでみた

たまたまタイムラインで目に入ったJournalism1月号「メディアの未来」(朝日新聞)を購入した。朝日新聞ジャーナリスト学校(https://jschool.asahi.com)が作っている定期刊行物だそうだ。朝日新聞ジャーナリスト学校の教材を一般販売もしているのかと思ったら、そうではなくて定常的な講座があるわけではなく、名前だけ学校になっているだけのようだ。さっそく読んでみたので感想を書きたいと思う。

なお、私はジャーナリスト、ジャーナリズム、新聞記者に対して、個人的に偏った印象を持っているので、あらかじめそれをお知らせしておいた方がよいと思う。あくまでも個人的な経験に基づく印象です。本質的には社会的意義のあることをしている人たち(少なくとも本人およびそれを信じる人にとっては)と考えている。ご容赦ください。

1.厚顔無恥
昔、新聞は戸別訪問で販売していた。今でもそうかもしれないけど、昔は規制もゆるかったので、見た感じで威圧感があったり、恐怖を誘うような新聞売りの人が景品をちらつかせながら玄関のドアを叩いたり、ねちねちからんできたりしてほとんどカツアゲのような印象しかない。新しく引っ越してきた住人の家にたくさんの新聞販売店の人間が押し寄せたし、オートロックのマンションの入り口には連日品のよくない人々がたむろして、マンションに入ろうとすると、「お兄さん、ここに住んでるの? 新聞とってる?」と近づいてくる。私は金には色があると思っているので、そういう形で得た金で記事を書いて弱者救済や社会正義を訴えられると「厚顔無恥」という言葉がまず浮かんで来る。

2.品がない
幼い頃に新聞関係の方と会う機会がよくあったが、すごく印象が悪かった。なにぶん幼い頃のことなのではっきり覚えていないが、品がなくて、なれなれしかった。

3.やらずぶったくり
何度も問合せをいただいたり、アドバイスを求められたりしたが、お金もくれないし、それを記事で使っても名前も出さない。出さない理由はこちらが著名人ではないだろうけど、だったら最初から問合せしてこなければいいのにと思う。人のためになにかしてあげるのは気分がいいので助けを求められると手伝うし、悪気がない(おそらく知らずのうちに「意識高い人は協力してくれる」という思い込みか、特権意識を持っているのだろう)ことはわかるけど、もうちょっと思いやりとか、感謝とかあってもいいんじゃないのかなあ。

●特集 メディア未来 感想
この特集では、巻頭の前ワシントン・ポスト編集主幹とニューヨーク・タイムズ編集局長へのインタビューと、6人の識者がそれぞれの専門分野からの意見を寄稿している。ただ、「メディア」というよりは、「ニュース」あるいは「新聞」の話のような気がした。なぜなら、メディアというのはもっと広義で扱われることが多いと思う。書籍、ブログ、サイネージ、SNSなどもメディアだと思うのだが、ここで触れられているのは主として新聞のことだ。巻頭の言葉でも新聞にフォーカスしている。なので新聞がおかれている現状と、今後についての特集として読んだ。

インタビュー記事はいずれも新聞や新聞ジャーナリズムがネット時代で成功した体験談である。参考にはなったが、あくまで新聞の話なので新聞にあまり興味のない私にはおもしろいものではなかった。

識者の寄稿の最初は藤代先生でメディアの生態系からニュースを汚染している「こたつ記事」の問題を指摘している。

2番手は山本先生はフェイスブックやグーグルを「新たな統治者」と呼び、権力者を監視するように「新たな統治者」も監視しなければならないとしている。そしてプラットフォーム権力も含めた新しいデジタル立憲主義を紹介している。デジタル立憲主義は知らなかったので、今度調べてみよう。

3番目の外岡先生は新聞の凋落を時代を追って整理、分析し、これからの可能性を切り開くためのDXの重要性を説いている。

4番目の曽我部先生は表現の自由論のもとになっている考え方のひとつ「思想の自由市場」が思っていたようには機能しないことを指摘し、「情報に関する情報」不足や情報の受け手の能力不足などを課題してあげた。「思想の自由市場」とは、表現の自由を広く認めて多様な情報を流通させると、誤った考えや事実は淘汰されてゆくという考え方で、これがSNS全盛時代の現在には当てはまらないのはご存じの通りである。

5番目の根来先生は新聞のデジタル化によるビジネスモデルを史的展開を踏まえつつ、紹介している。

6番目は西日本新聞の福間記者によるローカルメディア連携の成功例の紹介。メールやLINEで投書を受け付ける「あなたの特命取材班」(あな特)をはじめて、市民の投書から取材を行って記事化することをJOD(ジャーナリズム・オン・デマンド)が拡大、確立されていくまでの体験談。正直、これが一番おもしろかった。紙名は「西日本」でも西日本全域をカバーする取材体制はなかった。カバーしていない関西に関する投書をもらって、地方紙の連携を思いつき、「あな特」に関心を持つ地方紙に声をかけた。まず、8紙40人からスタートした研究会は、JODパートナーシップへと発展し、現在は29媒体が参加するまでになった。とはいえ、この成功によって部数が伸びたわけではないことというオチが苦い。

これら識者の寄稿のいくつかで共通していたのは新聞の危機感、プラットフォームへの問題意識などだった。特にヤフーの影響については「ヤフー」という名前を出して指摘していた。トラフィックほしさにヤフーの顔色をうかがうようになり、批判的なことが言えなくなるといった問題が指摘されている。
この特集を、定番本のチャートに布置すると下記の赤丸になると思う。

●感想あるいは余談
そこで気がついたのだけど、この人たちの多くは、ヤフーをメディアあるいはニュース媒体とは思っていないようだ。でも、日本の多くの人はヤフーでニュースを見ているし、ツイッターでもヤフーニュースが共有されることが多い。

海外でもフェイスブックなどのSNSでニュースを見る人が増えているし、フェイスブックの無料インターネットサービスが展開されている60カ国ではインターネット=フェイスブックになっており、当然ニュースも全てフェイスブック経由となる。独自のポリシーによって情報を選り分け、提供していり。世界的に見てもSNSはメディアであり、ニュース媒体なのだ。

ニュース媒体であるという観点に立つと、プラットフォームを監視するのがニュースの新しい役割というのは奇妙に聞こえる。放火魔に消防を任せるようなののだ。そもそもこれまで新聞などのニュース媒体は社会に対する影響力を持ちながら、それを監視する効果的な機構があまりなかった。あればもっと早く新聞の販売はまともになっていただろうし、記者クラブもなくなっていただろう。

日本の新聞はコンテンツ制作(自前制作、外注、記事購入など)、パブリッシング(パッケージとしてまとめてリリースする)、ディストリビューション(配布)という3つの機能を持っていて、3番目のディストリビューションが非常に強力だった。なにしろ日本中の個々人の家に押しかけて、インターホンを鳴らし、ドアをノックして、「新聞とってください」と買ってくれるまでやっていたのだ。現在は規制とネットの影響で、ディストリビューションの力は大きく削がれた。

また、ネットではバラで記事を読まれることも多く、ヤフーのようなポータルサイトなどが独自にアグリゲーションしていることもある。つまり、パブリッシングの機能が独占でなくなっている

そして、「こたつ記事」増加でもわかるように、もはやコンテンツ制作すらネットの一般個人に頼るようになっている。今回の特集で、朝日新聞のLINEのスクープが成功例として取り上げられていたが、あのニュースを見た時に「???」となったことを覚えている。なぜなら、LINEに問題があることは9年前のシチズンラボのレポート(https://citizenlab.ca/2013/11/asia-chats-investigating-regionally-based-keyword-censorship-line/)以来、何回も指摘されてきた。最初のレポートでは中国がNAVER(当時のLINEの親会社)を経由してLINEを検閲するためのキーワードをセットしていたことを暴露した。それ以後も暗号化していないことによる情報漏洩の危険性などについてレポートしてきた。9年間にわたり、日本の新聞はこれらを無視してきた。なお、アメリカではシチズンラボがZOOMの危険性を指摘した際、すぐに議会にシチズンラボの責任者を招聘し、およそ半年後には関係者を訴追し、ZOOMは体制の見直しを行うこととなった。新聞と政治家のセキュリティの認識の差によると思うが、対応の違いの差が大きい。
ついでにいえば韓国の国情院がLINEを傍受していたことは7年前FACTA(https://facta.co.jp/article/201407039.html)(リンクはWEBのもので、最初は紙の本誌に掲載)で暴露されており、LINEの情報管理が好ましい状態でなかったことはわかっていた。
また、これは個人的な推測の域を出ないが、LINEの開発を韓国が主導しているということはメンテナンスなども韓国に頼る必要がある。トラブル対応などのためには、緊急時にアクセスできなければならない。つまり、韓国側はLINEのサーバにダイレクトにアクセスし、閲覧、変更する権限を持っている可能性が高い。これはLINE特有のことではなく、他国で開発されたオンラインゲームやビジネスサービスなどを自国のサーバに移植した際も同様のことが必要になる。ただし、個人情報が集積であるSNSのサーバを他の国にある他の企業がアクセスするというのは知らない。もちろん、あくまで推測なので勘違いしている可能性もあるが、そうでなかったとしたらどうやってメンテナンスしているのだろう? 日本側に充分な技術者がいるのだろうか? だったら開発もすればいいのでは?

余談が長くなってしまったが、LINEのスクープが話題になったのは、それだけ情報感度が鈍かっただけじゃないかという気もした。記事および担当した記者の方々を貶めるつもりはありません。知られていることと、検証して深掘りすることは別のことで取材などのご苦労があったでしょう。問題は長期間にわたり放置した組織や体制にあると思う。

ヤフーはコンテンツ制作(自前制作、外注、記事購入など)、パブリッシング(パッケージとしてまとめてリリースする)、ディストリビューション(配布)という3つの機能を持っている。自前の制作はほとんどないと思うが、その分他が充実している。新聞は過去に持っていた機能を失いつつあり、その機能のほとんどはヤフーに移っている。ヤフーへコンテンツを提供するコンテンツ制作会社に変わりつつあるのかもしれない。

もちろん、自前で有料サブスクリプション中心に移行できれば3つの機能を持てるが、それができる新聞社はわずかのような気がする。朝日新聞はがんばっている方だと思うけど、スタンダードが毎月1,980円は高すぎる。The New York Times、The Washington Post、The Wall Street Journalなどは定価はそこそこするけど、ディスカウントをよくやっているのでそのタイミングで申し込むと、数百円で済んで全部足しても朝日新聞デジタルの1カ月分より安い

個人的な感想で申しわけないが、朝日新聞デジタルは情緒的、感傷的な見出しのメールを毎日のように送りつけてくるのはやめてほしい。


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