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Kyiv Independent紙が告発 ウクライナのメディアの自己検閲

●Kyiv Independentの告発

ウクライナの独立メディアKyiv Independentは、2022年8月と11月にウクライナ軍が行っている窃盗、セクハラ、暴行、虐待、準備不足の兵士への無謀な任務の強制などをレポートした。そして、2022年12月8日に、ウクライナのメディアがこうした事実を報道しない自己検閲を告発した。

Editorial: Why we choose to publish stories about misconduct in the Ukrainian military、2022年12月8日https://kyivindependent.com/opinion/editorial-why-we-choose-to-publish-stories-about-misconduct-in-ukrainian-military

ウクライナのメディアではウクライナ軍の汚職や不祥事といった話題は書くべきではない、欧米のウクライナに対する信頼を毀損してはいけない、という考え方が支配的であり、戦争が終わるまではメディアは自己検閲を行い、すべてのウクライナ政府や軍に対する批判を先送りしている。

同紙が同じようにしなかった理由は3つ。

1.ジャーナリストは公共の利益に奉仕するものであり、国民は検閲されていない真実を知る権利があり、自分自身で結論を出す権利を持っている。
2.外国人部隊募集に関する記事を同紙は掲載し12万人以上に読まれており、なにかあった場合には事実を伝える義務があった。
3.ウクライナは自由な世界の価値観、すなわち今日のロシアを支配する価値観とは相反する価値観によって生きるために戦っており、言論の自由もその一つである。それを守るために多くのウクライナ人が死んでいるとき、私たちがこの権利を行使しないなら、私たち自身を恥じることになる。

Kyiv Independentの外国人軍隊の記事の内容については、まだすべての事実が確認されたわけではない。しかし、現在進行形で被害を受けたと訴える者がおり、死亡している者もいる。また、行方不明になっている武器もある。これらを独自調査した成果は読む価値があるだろう。

なお、Kyiv Independentの前身であるKyiv Postについては拙著『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)で同紙の記事を紹介し、ジャーナリストたちが解雇された状況も紹介している。ウクライナは国内の情報を統制しているが(戦時中なのである程度は当然)、私が知る範囲で日本語でKyiv Postおよびウクライナの国内メディア状況について紹介している資料はなかった

●ウクライナの外国人軍隊における問題

ウクライナの独立メディアKyiv Independentが、海外からウクライナの戦いに参加している外国人の部隊International Legionにおいて、窃盗、セクハラ、暴行、虐待、準備不足の兵士の無謀な任務の強制などが横行していることを8月と11月にレポートした。
一連の問題行為にかかわっていたのはポーランド人のSasha Kuchynskyと指摘されている。Sasha Kuchynskyは元犯罪組織のメンバーで2000年代初頭、強盗、身代金目的の誘拐、麻薬犯罪、暴行などの罪でポーランドの刑務所に服役していた。Kyiv IndependentのパートナーのポーランドTVNが確認した裁判資料によると、Sasha Kuchynskyは違法な銃器所持、収賄、誘拐、殴打、人質、人身売買、売春など70以上の罪を免れることができた。その見返りに、彼は何十人もの人々を様々な犯罪で告発する広範囲な証言を行った。その後、ウクライナに入った。
Bellingcatの協力を得て、Sasha Kuchynskyは偽名で、本名はPiotr Kapuścińskiであることがわかった。ウクライナの法律では外国人は軍では下士官までにしかなれないが、彼は大佐の肩章をつけ、事実上指揮官としてふるまっている。
Sasha Kuchynskyは部下に略奪を命じたり、無謀な命令で多数の部下を死に追いやったり、部下の虐待、武器や物資の横領、セクハラ行為を行うなどしており、被害を受けた外国人たちはウクライナ政府に助けを求めたが、対応は遅々として進んでいない。Sasha Kuchynsky以外の指揮官もこうした行為に加担している。
イギリス政府も武器の横流しについて調査を進めているようだ。
現場の兵士からの声をいくつかご紹介しておく。
「兵士たちは2つの前線で戦ってきた。1つはロシアの軍隊で、もう1つは汚職だ。ウクライナが勝っている唯一の理由は、ロシアがウクライナ以上に腐敗しているからだ」
「私たちは、侵略に対抗して戦う人々を助けるためにここに来ました。我々は、ロシア人がやっているのと、同じことを行うために来たのではない」

出典
Suicide missions, abuse, physical threats: International Legion fighters speak out against leadership’s misconduct、2022年8月17日、https://kyivindependent.com/investigations/suicide-missions-abuse-physical-threats-international-legion-fighters-speak-out-against-leaderships-misconduct

Investigation: International Legion soldiers allege light weapons misappropriation, abuse by commanders、2022年11月30日、https://kyivindependent.com/investigations/investigation-international-legion-misappropriation

●Kyiv Postとは
同紙の「About」には次のように書かれている。

Kyiv Independentは、編集の独立性を守ったためにKyiv Postを解雇されたジャーナリストたちによって作られたウクライナの英語メディアである。

ジャーナリストたちが解雇されたKyiv Postは26年続いたウクライナの社会派メディアだったが、体制変更後大きく様変わりした。そのへんの事情については長くなるので、次項に記載した。

●Kyiv PostからKyiv Independentへの経緯

ゼレンスキー疑惑の記事などを掲載したKyiv Postの編集部員全員が突然オーナーによって解雇を言い渡された。理由は、26年続いたブランドを使ってウクライナ語の新しいメディアを作るためだという。これに編集部員は激しく抗議している。

Kyiv Post Owner Fires Staff, Temporarily Shuts Down
https://www.occrp.org/en/daily/15454-kyiv-post-owner-fires-staff-temporarily-shuts-down

https://twitter.com/lapatina_/status/1457751274926055431

その裏には政府からの圧力があったという指摘もある。副編集長はそう言い、編集長は否定しているので、どちらとも断定しにくいが、少なくとも政府から圧力があってもおかしくない存在であったのだろう。

Kyiv Post owner got “signals” from Ukraine’s government & law enforcement, former deputy chief editor says
https://euromaidanpress.com/2021/11/11/kyiv-post-owner-got-signals-from-ukraines-government-law-enforcement-former-deputy-chief-editor-says/

同紙のオーナーはオデッサに拠点を置く一大企業グループのオーナーであり、現在オデッサではウクライナ政府肝いりの巨大開発プロジェクトがスタートしようとしている。そのプロジェクトの受注企業にも疑惑が集まっている。

Ukraine spends over $7 billion on road repairs in 2 years, plans to keep tempo going
https://kyivindependent.com/business/ukraine-spends-over-7-billion-on-road-repairs-in-2-years-expects-more-despite-military-threat/


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『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)
『フェイクニュース 戦略的戦争兵器』(角川新書)


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