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グローバルサウス 「中立」の温度差

『何がロシアのウクライナ侵攻を招いたか ウクライナ危機で世界はどう変わるのか』(神保謙、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2022年5月20日)『世界の分断への処方箋はあるか ウクライナ危機で世界はどう変わるのか』(神保謙、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2022年7月20日)を拝読した。
この2冊はシリーズになっており、2つ読むとウクライナ侵攻のこれまでとこれからがわかるようになっている。
46ページ(198円、Kindle Unlimited)と51ページ(346円)と、きわめてコンパクトでお安い。そのため論旨は絞り込まれて明解だ。15分でわかるというのは本当だった。

●本書の内容

『何がロシアのウクライナ侵攻を招いたか ウクライナ危機で世界はどう変わるのか』(神保謙、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2022年5月20日)では、戦争にいたった理由を、『人間・国家・戦争: 国際政治の3つのイメージ』(ケネス・ウォルツ、勁草書房、2015年5月15日)の戦争の因果関係の3つのレベル個人、国家、国際システムから検証している。
・国際システム 経済パワーと相互依存関係は抑止にならなかった。軍事パワーと抑止構造はむしろウクライナ侵攻のハードルを下げていた。つまりウクライナを守れる有効な安全保障制度がなかった
・国家 プーチンを止める国家システムはなかった。
・個人 プーチン個人には4つの動機があった。強いロシアの回復、アメリカとNATOの脅威、ロシア系住民のウクライナでの抑圧、短期間で目標を達成できる自信。
これらの要因によってウクライナ侵攻が始まったと明解かつコンパクトに結論している。

『世界の分断への処方箋はあるか ウクライナ危機で世界はどう変わるのか』(神保謙、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2022年7月20日)では世界を3つに分けて現在と今後についてまとめ、最後に分断の解決可能性について論じている。

・G7プラス アメリカ、イギリス、EU、日本、オーストラリア、韓国を中心としたロシアへの態度を明確にしているグループ。
ウクライナ侵攻で反ロシア親ウクライナで結束を強めた。アメリカと同盟関係にある国が多く、中国への警戒感を強めており、安全保障強化を図っていた。ウクライナの問題とアジア太平洋地域の連動を意識していた。

・中露の磁場 ロシア支持を明確にしているグループ。中露の連携は続くものの、中国が軍事力によって秩序を破壊する行為に出る可能性は低い

・グローバルサウス ロシアに対する姿勢を鮮明にせず、積極的には支持しているわけではないグループ。国の数では3つのグループ中最多である(人口でも?)。多様な国々であり、まとめて言うことはできないが、先進民主主義国が提唱する国際秩序、民主主義的価値感、軍事力や国際介入に関するダブルスタンダードに強い違和感を共有している。

世界はこのように分断されているが、短期的に解消することは難しいと著者は指摘する。G7プラスはグローバルサウスを取り込むための経済協力などのアプローチを開始しているが、G7プラスの価値感を押しつけることは危険だと指摘している。

●感想 グローバルサウスは、ロシア支持というより権威主義を支持

拙著『ウクライナ侵攻と情報戦』では世界をグローバルノースとグローバルサウスに分けて整理したので、シリーズ2冊目の世界を3つに分ける考え方はわかりやすかった。G7プラスは拙著でのグローバルノースと同じだった。
そして、多数派のグローバルサウス諸国にはぬぐいがたい違和感あるいは不信感があるというのも全く同感である。
グローバルサウスの中立には、グローバルノースから一歩距離をおいた姿勢があることを忘れてはならないので、本書で先進民主主義国の価値感を押しつけることに注意を促していることもよくわかる。

「グローバルサウスの中立」の温度感をどうとらえるかは難しい問題で、たとえば「ロシアは非欧米諸国に支持されているのか?」(宇山智彦、日本国際フォーラム、2022年7月20日、https://www.jfir.or.jp/studygroup_article/8835/)状況認識はほとんど同じだと思うのだが、グローバルサウスがグローバルノースの民主主義的価値感に抱いている警戒感をあまり取り上げていないに読める。

実際どうなのかはわからないが、私はアフリカのいくつかの国が国連決議に反してまで北朝鮮と貿易を続けていたこと(https://edition.cnn.com/2017/10/22/africa/north-korea-africa/index.html)や、新疆ウイグル問題での中国支持https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2020/11/post-14.php)、香港問題での中国支持(https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2020/07/post-3_2.php)、ネットガバナンスでの南北の対立(https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2021/05/post-23_3.phpなどを考えると、先進民主主義国の価値感に対する強い反発あるいは警戒心があるように思える。権威主義国が民主主義的価値感を嫌うのは当たり前である。自分自身を否定することになってしまう。
ロシアを支持するわけではなく、権威主義体制を否定するような価値感の押しつけや言動には同調できない。ロシア支持ではなく権威主義支持と言った方がいいかもしれない。最近のようにことさら「民主主義」を前面に出してこられれば離れるしかない。

こうした事情を背景に、権威主義国でも受け入れられる基準を共有しようとする動きもあるようだ(https://youtu.be/cgCe8kqD5m8?t=1266)。





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