石戸諭さんが石戸諭になるまでの軌跡とニュースの可能性

ニュースの未来(石戸諭、2021年8月30日、光文社)
本書の著者である石戸諭さんは、現在もっとも注目されているジャーナリストのひとりで、各種ジャーナリズムの賞を受賞している。
本書の前半部分は東京大学での講義をベースにしている。全体としては、石戸諭がいまの石戸諭になるまでに考えたことと、体験したこと、これからの石戸諭を語った内容になっている。私は熱心の石戸さんのファンではないが、石戸さんの姿勢や語り口は好きなので、おもしろく楽しく読むことができたニュースの業界の内情や課題についても描かれていて参考になった。ニュースやジャーナリストといってもさまざまなスタイルがあるのことが整理されていて参考になった。たとえば下記のようなことが書かれていた。

・ニュース3大基本型
 速報 迅速にリリースする。
 分析 解説、分析する。
 物語 深掘りし、つなぎ合わせ、ストーリーを作る

・良いニュースの5大要素
  ミステリーのように社会の謎を解く。
 驚き 謎で注意を喚起し、解き明かして驚かせる。
 批評 独自の価値観に基づいている。
 個性 自分でなければ書けない。
 思考 感情を煽るだけでなく、思考を促進する。

・ニュース発信者の3分類
 内在型 自分自身の関心を重要にするタイプ。筆者である石戸諭さんもこのタイプ。
 外在型 起きた出来事(事件など)に反応するタイプ。
 専門型 特定の専門分野を持つタイプ。

・ニュースの文体
 従来のジャーナリズム 実際に見たこと、体験したこと、取材したことのみを、そうとわかるように書く。たとえば、「〜によれば」、「〜と語った」という表現が用いられることになる。
 ニュー・ジャーナリズム 事実に基づくが「物語」として語る。小説に近い。たとえば、当事者や関係者の視点で書くこともある。

語られている内容は石戸さんを構成するものなので、他の人にどれくらい適用できたり、参考になったりするものなのかはよくわからない。特に石戸さんの姿勢や語り口を好きではない人にはあまり向いていないだろう。また、私のように好きでも全く異なるアプローチを取っている者には参考になっても適用できない(そもそも私はジャーナリストではないし、なろうともしていないので)。

気になったのは、俯瞰的な視点があまりなかった点だ。ニュースやジャーナリストは社会システムの一部である以上、そことの関係は無視できない。同様にフェイクニュースは国家の関与やメディアのエコシステムとの関係を抜きには語れないし、定義できない。
ただ、石戸さんのアプローチではそうしたことが必ずしも必要ではないということが本書を読むとわかる。うまく言葉にできないのだけど、ニュースやジャーナリストは閉じた世界を持っているような気がした(すごく個人的な感想)。そもそも事実であるかどうかが曖昧な時代において、事実を前提とするニュースやジャーナリストのあり方はどうなるのか気になる。事実を明らかにすることはおそらく不可能な時代になりつつある。
充分な期間をおけばほとんどの事実は覆されたり、検証不可能になる。技術やメディアの変化が短期間で起きている時代にあって、その期間は短くなる。その一方でグローバル化と閉鎖化が同時に進んでいるため、地域によっても事実は異なってくる。
私はこうした構造的な変化が気になっているので、石戸さんのアプローチは参考になるけど、私の関心に適用するのは難しそうな気がした。


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