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Ichi in London

はじめまして、Ichiです。ロンドンを拠点に活動するフリーランスのライターです。日常の小さな発見や、文化の狭間で感じる思いを言葉にすることが私の仕事であり、喜びです。東洋と西洋の…
強いていうなら圧倒的に安いです。
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初めまして

『都築怜の自撮り展』(120円/月) 各種SNS他 Instagram:@rei_tzk 都築怜と申します、はじめまして。 祝日問わず月曜日から金曜日まで、週に5本エッセイを書いては投稿しています。 エッセイを書くことは、僕は脱皮行為に近いと思っている。 自分を取り囲む現象とその内で湧き上がったものを言語化する。 言語化できたものは、客体化することができる。 それと対峙することができる。これがまさに脱皮した殻のようなものだ。 対峙した殻を見る、読む、そして気づく。

キャンバスの向こう側:アートと金銭の境界線を探る

朝日が窓から差し込み、私の目を覚ます。Notting Hillの静寂が、まだ眠りについている街の息遣いを感じさせる。起き上がり、窓越しにArundel Squareの公園を見やる。まだ誰もいない芝生が、昨夜の雨で濡れて輝いている。 コーヒーを淹れながら、昨日見た展覧会のことを思い出す。Golden Squareにある小さなギャラリーで開催されていた新進気鋭のアーティストの個展。彼の作品は確かに魅力的だった。鮮やかな色彩と大胆な構図が、観る者の心を掴む。しかし、その価格設定に

琥珀色の休息 - パブで見つけた精神的な充電方法

ロンドンの夕暮れ時、私は「The Queen's Fox」の扉を押し開けた。いつもの木の香りと静かな会話の音が、一日の疲れを優しく包み込む。カウンター奥の静かなコーナー席に腰を下ろし、オリバーに目配せすると、彼は黙ってグラスとウイスキーのボトルを持ってきてくれた。 「いつもの」と言う必要もない。彼は既に分かっていた。グレンモーレンジィ 18年。琥珀色の液体が注がれる音だけで、私の心は少し落ち着いた。 「今日はどうだった、Ichi?」オリバーが穏やかに尋ねる。彼の目には、い

自己嫌悪 - 古書店の窓に映る自分

雨上がりのロンドンの空気が、いつもより少し重く感じる。窓越しに見える通りは、まだ湿った石畳が薄暗い灰色に輝いている。朝のこの時間、普段なら既に仕事を始めているはずなのに、今日はなぜか机に向かう気になれない。 コーヒーを淹れながら、昨日のことを思い出す。新しく赴任してきた同僚のJamesとの会話が、どうしても頭から離れない。彼の几帳面さと完璧主義的な態度が、妙に気に障った。「なぜあそこまで細かいことにこだわるんだ」と、内心では苛立ちを覚えていた。 しかし、一晩経った今、その

映画の中の私、街の中の映画

薄暗い部屋に、フィルムプロジェクターの光が揺らめいている。『軽蔑』の最後のシーンが壁に映し出され、ブリジット・バルドーの表情が静かに消えていく。深呼吸をして、ゆっくりと目を開ける。ゴダールの映像美に浸りきった後の、あの独特の余韻。現実世界に戻るのが惜しい気持ちと、何か新しい発見をした高揚感が入り混じる。 窓の外では、ロンドンの夕暮れが始まっている。アーンドル・スクエアの木々が、オレンジ色の空を背景に影絵のように浮かび上がる。ふと、『軽蔞』の中でカプリ島を映していたショットを

忙しさの中で、どうゆとりを獲得していくか、という話。

ロンドンの朝は、いつも静かな騒音と共に始まる。目覚めの瞬間、私の意識は量子の重ね合わせのように、まどろみと覚醒の狭間で揺れ動く。ベッドから身を起こす前に、窓の外を見る。アーンドル・スクエアの木々が、朝もやの中でぼんやりと姿を現している。この瞬間、私は忙しさに追われる一日の始まりと、静寂に包まれた朝の永遠性を同時に感じている。 コーヒーメーカーのスイッチを入れる。豆が挽かれる音が部屋に響き、その香りが私の意識を少しずつ現実世界に引き戻す。The Rosemary Garden

眉間の皺

最近、意識して眉間の皺を寄せないようにしている。この些細な行動が、思いがけない結果をもたらすのだ。 ロンドンの朝。窓から差し込む光が、無限の可能性を秘めた量子の海のように揺らめいている。私は目を閉じ、深呼吸をする。眉間の力を抜くと、頭全体の硬直性が一気に消え去る感覚がある。それは、まるで量子の重ね合わせ状態が一気に崩壊するかのようだ。 「おはよう、Nakajima」 私の声に、Nakajimaはただ尻尾を少し動かすだけだ。彼の存在と不在が同時に成立しているかのような静け

夜を過ごした夜の話

朝もやの中、目を開けると、夢の残像が部屋に漂っているような気がした。窓から差し込む柔らかな光が、アーンドル・スクエアの木々を黄金色に染めている。ベッドから抜け出し、窓辺に立つと、小学校時代の同級生と、一度も会ったことのない斎藤飛鳥さんとの不思議な夢の記憶が鮮明に蘇る。 コーヒーを淹れながら、夢の中の三人の関係性を思い返す。豆を挽く音が静寂を破り、現実世界への扉を開くようだ。カップを手に取り、温かい液体が喉を通る瞬間、体が目覚めていくのを感じる。しかし、心はまだ夢の中にいるよ

切羽詰まった環境トレーニング

早朝の霧が街を包む中、私は目を覚ました。時計は5時30分を指している。Nakajimaは私の足元で丸くなって眠っている。彼の穏やかな寝息が、この静寂な朝に小さな生命の鼓動を刻んでいる。 窓の外には、まだ眠るノッティングヒルの街並みが広がっている。古びた建物の輪郭が、朝もやの中にぼんやりと浮かび上がる。この光景は、私にいつも不思議な安らぎをもたらす。 朝のルーティンを始める。15分間の瞑想、そして軽いヨガ。体を動かすうちに、昨夜読んだ本の一節が頭をよぎる。 「切羽詰まった

とりとめもないこと

霞んだ窓ガラスに指で円を描く。ロンドンの雨は、いつも私の内なる世界と外の現実を曖昧にする。今日も、存在と非存在の境界線上で揺れている。 カフェ「The Rosemary Garden」の窓際の席。いつもの丸テーブル。コーヒーの香りと、ページをめくる音。そして、雨音。全てが溶け合い、新たな感覚を生み出す。 「見えてきた世界の解像度を高めていく」―私の指先が、湿った空気を切り裂く。かつて、それが全てだと思っていた。より鮮明に、より正確に。でも今、その努力が空しく感じられる。

わかった気になるエセダヴィンチたちよ。

ロンドンの霧が窓を濡らす朝。私は目覚めと共に、昨夜の夢の残滓を掻き集めようとしていた。夢の中で、私はレオナルド・ダ・ヴィンチのアトリエにいた。彼は未完の「受胎告知」に向かって筆を動かしていたが、その動きは遅く、まるで時が凍りついたかのようだった。 ベッドから起き上がり、窓際に立つ。外の世界は霧に包まれ、建物の輪郭さえ曖昧だ。この瞬間、私の意識も霧の中にいるようで、明確な思考を形作ることができない。それでも、レオナルドの姿が心に残っている。 キッチンに向かい、コーヒーを淹れ

音楽と香水

音楽が部屋に満ちていく。それは、まるで目に見えない色彩が空間を染め上げていくかのようだ。私は静かに目を閉じ、その変容を感じ取る。 アパートの窓から差し込む柔らかな午後の光が、Brian Enoの「Ambient 1: Music for Airports」と溶け合い、新たな風景を生み出している。この曲を聴くたびに、私の小さな居住空間は無限に広がるように感じる。 ふと、香水の小瓶が目に入る。そうだ、音楽は香水に似ている。一瞬のスプレーで、そこにある空気が一変する。今、私の周

情報インプットトライアスロン

8月15日。窓からこぼれる柔らかな光に目覚める。時計を見ると午前7時半。いつもより少し遅い起床だ。Nakajimaは既に日向ぼっこを始めている。彼の存在が、この部屋に静かな安らぎをもたらす。 ベッドから出て、カーテンを開ける。アーンドル・スクエアの緑が目に飛び込んでくる。木々の葉が風に揺れ、光と影が踊っている。この景色を見るたびに、ロンドンに来て良かったと思う。 朝のルーティンを始める。ヨガマットを広げ、深呼吸をする。体が少しずつほぐれていく感覚。姿勢を変えるたび、床板が

忙殺2

目覚めの瞬間、意識が現実に引き戻される。窓から差し込む光は、いつもより明るい。時計を見る。7時32分。「しまった」という焦りと「もういいか」という諦めが、同時に胸の中でせめぎ合う。 ゆっくりと体を起こす。筋肉の疲労が、昨夜までの激務を静かに物語っている。深呼吸をすると、かすかに埃っぽい空気が肺に入り込む。「掃除、いつやったっけ」と思いながら、カーテンを開ける。 アーンドル・スクエアの緑が、朝の柔らかな光に包まれている。ベンチに腰掛けた老紳士が新聞を読んでいる。彼の穏やかな