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高校生だった私が駅に立ち尽くした理由

今年に入ってから、わたしは仕事を理由にマッチングアプリを使っている。

今でこそマッチングアプリやネットで知り合った人に会うっていうのは一般的だけど、数年前はそうじゃなかった。

それで、わたしが初めてネットで人に会ったのはいつだったっけ、と思い返してみたら、存在すら忘れていた傷をえぐってしまった。

というわけで、今回は昔の失恋話をします。


***


わたしがネットを通して初めて人と交流したのは、中高生の時に書いていたブログだった。友達には言わずに、こっそり書いていた。

当時の自分が何を書いていたのかは1ミリも思い出せない。

おそらく黒歴史には違いなく、そうなることを見越してか、当時のアメブロのアカウントは自分で既に削除したようだった。

この文章を書くために色々検索してみたのだけど、どうあがいても、当時のブログは見つからなかった。


高校生だったとき、アメブロで知り合った友達がいた。
関西に住む、一つ年上の男の子だった。名前はもう忘れてしまって思い出せない。

その子が書くブログが好きで、彼はちょっとした憧れだった。今思えばすごくくだらなくて、でも今思い出しても好きだな、と思えるブログだった。

その子のブログには、ありふれた日常をユーモアを交えて見た毎日が綴られていた。

今日はテストだった。
学校帰りにミスドでポンデリングを食べた。
ポンデリングの輪っかを数えたら、今日も8個だった。

とか、そんなんだった気がする。

なぜかタイトルがダジャレの日もあって、それを見て一人で笑ってた。

「この人、めっちゃ面白い!」と思った。

顔も知らなかったけど、「いつか会ってみたいなぁ」とぼんやり思っていた。


いつしか、その男の子とたまにメールする関係になっていた。

ガラケーと呼ばれる携帯を使っていた頃で、メールの受信音や、それを知らせるランプになんだかときめいた。

ある日のメールで、彼が東京に行くと教えてくれた。大学受験のため、東京に来るのだという。おそらくわたしから「会ってみたい」と伝えて、OKの返事をもらった。


会おうと話していた受験本番の前日。

その子に「顔写真を送って」と言われた。「そっちから送ってよ」と伝えると、細身のイケメンが写ったプリクラが送られてきたので、わたしはビビった。

「あんまり可愛くないけど……」と前置きして、ブスでも可愛くしてくれるプリクラの力を信じ、友達と撮ったプリクラ画像を送った。


そこで、返信が途切れた。

「あーー、わたしが可愛くないからかぁ」
って、すぐにわかった。


次の日は、その子の受験当日。

待ち合わせ場所も、時間も決まってないまま、その子からの返信は止まっていた。

授業が終わると、わたしは学校の最寄駅で貴重だったお小遣いをSuicaにチャージし、慣れない電車を乗り継いで、彼が受験する大学の最寄駅に向かった。

「どーせ暇だし」と心のなかで呟きながら、でも「もしかしたら見つけてもらえるかもしれない」という、かすかな期待を捨てられなかったんだと思う。

そうしてたどり着いた駅には、たぶん1時間くらいいた。

田舎者には慣れない東京の駅、受験を終えた学生で混み合う駅前に、ひとり立ち尽くしていた。


その夜、「ごめん!昨日寝落ちして、携帯をホテルに忘れてしまってん(※関西弁はあやふや)」というメールが届いた。

わたしの返事は、
「だと思ったー!(笑)」
だった。全然思ってなかったのに。


それ以来、彼とはほとんど連絡をしなくなってしまったから、彼がその大学に受かったのかどうかも、今どこで何をしているのかも知らない。

ブログも全然更新されてなかったし、その後わたしもそのブログを消してしまった。


わたしは生まれてこのかた好きな人に告白したことがないのだけど、今思うと、それがはじめてフラれた経験だった気がする。

恋愛感情かというとまた違うような気もするけれど。でも、約束もなしに、ストーカーばりに駅に待機してしまうくらいには、好きだったのだ。
そして何より「フラれたんだ!」って感覚だけはあるから、やっぱりはじめての失恋といっていい気がする。


そんなわたしも、もう24歳、いい大人である。

年明けに始めたマッチングアプリを通して、数人の男性に会った。

わたしに会ってくれた人は、ちゃんと、会ってくれたんだとしみじみ思う。
連絡先を交換して2回会ってくれた人もいれば、2回目に会う約束をしている人もいる。

1時間の待ちぼうけもくらわずに、会えるはずのなかった人に会えて、さらに関係が今のところ続いているのが、なんだか奇跡に思える。


もしこれからネットで知り合った人と会うときは、どうかドタキャンしないでね。

嘘でもいいから、「やっぱり会えなくなったごめん!」くらいの連絡はしてほしいな、と高校生だった頃のわたしと一緒に思う。



#エッセイ #日刊かきあつめ


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