コギャル?リリーちゃんを取り巻く話
忘れられない患者さんシリーズ。脳外科編。
学生服で、短いスカートに、ルーズソックスで、入院となったリリーちゃん。
はち切れそうな、太ももに、茶髪のおかっぱで、
いかにも健康的なピチピチ女子高生。
何でこんなところにいるの?
小脳腫瘍との事でした。
研修医が明日、あんな可愛い子にルンバール(髄液検査)しなあかんて…マジで無理っす!
とか言ってた。
みんなが注目するリリーちゃん、オペの為、綺麗な髪を、バリカンで剃るのも、痛々しくて、
見ていられない。
きっとこの時は手術してサッサと退院して、みんなとまた、プリクラなんか撮ったりするコギャル生活に戻れると思っていたのでしょう。
それほど悲壮感は無く。。
お母さんもマダムみたいな人で、優雅な振る舞い。
お父さんは…反対にもやしのように細くて、何だか頼りなげだけど、優しそう。
そんなリリーちゃんの手術が終わって迎えに行きました。
レベルクリア。
四肢麻痺無し。
順調そうに見えました。
ところが部屋に戻ってから、吐き気が止まらなくなり、バイタルが安定しなくなり、ドレーンからの出血量が逸脱しており
レントゲン撮ったら再出血?!
さっきオペ室から帰ってきたのに、
急げ!再手術しないと、まずい!一気に部屋に緊迫感が増す。
モニターつけて、バイタル取って、服脱がせて
私たち急いでいるあまり、機械的になってしまい、リリーちゃんの事誰も見てなかった。
オペ室に向かうまで、美しい女子学生の顔から、目を見開いたまま、真上を見て、ポロポロ涙がこぼれてて、どれほど恐怖だっただろう。
再出血を止めるオペに行って帰ってきた時は自発呼吸が無くて、人工呼吸器を付けて眠り人形の様に戻って来て
やがて脳浮腫が落ち着く頃、呼吸器が外されましたが、高度の構音障害と麻痺が残り、意思疎通が困難な上、嚥下障害も出て
一切の経口摂取が不可能になっていました。
母親がつきっきりになり、パイプベッドで昼夜を共にしていました。
母子共に状況が受け入れられない様子で、されるがまま。
どんどん痩せていき、リリーちゃんは経管栄養をする事になり、鼻から管を通す事に。
しかし、ずっとつけっぱなしは、楽だけど、見た目が嫌だからと、一回一回外したがるので、
私達は、毎回入れるのに苦労をしていました。
麻痺も残ってしまい、こちらの全介助で、リクライニング車椅子に移動するくらいしかできなくなり
床上排泄の日々。
無表情の人形です。
せめて笑ってもらえたら。
お母さんもすっかりやつれてしまった。
お父さんは完全に現実を拒否してなのか、一切来ない。
ところがある日勤の帰り、リリーちゃんのお父さんが、暗い顔で駐車場立っているのが見えました。
気になって仕方ないんだ。
声はかけませんでした。
リリーちゃんの部屋には、友達みんなでカラオケに行った写真が飾られていて、
夜勤中に「どう見てもリリーちゃんが1番可愛いよね!」と、本気で言ったのをきっかけに、
反応してくれる様になりました。
私が女子高生の頃は可愛いと言われることや、美味しいと思うことが好きだった。
そんな事を思い出して
誰かが、飲み込めなくても、味わうだけ味って、吐けばいいんじゃない?
とか言い出して
リリーちゃんに何を食べたいか調査しに行くと、天ぷら
という、難易度の高いもので、
ST(言語療法士)付き添いの元、むせた時用の吸引などを用意して、完全完備して、
天ぷらを少し噛んでは、吐く、少し噛んでは吐く
を繰り返して、必死にやってる姿が可愛くて、
すごく覚えています。
それが成功したら、次は、あれ、これ、と、飲めないけど、噛み砕いて、出すというところまで何とか持ってって
朝昼夕は、経管栄養を繋ぐという事をして、生きていました。
時々噛み砕くのに疲れて寝てました。
結局、施設に転院して行きましたが、ある日突然、こんな事になることもあるのか、でも、絶望せずに生き抜こうとする、天ぷら噛み砕き、吐き、リリーちゃんを、天ぷら見るたびに
思い出してしまうのです。
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