オンライン授業を受けた私は、精神を病んだ。

 オンライン授業について、様々な見解がネット上に溢れている。しかし、私にはどれもしっくりこない。勿論、それらが問題外なのではない。私にとって、一番の問題ではないということだ。

 課題が多い。

 目が疲れる。

 ネット環境が悪い。

 どれについても1000字で語れてしまいそうだが、その気持ちをぐっと抑えて、今日はもう一つの見解を紹介したいと思う。私の体験談に乗せて。


 本来の授業開始日から一か月半ほど遅れて、オンライン授業は始まった。私の大学では、基本的には遠隔授業と呼んでいる。どこの大学でもそうなのだろうか。なんとなくしっくりくる、遠隔授業。

 初めての授業日は、チャット形式、リアルタイム配信授業、課題配信授業の3パターンを体験した。全部で4コマ。リアルタイムでは、学生のビデオと音声は常にオフであるため、一方向型の授業である。

 総じて便利だった。まず、私にとっては、往復4時間の短縮というだけでかなり嬉しい。
 利点についての記事が目立っていないので述べておきたいのだが、普段1限のある日は、5時半に起きて6時台の電車に乗り、3限までなら帰りは17時、4限なら19時、5限なら21時だった。それが、1限でも8時起床で間に合う。24時に寝ても8時間睡眠が可能だ。
 時間に追われていた私にとっては、思いもよらないプレゼントだった。

 さて、話を戻そう。

 1日目の感想。案外いける。無駄な時間がない。

 2日目。この日は2限にリアルタイム双方向型授業、4限にチャットとビデオ通話によるディスカッションがあった。その他に課題配信型が2コマの、計4コマ。

 感想。先生の慣れないパソコン操作のせいか、授業の進みが悪い。しかし、先生を責めるべきでないと個人的には感じている。先生方にとっても、これは急な変更だったのだ。ここは、学生と教員が助け合って授業を作り上げていく必要があると感じた1日であった。

 3日目、午前に双方向型授業が2コマ、午後に課題配信型が1コマの水曜日。

 気が付いた。双方向型は1コマで割と限界。目の疲れに加え、余計な神経を使うからか精神的にもどっと疲れる。ネット環境が悪くなると、またストレス。先生の指示が聞き取れないし、分からないことがあっても誰にも聞けない。
 きつい。

 このあたりで、オンライン授業の短所が、少しずつ表れて来ていた。

 4日目。朝からリアルタイム一方向、授業動画によるオンデマンド配信、午後にリアルタイム双方向が連続で2コマ。

 双方向授業が多すぎる。3限の途中から始まった頭痛は収まるところを知らず、4限が終わったころには、吐き気で横になってしまった。

 これが木曜日の感想。そして問題は夜。眼精疲労からか、なかなか眠りにつけない。初めての睡眠障害であった。

 金曜日、私はプレミアムフライデーと呼んでいる。双方向の授業が一つもないからだ。
 オンデマンド配信による授業は、最も相性が良かった。難しいところで動画をストップできるし、反対に理解できているところは倍速に出来る。メモも適宜取ることが出来るし、分からないところはアンケート機能で簡単に質問できるようになっていた。

 はい、快適。眼精的な苦労がないからか、金曜日の授業はどれも面白くて、興味を持って履修できている。楽しい。オンライン最高。

 土曜日。折角通学の手間が省けるのだから、という理由で履修を決めた土曜日の授業。課題配信型のこの授業も、特に問題もなく、午前中で授業は終わった。


 さて、これが最初の一週間。水曜日に頭角を現し始めた見えないモンスターは、その後急激に猛威を振るってくることになる。

 火曜日。ビデオ通話による授業が始まったが、この授業では最終的に英論文を書くことになっており、それに着手し始めなくてはいけなくなっていた。テーマを決め、リサーチに取り掛かる。

 つまり、パソコンで文字を見る時間が極端に増えることになる。

 通常の授業内であれば、日常の間にちょこっと登場していたはずのリサーチの時間が、今度は常にパソコンを開いた状態で更に続けなくてはならない作業へと変わった。
 この差が、思っていたより大きい。

 授業後英文を読み始めて1時間。もともとの体質もあってか、どうにも頭痛が収まらない。薬を飲んでみたが、パソコンを見続けていることには収まるはずもなく、闘いながらのリサーチだった。

 頭痛を持ったまま火曜日は終了。

 この日の夜、私は次の日の怒涛の双方向型授業への緊張感によって、再び眠れない夜を過ごすことになってしまった。体調への懸念が最も大きい。
 結局、寝不足のまま最悪の水曜日を過ごすことになる。

 案の定、1限の途中から頭痛が始まった。しかし、イギリス人の老紳士は華麗に授業を進めていく。海外の文化について色々なビデオを見せてくれたが、正直画面を見ることがしんどい。頭痛を助長するだけの画面が、私には憎くて仕方がなかった。
 とはいえ、オンラインの授業を休むのは、なんとなく普段の授業を休む感覚と異なる。家にいるのに授業に出られないとは…と、自問自答してしまう。

 なんとか1限は耐え抜いたが、休む暇もなく2限がやってくる。この授業では積極的にディスカッションを取り入れていて、対面式の授業と大きな差のない授業を提供してくださっている。このような状況の中で、本当にありがたいことであった。
 しかし、本来なら苦しめられるはずのない頭痛、そして吐き気を伴いながら受ける授業は、苦痛でしかなかった。ディスカッションでも大した議論を展開することは出来ず、自己嫌悪にも陥ってしまう。
 負の連鎖の始まりであった。

 木曜日。この日も夜は不安感から眠れず、二日間連続で満足な睡眠の取れない日々が続いた。ロングスリーパーでなくても、辛い状況なのではないだろうか。

 積極的な参加を求められる授業。対面同様の質を提供しようと奮闘してくださる先生方に申し訳ないほど、授業に集中することが出来なかった。
 悔しい。自分の不甲斐なさから自責の念に苛まれ、この日の授業が終わると、無意識に泣いてしまっていた。

 思うように動けない身体。誰にも助けを求められない状況。でも、誰も悪くない。どうしていいか分からないまま、泣き続けた。

 しかし不思議なことに、その日はよく眠れた。何週間後かに気が付いたのだが、金曜日はストレスがないため、木曜日は何の心配もなく眠りにつけるのである。これは、日曜日の夜も同様であった。

 このように、中三日が辛いが、その後は回復してしまうため、自分の精神状態に向き合うことが出来なかった。重くとらえ始めたのは、その少し後のことである。

 理由もなく泣いてしまう。夜眠れない。頭痛と吐き気が止まらない。ふらふらして歩くのがつらい。食欲がない。何も考えられない。思っていることを言葉にできない。
 思い出せるだけでもこれだけの症状が、気がつくと私を襲っていた。その頃には、パソコンを開いてものの数分で吐き気が止まらなくなっていた。

 しかし、バカが付くほど根に真面目がある私は、授業を休んだり予習をさぼったり、課題を後回しにすることが出来なかった。どんなに辛くても、その日のうちに必ずやるべきことは終わらせ、必要以上の予習をし、万全の状態で授業に挑む気持ちを忘れることはなかった。
 それが仇となっていることにも、気が付かないふりをしていた。

 ある日、私の身体はついに機能しなくなってしまった。皮肉にも、それは金曜日の出来事であった。身体が勝手に、火曜日から木曜日を耐えるようにプログラミングされているようにも思えた。

 全く何も手につかない。起き上がれない。何も食べたくない。よくわかんないけど辛い。何が辛いのか分からない。苦しい。なんで?分からない。大粒の涙が頬を伝い、嗚咽が漏れた。そこで初めて自覚した。

 オンライン授業、辛いな。

 どこにこの辛さの原因はあるんだろう。誰のことも責められない。誰も悪くないのに、みんなが悪いみたいな感覚。


 もやもやとしたまま、今日も頭痛と共に4コマを乗り切った。
 明日も頑張ろう。明日も耐えよう。

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