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夏の朝に夏の夜を感じた話

もう6年も前だ。

仕事が終わったあと特急に乗り、都内に住む友達と会ってお酒を飲みながらたくさん話をした。
店内はそれぞれテント張りのような個室で居心地がよかった。
そういう予定が入るのも、夏らしくてとてもよかった。

日付が変わるころまでそうして過ごし、御茶ノ水駅近くに予約をしていたホテルにチェックインした。
外泊をするといつもなら中々眠れないのだが、その日はシャワーを浴びて早々に深い眠りに入っていった。
ホテルで文字通り「寝るだけ」の利用をしたのはあの時ぐらいかもしれない。

そうして朝、最高の気持ちで目が覚めてフロントで朝食券を出した。
案内された会場は居酒屋で、座敷席には他に誰もいなかった。
お粥や煮物が出てきた。

テーブルの上には当然だが居酒屋らしいメニュー表が置いてある。
それを見た途端に夕べの情景が再生される。
人で埋め尽くされた座敷、料理で埋め尽くされたテーブル、声で埋め尽くされた室内。
その熱量を感じ取り、楽しいような切ないような、脆い感情が生じた。

室内はひんやりとして薄暗く、外からはミンミンゼミの鳴き声が聞こえる。
夏が永遠に続くような錯覚を憶えた朝だった。

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