「空が青いから白をえらんだのです」
「空が青いから白をえらんだのです」
高校生のとき、本屋さんでこのタイトルを見て、思わず手に取った。
本の表紙には「奈良少年刑務所詩集」と書いてあった。
当時少年犯罪の問題に関心のあった私は迷わず即買いした。
今この本が手元に無いから記憶でしか書けないんだけど、受刑者たちの更生プログラムの一環のような形で書かれた詩を書籍化したものだったと思う。
どれも、すごく純粋なことばだった。
「愛されたい」「愛されたかった」って言っているように思えた。
「空が青いから白をえらんだのです」
というこの本のタイトルも、その中の詩のひとつ。
この詩の題は「くも」だったと思う。
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この詩集が気になって調べるうちに、どうやら奈良少年刑務所では、毎年「奈良矯正展」というものが行われているらしいということを知った。
「奈良矯正展」とは、奈良少年刑務所で毎年開催されている、全国の受刑者たちが作ったものを販売するイベントのことだ。
販売だけでなく、見学ツアーや、少年刑務所で働く人たちの仕事内容の展示など(曖昧でよく覚えてないけど)とにかく色々なことをしていたと思う。
矯正展のことを知って即行ってみたい!と思ったが、そうそう休める部活ではなかったためその年は断念。
一年経った高校3年の9月。
やっぱり私は行きたいと思っていた。
とはいえ受験期真っ只中、親に
「ちょっと奈良の少年刑務所行ってくるわ」
とも言えず、前日まで悩んだ末に
「ちょっと同志社大学(京都)見学してくるわ」
という口実で往復の新幹線代をもらったのであった。
新幹線で京都に降り立ち、同志社大学には目もくれず(ゴメンナサイ)、奈良行きの電車に直行。
奈良少年刑務所は、駅から少し坂を上った高みの場所に、ズンと立っていたと思う。
坂を上ったせいか、奈良の立地のせいなのか、晴れた空がすごく広く見えた。
「空が青いから白をえらんだのです」ということばはこの場所で紡がれたんだなあと、その人を少し近く感じた。
いろいろまわって見た後、マルゴクマークのスマホ入れを1つ買って帰った。
帰りの新幹線で、一緒に持ってきた詩集を何度か読み返した。
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去年の3月、奈良少年刑務所は閉鎖され、ホテルに作り替えられることがニュースになった。
まさか閉鎖されるなんて思ってなかったから、突然のニュースに驚いた。
もう、あの時私が見た景色はなくなるのかって思ったら、少し寂しくなった。
でも、あの時行ってなかったら、私はもう矯正展のことなんて忘れて、「そういえばあの刑務所の詩集を読んだことがあったっけ」と、しばらくして思い出すくらいだったかもしれない。
「どうしても行きたい!」と思うほどの熱量は、消えてしまっていたと思う。
あの時、嘘をついてでも行ってきてよかったと思った。
(帰って、刑務所でもらった資料やらなんやらを置きっ放しにしてたから即バレしたけど、笑)
初めての1人旅。
すごく楽しかった。
「空が青いから白をえらんだのです」
このことばを紡いだ人、
空が青くてよかった
白をえらんでよかった
と、幸せな顔で、今度はホテルとして、またあの場所に行ってくれる日があればと思う。
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#旅する日本語 の「碧空」ということばを見たときに、スっと、この詩と1人旅の記憶が数年ぶりに思い起こされたので書いてみました。
このエッセイじゃ長すぎるけど(笑)、もっとまとめられたら書いてみようかな。
チャオ('ω')ノ
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